忌野清志郎ロックン・ロール・ショー渋谷公会堂2015

写真/文・鎌田浩宮

心眼で
観るべき
ショー。

 

7回忌?
違うよ、キヨシローは銀河ツアーに行ってるんだぜ。
箭内さんも言っていたけれど、俺も命日とかそういう呼び方、嫌だな。
それにしても、7ってのは、そんなにめでたい数字なのかい?
今年はメディアがこぞって、特番を組んだり、記事を書いたりしている。
偉いぞ、NHK。
お礼に受信料、払ってるぜ。

とにかく、チャボが出るんなら必ず行く、というのが基本スタンスだ。
5月2日の、ロックン・ロール・ショー。
細野さんや陽水が出るのも、観たい一因。

ポールのライヴは、60代が中心層なれど、若い男女も親子連れも来ていた。
この日も、そんなニュアンスがある。
俺の席の両隣は50代くらいの男性だ。
加齢臭が気になるのは、先日のかしぶちさん1周忌追悼ムーンライダーズライヴと同様。
だけど、ひょっとしたら臭いの元は、俺なんじゃねえか?
脇の下を、嗅いでみる。

客入れのBGMは、RC最初の2枚のアルバムから。
キヨシローの全歴史を追って流してくれると、もっと感慨にふけることができるんだけれど。

皆スマホンで、舞台のヒトハタウサギを撮っている。
自撮りってのをしてる人も、いる。
キヨシローが旅立ったころはまだ、スマホンなんてなかったんじゃないかなあ。

俺はまだこのショーを、悲しみの側からしか観られない。
皆で盛り上がって、キヨシローの歌を楽しもう、そうすることによってキヨシローも喜んでくれるんじゃないか、という心境に、もう6年も経ったのに、まだなれない。
チャボでさえ、笑顔を取り戻しているのに。
この今、キヨシローが銀河から帰ってこないことが、未だに悲しくて寂しい。

ハウスバンドに、チャボと、ブルーデイがいる。
それはとっても嬉しいこと。
コーちゃん、また来てくれないかな。
なんだか、皆が揃うのも、じきに少なくなってしまう予感がするのだから。

 

私が
出たい

思わせる
よさ。

 

1発目は、トータス
民生もギターを弾いてたが、すぐに引っ込んだ。
「原曲のキーが出ないので、チャボさんに謝って1音下げてもらいました」
と、恐縮のトータス。

毎年思うんだけれども、俺はキヨシローと同じキーで、全曲歌える。
トータスや浜崎や民生よりも、ずっとずっとうまく、心を込めて全身全霊で歌える自信がある。
なんで俺を、ステージに上げてくれないんだろう?

そんなことを一人ごちている俺は気が触れちまってるんだが、でも、そのようにワジワジしながら観ているお客さん、意外と多いんじゃないかな。
きっと若い頃にはRCのコピーバンドをやっていた人も、いや、未だにやっている人だって、いるだろう。
その中にはコピーに飽き足らず、俺のようにオリジナルを創って本気でバンドをやっている人も、いるだろう。
だからってステージに上れる訳がないのに、脳みその中だけは何を考えても自由だから。
そんなことを夢想しながら観られるってのは、いいことなんだと思う。

 

精神
こそを
継承
する。

 

TOSHI-LOWって誰だ?
ヤケにイキがったMCをしてる。
キヨシローと偶然飲み屋で初対面して、呼び捨てで2時間も絡んで、記憶をなくしたら、翌日「昨日ナニワ・サリバン・ショーに出たいと言っていたから、枠を設けました」と事務所から電話がかかってきて、丁重にお断りした話。
しかし、彼のMCは、熱を帯びていく。
「地震の後には、戦争がやって来る」
で始まるキヨシローの有名な文を、1字1句たがわずにそらんじ始めた。
やるじゃねえか。
そして歌いだした「明日なき世界」はクセのない歌い方で、言葉がちゃんと胸に飛び込んでくる。
あ…、この子の名前、聞いたことあるぞ。
教授がやってる反原発音楽フェス「NO NUKES」に参加してるバンド・ブラフマンの子だ。
真剣に反原発や反戦のメッセージを送り続けている、正しきキヨシローの後継者。
たまにはEヤツを参加させるじゃねえか。

その後に出てきた曽我部恵一は、2曲ともとてもよかった。
彼が初めて買ったRCのアルバム「ハートのエース」から選んだ「山のふもとで犬と暮らしている」は、素直な歌い方で、キヨシローの物真似ではない歌い方で、高温も伸びやかで、犬の鳴き声のところも感情がこもってる。
選曲も含めてとてもいい。
「ハートのエース」は、いい曲、多い。
こういった代表曲でない曲を愛し続けている人、好きだなあ。

 

ユルいヤツ、
呼ばなくて
E。

 

その後に出てきた浜崎が最悪だった。
「熱唱が続いて息が詰まりそうなので、僕はユルくやります」
みたいなことをほざいた。
俺はたまらず
「詰まんねえよ!」
と叫んでしまった。
キヨシローのステージというのは、常に全力なところが胸を打つのだ。
ユルくやってるところなんかありゃあしない。
ユーモアを交えたりするステージングはある。
だが、それはユルさとは全く違う。
キヨシローの精神を後継する気のないヤツは、もう呼ばないでほしい。
キヨシローのような、人の心に感じ入る曲を創れるように、出直して来いよ。

民生も含めてこの世代…実は俺も大きな括りでいうと同じ世代なんだが、自分らの上の世代に対抗してユルさを売りにするヤツが多い。
俺はその手の一切に、興味がない。
その手は、何も生み出さない。
その手に育てられた子供たちが、徴兵制で戦争に行かせられるのだ。
そもそも、皆2曲ずつの披露なのに、民生だけなぜ3曲なんだ?
他のミュージシャンより客を呼べるからか?
民生はキヨシローと同じキーで歌えるんだが、最初から最後まで絶叫だけ。
抑揚のない歌い方だ。
選曲に芸もない。

集客能力のあるヤツよりも、マリちゃんや伸ちゃんを呼んでほしい。

 

曇った
街並み。
あの歌を、
思い出せる。

 

僕の大好きな、細野さんが出てきた。
チャボが、大歓迎してる。
キヨシローが60歳になったら、一緒にブルーズのアルバムを創ろうと言っていた、細野さんだ。
特にMCは話してくれなかったけれど、この日の「幸せハッピー」は、いつもの何倍の声量で歌う細野さん。
それがとても嬉しかった。
元々は、坂本冬実さんが歌うために創られた歌だ。
こんなに大きな声量で歌う細野さん、なかなか観られない。

「レコード化されていない、RC未完成の曲」
と言ってチャボが梅津さんと2人だけでやった、「ベルおいで」
キヨシローのテイクには悲しみがあるけれど、チャボの歌い方には温かみがあった。
チャボは、いつもキヨシローの曲を、自分の物として心に取り込んでから歌う。
だから、胸に迫ってくる。
これぞ、トリビュートライヴだ。

「ついにこの人が来てくれた。こういう大袈裟な呼び方は嫌がるかも知れないけれど」
とチャボが嬉しそうに呼んだ。
陽水の、出番だ。
「僕は青い森というフォーク喫茶で一緒にいて。リンコ・ワッショイが作詞して、ケンチが歌った曲を」
と言って、歌ってくれた「忙しすぎたから」
つまびくように、静かに奏でるアコースティック・ギターが新鮮に映る。
陽水が歌ってくれて、この歌が新しい羽根を生やし、二重の虹の向こうまで飛んで行ったようだ。
爽やかな、風が吹く。
陽水が歌ってくれて、本当に嬉しい。

チャーへのチャボからの紹介も、感謝が去年にも増して込められたように聞こえた。
「俺たちRCが食えなかった時、前座に使ってくれて、そのおかげで俺たちも人気が出るようになって…」
去年同様、なぜかチャーは民生を呼び出す。
ただ、今年はチャー自身が歌ってくれた。
欲を言えば、民生とではなく、チャボとギターソロ回しをしてほしかったんだけれど、チャボはハウスバンドに徹していて、前に出ることはなかった。
でも、陽水にしてもチャーにしても、自分が同時代にいた曲や関わった曲をやってくれるのは、嬉しい。
ポールが「something」を歌うのと同じだ。

 

演出、
忌野清志郎。

 

全員での「雨上がりの夜空に」では、細野さんはなんとアコギを弾いていた。
いつ、コードを覚えてくれたんだろう?
そして、陽水のジャンプでアウトロを決めた。
格好良かった。

その後の、恒例の「忌野清志郎ダイナミックライブ」で、トラブルがあった。
イントロダクションでキヨシローが戦争と平和についてガンガン語り、最後は布団ショーで締める2004年の渋公での「Baby何もかも」
途中で映像が映らなくなり、音声だけになった。
これは心眼で観てみなよ、というキヨシローの悪戯心のちょっぴり混じった粋な演出だな、と思った。
映像がない分、本当にそこで演奏されているようなのだ。

キヨシロー、素晴らしい演出ですよ。
その証拠に、そこで帰ってしまう人は、意外と少なかったのだから。

片山さんも、元気になってよかった。
ニューアルバム、出るんですよ。
梅津さんは、いつものように軽やかに飛び回っていて。
「シングル・マン +4」は聴きましたか?
今日はあなたをモデルにしたドラマもあるし、嬉しい日々です。
昨日は「明日なき世界」も「JUMP」も歌われ、暗い時代になったけれども、心ある人は、こんな世の中じゃいけない、キヨシローだったらどうしているだろう?と考えて、生きているんだと思います。

よォーこそ(トータス・民生)
ベイビー!逃げるんだ(トータス)
ラプソディ(トータス)
明日なき世界(TOSHI-LOW)
ドカドカうるさいR&Rバンド(TOSHI-LOW)
九月になったのに(曽我部)
山のふもとで犬と暮らしている(曽我部)
いい事ばかりはありゃしない(浜崎)
JUMP(浜崎)
幸せハッピー(細野)
ベルおいで(チャボ)
エネルギーOhエネルギー(チャボ)
帰れない二人(陽水)
忙しすぎたから(陽水)
かくれんぼ(チャー)
S.F.(チャー)
つ・き・あ・い・た・い(民生)
スローバラード(民生)
トランジスタラジオ(民生)
毎日がブランニューデイ(細野・陽水除き全員)
雨あがりの夜空に(全員)
忌野清志郎ダイナミックライブ


2015.05.03