第四話「ポテトサラダ」

  

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深夜の食堂でマスター(小林薫)が最初に作るのは、ポテトサラダとマカロニサラダ。近頃たまに来るようになった男(風間トオル)がいつも注文するのもポテトサラダだった。店で食事をしていた若者、田中(田中聡元)は、男が伝説のカリスマAV男優・エレクト大木だと知り、その場で弟子入りを志願。
困った表情の大木だったが、若者の一途さに押し切られる形で師弟の関係になった。ある夜、デビューを明日に控えた田中のもとに電話が。田舎の母親が倒れたのだ。軽い脳梗塞という事で気楽にかまえていた田中に大木は激怒。そこには彼なりの深い理由があった。(公式サイトより抜粋)
 
 
懐かしの味、ポテトサラダ
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執拗に自作のポテトサラダを勧める鎌田氏。
 鎌田「ではポテトサラダ、食べてもらえるかな?」
 倉田「はい・・・あれ?・・んっ!おっ!美味しいですよ!」
 鎌「ねっ!でしょ!粉チーズ振ってオレガノ振って!ね!ね!」
 倉「お弁当屋さんのポテトサラダみたいで美味しいです」
 鎌「良かったアアア!!!」
 倉「では多めに入れておきますが、鎌田さん手作りポテトサラダは
   四話目まででの手料理の中では一番美味しかったです(笑)」
 鎌「ありがとう!!!」
 倉「では今日の僕のトークはこれで終わり、という事で(笑)」
 鎌「(爆笑)」

ポテトサラダを作るマスターの姿に、
 鎌「ポテトサラダって酒のツマミに合う?」
 倉「僕は大好きですね」
 鎌「俺、ダメなんだよな・・」
 倉「飲み屋で見つければ頼みますね僕は」
 鎌「俺はご飯のおかずなんだよなあ、ポテトサラダって」

ヌードの女性とともにエレクト大木(風間トオル)登場。
 鎌「阿部寛って、男性モデルから役者に転向して成功した例だけど
   風間トオルさんは男前だけど未だに演技が・・・(笑)」
 倉「それはその・・本当に・・(笑) 男前だけで進みすぎたせいも
   あるんでしょうね。でもこの作品での風間さんは良かったと
   思います」
 鎌「あ、乳首だ!久々にテレビで乳首見たな。最近のドラマはもう
   必ず隠すよね。ストリッパー(マリリン松嶋)より可愛いぞ?」
 倉「それも演技が出来るかどうかの違いでは(笑)」

エレクトに弟子入りを願う田中(田中聡元)。そして弟子入りが決まり、
 倉「あの、AV男優の世界は弟子入りシステムなんですか?(笑)」
 鎌「どうなんだろうね」
 倉「そんなシステムあるんかなあ?」
 鎌「しかし聡元さんだけじゃないけど、無名に近い良い俳優をこの
   ドラマはよく連れてくるなあ。でもなんでいつも田中はノース
   リーブなんだ!?(笑)」
 倉「マッチョで絶倫感を出したいんですかね(笑)」

ポテトサラダを懐かしい味と語るエレクト大木に、
 倉「僕もそうかもしれません。ポテトサラダは実家の味、おふくろ
   の味で、カレーや味噌汁と同じ様に感じています」
 鎌「俺は近い場所に母がいるし、未だに食べられちゃうからそうい
   うのが薄いんだろうね」

母が危篤になった田中に、何が何でも帰れと告げるエレクト大木。
 倉「いい師匠ですよね・・・」
 鎌「俺はリストラになったじゃない?でねこの弟子のような、よく
   言う事を聞く可愛い部下がその頃にいたんだよ。でも寂しいも
   んで俺もその部下もリストラされて最後は関係も崩壊してね。
   人間、環境が変わると変わってしまうからね・・・だからこう
   いう関係が続けていけるというのは羨ましいよ・・」
  
 
今、この時を大切に、両親と生きること

 倉「母役の佐々木すみ江さんと風間さんのやり取り、食堂でエレク
   トさんの語り、黙って観続けてしまいましたね二人とも(笑)」
 鎌「田中君役の田中聡元さんもいい表情していたよね・・ちょっと
   間抜けそうなところとかも。クラスに絶対一人居そうなね」
 倉「そうですね・・」
 鎌「俺はこの話を観るのは四回目くらいだけど、初回は号泣だった」
 倉「僕も初めて観た時はほろほろと泣けました・・これまでの話は
   線を引いて観れていたんですが、この回はまさに今の自分の状
   況と何処か重なる様に思えて。今も僕は東京で胸を張れる気が
   していないので・・」
 鎌「そう・・」
 倉「東京で根無し草の様に生きていて。数年前には田舎のワンマン
   社長のようだった父が倒れ、母も高齢なので、もしこうなった
   場合を考えると、胸が苦しくなります・・」
 鎌「俺の父も脳梗塞だったんだよ。同時にアルツハイマーを併発し
   てね。正にドラマ通りでね。介護施設に会いに行っても俺の事
   が分かるのかどうかは分からなくてね。コミュニケーションが
   取れない事は辛かったね」
 倉「それは辛いですよね・・」
 鎌「俺は色んな場所や機会で話してきているんだけど、親父とは
   ずっと不仲だったんだよね。最後に分かり合える事も無く、
   死んでしまったから・・・それは残念だったよ。倉田君のとこ
   は良好な関係ではあったの?」
 倉「そうですねえ、別に諍いなどはありませんでしたが、ウチは兄
   弟が多く、僕は末っ子だったので父と二人で遊んだという記憶
   はそれほど無いんです。自営業の仕事が一番忙しい頃だったよ
   うなので。それは仕方ない事だと理解していますけど」
 鎌「そうかあ・・・」
 倉「一つだけ。父がバリバリの頃、僕も映画への情熱だけで生きて
   いた25、6の頃ですかね。実家に帰った際、町内やらの宴会で
   僕も古くから知るおじさんおばさん達が父に、息子さんは東京
   で何をやっているかを聞いた時、父は僕が同じ場所にいるのに
   も関わらずアイツは東京で何をやってるのか分からねえ!と大
   声で罵られる様に言われた事は今でも焼き付いてはいます」
 鎌「みんなの前で、か・・」
 倉「そのせいで今でも父には理解してもらえているとは思えていま
   せん。それで見返そうと思ってやってきた矢先に、父は認知症
   では無いですが病のせいでもう別人の様にパワーを無くしてし
   まったので僕の中には不完全燃焼の部分は正直あります」
 鎌「でも羨ましいと思うのは、このドラマと同じ様に俺の父もボケ
   てしまったんだよね。エレクト大木の母と同じ年齢くらいだっ
   たんだよウチの父も。何も理解が出来なくなってコミュニケー
   ションが取れなくなってね。ホント、死を待つだけだった・・・。
   まだそれが可能な事はね・・・」
 倉「はい・・・・・」
 鎌「俺は自分の母に照らし合わせてこのドラマを観ていたんだけど。
   元気な母ではあるんだけど、さすがに年齢が高くなってきて
   からは、サラリーマンで営業バリバリやり、会社に居る時は
   シャンとしているらしいんだけど、家に帰ってからのプライ
   ベートの時間というのは色々ヘマもやるようになったんだよね。
   気丈で、努力家で、何でもテキパキとこなすスーパーウーマン
   だったんだけどもね、ウチの母もどんどん老いていくんだなと
   今は実感している日々なんだよね。今この時を大切にしていか
   ないと母も何時どうなるか分からない訳だからね・・」
 倉「僕も母には多くの応援と支援を頂いてきているんですが、母も
   年齢は鎌田さんのお母様よりずっと多いですから、恩を返したり
   何かを伝えられる時間はそれほど無いのかなとも・・」
 鎌「このドラマに沿った話をすると、俺も33までフラフラしていて
   音楽でも稼げてはいなかったし、定職にもついていなかった。
   でも父も母も、このドラマの様に息子を嘆いたり恫喝したりと
   いう事はなかったんだよね。それはありがたかったな。せっかく
   借金して行かせてくれた大学も中退しちゃったし、音楽で頑張る
   だなんて言っちゃって、そしたら精神的な病に僕はなって倒れち
   ゃったりして色々あったんだけど。でも子供がどう生きるかとい
   う点については寛容なところがあったね。だから倉田君のような
   苦しみはなかったね」
 倉「いや僕も苦しみなんていうのはなかったですけど、ウチは田舎で
   すし、実家も自営業をやり、兄弟も真っ当な職業に就いています
   から、それらから僕自身でいい加減な生き方をしている様に思い
   込んでしまっているふしはあると思います。でも母には本当に応
   援し続けてもらっていますから本当に感謝しています。
   誠実な兄弟達にも。そして父にも」
 
 
賛同を得られていない人々

 倉「この話は、第1話に近いですよね。直球で自身の過去と向かっ
   て彼はポテトサラダを食べていた訳ですから。20年実家に帰
   っていないとエレクト大木は言ってましたよね。僕も彼と同じ
   様にポテトサラダは家庭の味なんで、僕も思い入れは強いです
   ね。別に母もポテトサラダに大して何かをしている訳ではなか
   ったんでしょうけど、でも家の味ってあるんです。その味を定
   食屋や飲み屋で探すというのはありますね。まあ不味いとこの
   はホントマズイんですけどね(笑)」
 鎌「俺は不味いポテトサラダを出す店が多いから頼まないっていう
   のがあるんだよね」
 倉「そうですよね・・。ベチャ~としたのとか。でも最近は美味し
   いポテトサラダを出す店も増えたと思いますよ?」
 鎌「何か、親がボケてしまうというテーマの映画やドラマってここ
   数十年で増えたよね。そして全然泣けない、感動できないドラ
   マも多いんだけれど、この回はちょっとキたね・・・」
 倉「多分、かなり突飛な職種、AV男優という職業に大木は就いて、
   少し引け目を感じている様に思えますが、普通のサラリーマン
   をやっていても例えば親族が代議士ばかりとかだったら、それ
   でも自身を卑下してしまうかもしれない。そういう事を分かり
   やすくする為に、敢えて極端な、嫌われる様な職種に設定して
   いるんだろうと僕は思います。職業に関わらず、家には帰られ
   ない理由を持つ者、自分のやっている事が家族などに賛同を得
   られていない者、自身でそう思い込んでいる人間、それらには
   身につまされるものがあるのではないかな?と」
 鎌「うーん・・・」
 倉「そして尚且つ、最後には親が認知症になってしまっていると
   いう・・。凄く要素が揃っているなと感心してしまいました」
 鎌「そうだねえ」
 倉「後、エレクト大木が実家に帰って、認知症の母と再会する所は
   回想として処理されていますが、僕はこの「深夜食堂」ならば
   地続き、いわゆる時系列通りの配置でやって欲しかったという
   のが正直な気持ちでした。作為的な感はどうしても回想という
   手法では付きやすいのでもう少しストレートに観たかったです」
 鎌「ふむふむ」
 倉「最後、食堂での語りが回想の説明として流れてしまっていた
   じゃないですか?それが勿体無く感じたんですよね。全部エレ
   クト大木の行動を時系列通りに観客には見せておいて、食堂で
   大木に語らせた場合、その言葉一つ一つを想像しながら、彼の
   重みを感じながら聞けたのではないかと。それは食堂に集って
   いた客と同じ様に。ま、時系列通りにして面白いかどうかはや
   ってみないと分かりませんけどね(笑) ただ「深夜食堂」では直
   球勝負でいいんでは?とも思えてしまったので」
 鎌「なるほどね」

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人生の負い目、引け目

 鎌「師匠と弟子の話なんだけど、自分の仕事に負い目引け目を感じ
   ている人間は弟子は取らなかったと思うんだよね。母は許して
   くれない、敷居をまたがせてくれない、妹の結婚式は参加させ
   ない。でもそのAV男優という職業を辞める訳でもない。辞めら
   れなかっただけかもしれないけど。それで弟子を取る、教える。
   だから自分の仕事に負い目引け目は、実は無かったんじゃない
   かと思っている。100%ではないかもしれないけど。弟子を取る
   っていうのはソイツの人生を背負うって事だから」
 倉「そうですね・・」
 鎌「この話の弟子も献身的に師匠に付いていく訳だよね。そういう
   関係っていいものだよね」
 倉「僕は引け目が無かったとは思えていないんです」
 鎌「ほお」
 倉「引け目を背負っていた上で、それでも長い間やってきた職には
   やはり誇りはあったと思うんです。それでも引け目はある。
   そこで、自分に本気でぶつかってきて、自分のやってきた事を
   学ばせてくれと土下座までした彼だったから弟子にしたんだと
   僕は思うんですね。真に嬉しく思えたんじゃないかと。弟子を
   取ってからの大木さんはそれまでの顔とは全然違う、優しい表
   情を浮かべていた所からもそう感じました。引け目を感じてい
   たこんな僕を、こんな僕の仕事を、素晴らしいと言って弟子入
   りを願ってくれた田中君が、それまでの大木さんの心の何処か
   を救う事にもなっていたのかな、とも」
 鎌「そうかあ」
 倉「弟子の母が危篤の際にも、あそこまで「帰れ!」と言えたのは
   ただ弟子を取ったという事ではなかったようにも思えます」
 
 
悔いが残らぬよに、感謝と、言葉と・・・

 鎌「親って、色んな原因でこの世からいなくなってしまうものだよ
   ね?例えば俺の友人の父は、全然元気だったのにある日突然
   心臓発作で亡くなられて。だから親って何時、何処で今生の別
   れになるか分からない所があるんでね、僕自身は悔いの無いよ
   うに親にはしてあげないとな、と思っているんだ・・」
 倉「僕の両親は近くにはいないので、その点はいつも悩んでいます。
   兄弟がいる事で救われている事も多いんですが、この時代です
   から遠いという程ではないですから、両親には悔いが残らない
   ように向い合っていきたいですね。僕なりの感謝の返し方で」
 鎌「結局は人間て、その人が何を職業にして生きてきたかは、関係
   がないからね」
 倉「でもまだ僕はそれを職業で探そうとしていますね。何をしてい
   ても俺は俺だ!とは・・・まだ自分が何者かも掴めていないので」
 鎌「このドラマのボケた母も、いい思い出しか語らないじゃない?
   そこがいいよね。人間て悪い事もするし良い事もする。感謝さ
   れる時もあれば迷惑に思われる時もある。最後、エレクト大木
   に母がボケても辛い言葉を発していたら、きつかっただろうね。
   あの子は良い子だったと言ってくれたからね」
 倉「穿った作家の目線として捉えてもらって構いませんが、あの
   場面で母の言葉はどちらが彼には良かったのかな?なんても
   考えてしまいました。もしもボケて尚「あの子はダメだ」と
   言われた場合、前までエレクト自身が抱えていた、決め込ん
   でいた負い目の部分は変わらないので、前の自分のままで居
   られたかもしれません。でも心底で母が持っていてくれた温
   かい想いを知って、見方によっては救いが無くなったとも読
   めるんです」
 鎌「へえ~救いが無くなった」
 倉「新たな事を知ってしまった訳ですよね?それをボケてしまっ
   た母から。そしてそれは取り返しがつかない。これからエレ
   クトさんがどんな生き方をするかは分かりませんが、悲しい
   結末でもあるとも思うんです。どちらが良いとかではないん
   です。人は真実を知って生きた方が良いという考え方も間違
   ってはいないですし、前のまま変わらない方が幸せだという
   考え方もあると思うんです。そんな分岐点はこのドラマの中
   では何個かあったな、とは想いました」
 鎌「う~ん・・・」
 倉「・・・それでも、ずっと否定されてきたエレクトさんは母に
   ああいう言葉をもらえた事で、救われていくんでしょうね」
 鎌「俺の親父はボケて死んでしまったんだけど、もし口がきけた
   として「オマエは良い子だったよ」って言われたら泣いたか
   もしれない。それまでの恨みつらみ忘れて抱きしめたかもし
   れない。逆だったら救われないよ・・・」
 倉「僕も、僕自身ではそう思っています。褒めてもらいたいです。
   ただ作家として、人生を冷静に、冷徹に見つめた場合、どちら
   が本当にいいのか?とは考えずにはいられなかったので」
 鎌「そうだね・・・必要な事だよね」
 倉「では今回のシメを」
 鎌「はい。老いってどうにもならないものだよね。誰しも老いる。
   俺にとって、今非常に辛いのは飼っている猫のナミがもうすぐ
   死んでしまうという現実があって。誰しも老いて別れがあるん
   だけれど、ナミとは16年、母とは42年積み重ねてきたものが想
   いがあるから、色々悩みや苦労があったりもするんだけど、誰
   もが悔いのない別れをしたいと思っているんだろうけど。
   それを他のドラマとは全然違う印象で語ってくれたなあと、
   本当に思うね」
 倉「そうですね・・。僕も、悔いの無いように、胸を張って両親の
   最後には会える様にはしたいです・・・」
 鎌「俺も観ながら演出には色々思ってみてはいたんだけど、これを
   松岡監督が撮っていたら、また違うものになっていたのかもし
   れないけどね(笑) でも脚本や原作、その根幹がしっかりしてい
   ると、魅せるもんだよね。これはよくあるテーマのドラマなん
   だけど、この作品は胸を掴まされるじゃない?何処が、なんだ
   ろうね?何処が他の作品と異なっているんだろう?」
 倉「最終話までで、その特異点を是非とも見つけたいですね!」

  (編集部注:鎌田が子供の頃から、彼の父は浮気、家出、離婚、
   復縁を繰り返し、家に金を入れることもなかったため、長男
   の鎌田とは子供の頃から不仲が続いていた。ようやく鎌田が
   大人になり和解もあり得たかもしれなった頃、父は不摂生が
   たたったのか、50代にして脳梗塞とアルツハイマーを発症、
   鎌田と意思の疎通は不可能になったまま一昨年、64歳で死去)
 

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第五話へつづく・・・
 




 

2010.08.16