渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・寅次郎頑張れ!」35㎜フィルム上映

文・鎌田浩宮
動画撮影・清水mimo見守
写真・大島Tomo智子/鎌田浩宮
ポスターデザイン・名小路naco雄

上映後の
打ち上げは

この映画の話で
持ちきりさ。

 

母と暮せば」は、少し残念な作品だった。
先日、大阪にいる山田洋次ファンと話をしたのだが、同意見だった。
浩二を想い続けている町子が、なぜ新しい人生を歩もうとなったのか、その心理描写が乏しいのだ。
あれほど浩二とその母を想っていた娘なら、相当の葛藤があったはずなのだが、その描写がないため、僕ら観客が感情移入できないのだ。
それは、町子を想い続けていた浩二の心理の変化にしても、同様だ。
あれほど愛していた町子を、「原爆で亡くなった皆の願いだから」と、容易に心境の変化が訪れるとは思えない。
町子同様、相当な葛藤があったはずなのだが、その描写がない。

僕は、震災が遠因で、息子同然だった愛猫を失った。
それから4年以上が経ち、頭では、新しい捨て猫を飼って面倒を見てあげることが供養になると分かっていても、心がそれを許さない。
あの子以上に愛せる子などいないし、あの子以上に愛せてしまったら、あの子に申し訳ない。
そんな僕と浩二の気持ちがだぶり、映画が始まってすぐに涙が止まらなくなったのだが、段々涙は乾いてしまった。
浩二と町子の心理変化に、ついて行けなかったからだ。

小諸の仲間は、どう観ただろう?
我らがココトラ代表・轟屋いっちーこと一井正樹は、山田作品を全部観たわけではないけれども、監督作品の中で生涯心に残る最高の作品だと答えた。
浩二や町子の心の移り具合も、共感できたそうだ。
他にも、終始泣きっぱなしだったというメンバーもいれば、微妙な感想を漏らすメンバーもいた。

それにしても、1つの映画について、熱く語るのは楽しいね。

 

小諸じゃ
カマキリが
教えてくれるだに。

 

それにしても、小諸は寒い。
夜などは、手袋をしていないと手がかじかんで痛くなっちまうし、そもそも東京では、息が白くならない。
しかし、懐古園では梅が咲いてしまったそうだ。
浅間山にも、雪が積もっていないじゃないか。
スキー場は、困り果てているだろう。
暖冬。
異常気象。

でも、大好きな小諸の居酒屋・寅さんで美味しい地酒と肴を楽しんでいると、不思議な話になった。
数年前の記録的な大雪の時、普段は地面近くに巣を作るカマキリが、1m以上もある木の上に巣を作ったそうなのだ。
雪が積もることを予知していたそうなのだが、この暖冬の今年も、高い場所に巣を作っているというのだ。

暖冬だからこそ、ある時、ドカ雪が降る。
小諸の人々は、本気で憂いていた。

さあ、そんな正月の中、お客さんは一体、どのくらい来てくれるのだろう…。

ちなみに、これが2016年上半期の「寅さん全作フィルムで観よう会」のポスター。
キャッチコピーは、5案作り、リサーチをして1番評判の良かったものにした。
街中に、貼られます。
柴又など、都内にも貼ってもらう予定です。

 

新春、2016年1月9日。
晴れた。
寒いけれども。

 

11時45分に集合、朝礼。
円陣を組んで、かけ声をかけて、それから会場設営を開始する。

今回は、僕を含め2人が骨折などの体調不良のため、机やいすを運んだりの力仕事ができない。
限られたスタッフで、どれだけスピーディーに設営できるか。
何しろ、数時間前までは合気道の練習場として貸し出されたホールを、映画館に仕立て上げるのだ。

車椅子で来られる方のための駐車スペースも、手作り。

 ホールの空調だけでは全く暖かくならない。ストーブも灯油も持ち込み。

新春限定、おしるこも100円で売り出す。
お餅の代わりに柴又風の草団子を入れる。

地元のたい焼き屋と提携し、これも売り出す。
いくつ仕入れるか、赤字にならないように。難しいところだ。

小諸という街は、大きくて小さい。協力し合って、宣伝していく。

少しでも赤字を解消するために、街の各所で前売券を販売してもらっている。

かと思えば、「母と暮せば」の前売券も販売する。

正面スクリーンの両脇にも、花が生けられる。

力仕事は任せて、音響とPCプロジェクターのセッティングに専念できたので、僕個人はすこぶる順調に設営できた。
全体の設営も、見事に時間内に完了。
メンバーの1人が、早朝に1升のお米を炊いて作って来てくれたおにぎりを、皆でいただき、舌鼓を打つ、つかの間の昼食休憩。
1升炊くためには、5合の炊飯器で2回炊くそうだ。
僕のように東京から来る者は、昼食をとる時間もないまま会場入りするので、本当に助かるんです。
ありがとうございます…。

 

2時30分、開場!
最初の10分を
見ただけで、
今日の客足が
いいか悪いか、
分かるようになった。

 

渥美さん、倍賞さん、吉永小百合さん連名の色紙を持って来たお客さん。
有難い事にこの色紙は、我々に寄贈された。
渥美清こもろ寅さん会館再開の際には、きちんと展示させてもらいます。

我らがココトラ代表・一井正樹
本当は紋付き袴をレンタルしたかったが4万もするため、
お客さんに笑ってもらえるような扮装にしたのだ。

そんないっちーによる、新年のご挨拶。
拍手、嬉しいねえ。
今年も世の中では、いろんなことが起こるだろう。
そんな中でも、皆で暗闇で、笑って泣いて、を続けていきたい。
そんな挨拶だ。

 

ワット君の、
内なる炎が、
とらやも燃やす。

 

1977年公開の第20作「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」。
当時人気絶頂の青春スター・2枚目の中村雅俊が、真逆の内気で冴えない若者・ワット君を演ずる。
それを懸命に受け止めるのは、撮影当時19歳の大竹しのぶ

ドジだ。
間抜けだ。
タイミングも悪い。
真面目だけが取り柄。
穴があったら、入りたい。
顔から、火が出そうだ。

誰もが、そんな青春時代の恋を体験していないだろうか?
僕は、した。
何度も、した。
そんな、不器用で、苦くて、懐かしくて、抱きしめてやりたいような思い出を、甦らせてくれる映画。

今日のお客さんは、かなり少なめの34人。
でも、せっかくの正月の3連休を、毎月楽しみにしているとお越し下さった方々が、はるか昔の自分を抱きしめてあげる時間にして下されば、と心から願います。
そして、せっかくの新春を、この上映に費やして下さったこの34人に方々を、決して忘れてはならない。

そして一方寅さんは、そんな恋を、子供がいてもおかしくない齢になっても、まだしている。
おいちゃんもおばちゃんも、みっともないねと嘆く。
ただ、さくらと博だけは、温かい眼差しで、寅を見守る。
そんなおじさん、いたっていいじゃないか!

そんなような事を、上映後のアフタートークで喋った。

さあ、来月の上映の頃は、ドカ雪に見舞われてないか。
カマキリ君、教えてくれないかい?


2016.01.10