よたび清志郎行きつけの店で献杯する

写真/文・鎌田浩宮

キヨシローさんから
いつも
パワーを
もらってるんだ。

 

こんばんは、お久しぶりです。
「あら!」

古びた、店内。
ゲイノージン御用達のようなお洒落さは、ない。
キヨシローが来ていた頃の、まんまだ。

「最近はね、キヨシローさんが旅立った後にファンになった人が、来てくれるんだよ」

「ねえ、このメニュー見てよ。こうして、キヨシローさんが忘れられないように、色々考えて頑張ってるんだよ」

店内は混んでいるのに、あの席だけは、何故か僕がいつ来ても、毎度空いている。
キヨシローがいつも座っていた席の後ろには、彼のポスターや、彼のファンから届いた葉書が貼ってある。

 

店の前で
いつまでも
開店を待つ
キヨシロー。

 

ここでキヨシローは、仲間と日本シリーズを見ながら、2時間35分くらい長居をする事もあったそうだ。

そもそもキヨシローが四国屋に来たのは、子供の頃からの同級生で、サイクリング仲間でもある、雑誌「サイクルスポーツ」前編集長の宮内忍さんに誘われて来たのが初めて。
「高校生の時から聴いているキヨシローさんだ!ってすぐ分かったんだけど、写真とかサインとかはねだらなかったよ。落ち着いて食事したいもんね。そうして、こちらもキヨシローさんだからって特別扱いしないようにしていたら、しょっちゅう来るようになったんだよ。多い時は、週に3日かな」

それ以来、キヨシローは1人で来るようになったんだけれど、定休日なのを知らず、1人でずっと店の前で待っていた事もあるそうだ。
「あの時は申し訳なくってね!」

昔を振り返るご主人は満面の笑みだ。
でも、眼頭は赤くなっている。

ご主人も女将さんも、厨房仕事がなくなると、僕に沢山話しかけてくる。
それが嬉しくってたまらない。
「キヨシローさんが色々な人を連れてきてくれるようになって、そのおかげでいろんな人が来てくれるようになったよ。キヨシローさんは面倒見がいいからねえ。例えば…中村獅童さんのお母さんが来たんだよ。とっても元気だったのに、その4日後にお亡くなりになってね」
それは残念でしたね…。

 

彼を
悪く
言う
人に
会った
ことが
ない。

 

「キヨシローさんの事を悪く言う人は、1人もいないよ。キヨシローさんを嫌いな人って、見た事がないよ。それってすごい事だよね!」
ご主人がそう言うと、僕も泣きそうになってしまう。
「あ!これ、まだ見せてなかったよね」
何度もここに来ているのに、まだ見てない物なんてあるのだろうか?
驚きつつ、ご主人を見つめる。
ご主人は、首から下げていたオレンジのリングをヒモから外し、僕に手渡してくれた。
「オレンジ号のハンドルの部品のリングだよ。だから世界に2つしかないんだ」
鳥肌が立ってしまった。
「僕も初めて手にした時は、鳥肌が立ったよ」
写真、撮ってもいいですか?
「もちろん、いいよ!」

「これをつけているとね、キヨシローさんからパワーがもらえるような気がするんだよ」
はい、すごいパワーが来ていますよ。

生ビを2つお願いすると、キヨシローが大好きだった漬け物を出してくれた。
これが、めっぽう美味しいのだ。
しょっぱすぎないのに、しっかり漬かっている。
「毎晩仕事が終わると刻むのよ。うちで漬けてるの」
笑顔の、女将さん。
女将さん、お元気でしたか?
「最近は天気の差が激しいからか、疲れるのよ」
そうですね、4月は雨ばかりでしたし、今は暑いし、どうぞお大事になさって下さいね。

そして、ご主人が写真を出して下さる。

 

会話
を、
する。

 

献杯。
ご主人が、そっと枝豆を添えて下さる。

キヨシローと会話ができる、世界で1番贅沢な時間。
「シーナと最近は歌ってるんだ。Eだろう?」
それはサイコーですね!
キヨシローさん、今のこの国はどうですか?
「筑紫さんと『だらしねえな』と話してるよ」
明日、渋公へ行きますからね。
「チャボも陽水も細野さんも来てくれるんだろ?充分だな」

手ごろな値段で、美味しい。
常連さんも、多い。
常に席が埋まり始めた。

新メニューも増えたけれど、今年も僕の大好きなポテトサラダを頼もう。
「ちょっと、味を変えたんだよ」
はい、とても美味しいです!
チーズやスパイスが効いていて、ビールが進む。

 

手を
合わせる。

 

女将さんの視線が、テレビに注がれる。
介護うつで自殺された、清水由貴子さんが映し出されている。
辛かったんだろうな。
人を助けているのに、何故死が迫ってしまうんだろう。
女将さんも僕も、心の中で手を合わせた。

8時にはほぼ満席になった。
僕は2時間35分ほど長居をして、絶品のカレーうどんをいただいて帰った。

また、お邪魔しますね。
ぜひ、皆さんも行ってみて下さい。
お2人とも、いつまでも、どうぞお元気で!

http://tabelog.com/tokyo/A1319/A131902/13025581/
四国屋
住所: 〒164-0012 東京都中野区本町4丁目36−3
電話:03-3380-4598
営業時間:11:30~15:00 18:30~23:00頃
定休日:日曜・祝日


2015.05.02