ポール・マッカートニーとまた会えた

写真/一部撮影/文・鎌田浩宮

Paul
McCartney
Out
There
Japan
Tour
2015.4.23

 

生まれて
初めて、
入り待ち、
してしまった。

 

早めに東京ドーム付近へ到着。
警備員が何度も排除しようとするが、僕らのやっている事は違法行為じゃないんだぜ、気にすることぁねえ。

日本のスタッフと来日スタッフが、何度か道路を往復し、無線で連絡を取り合う。
来日した記録スタッフが、僕ら群衆を笑顔で撮影する。

そして、やって来た!

こんなに間近でポールを観られる日が来るなんて。
小学2年の時、赤盤を擦り切れるほど聴いていた自分に、話してやりたい。

 

がんばろう日本、
なんて味気ない
官制スローガン
より、
もっとすげえの
を聴きに来たのさ。

 

開場の4時半まで1時間半も前なのに、グッズ売り場は長蛇の列。
しかも、その列は遅々として進まない。

30分遅れて、開場。
会場内には、ポールに共鳴した菜食主義、動物愛護の展示。

 

やはり。
ポールは、
元天使だ。

 

 

天使を
志願退職して、
人間に
なったんだ。

 

配布しているスタッフの方とお話ししたかったが、場内ではリミックスプレイが始まっていたので、急いで着席。

これが聴きたくて、早く来たんだ。

ミックスも、それほど今風でなくて聴き心地がいいし、気分も高揚してくる。
場内では、ウェーブが何度も起こった。

僕の人生の中で数少ない、自慢できること。
それは、ビートルズがまだ解散していない時に、生まれたこと。
ビートルズがいた時代の空気を、吸えたこと。
僕が生まれた年にホワイト・アルバムができたんだぜ、って言えることは、本当に素晴らしい。

ポールに会いに行くと、ウイングスの曲を沢山演奏してくれる。
僕が小学2年生の時、サンタさんに駄々こねてもらったラジカセで聴いたFENから流れてきた、あの曲たち。
学校から帰ってきて、夢中になって録音した「Let’em In」「Silly Love Songs」「Listen to What the Man Said」…。

あの頃は、洋楽をかけてくれるラジオ局なんて、あったのかなあ?
FMが、NHKとFM東京しかない時代。
FENばかり聴いていた。

 

30分
遅れて
ロック・ショウ
が、
始まった。

 

とにかく、日本語がうまくって。
英語でMCを話す時、前回と同様和訳が瞬時に字幕に出てくるのだけれど、PCのキーを叩くジェスチャーをして、茶化すポール。
「ti ti ti ti !」

そして時々、相撲のジェスチャーもする。

今回も、ジミ・ヘンドリックスに捧げるジャムがあった。

「Blacbird」を歌う前、2013年のライヴでは「公民権運動のために創った曲」とポールは言ったのだけれど、今回はなかった。
また、「Back in the U.S.S.R.」の時は、映像に一瞬プッシー・ライオットに自由を、と以前は出たのだけれど、それもなくなっていた。

「Day Tripper」で、ヘフナーのヴァイオリン・ベースを弾きながら歌うポールは、驚異的でしかない。
あの複雑なフレーズを弾きながら、なぜそのフレーズとアクセントの違うメロディーラインをシャウトできるの?
僕と一緒に来た、我がバンド、トランキル・オーヴァーのデグチさんもタカツカさんも、舌を巻いていた。
「おない年のブライアン・ウイルソンは幕張のライヴで、何度も途中退場しようとしてたよね?」
「真夏の野外だったから、あれは可哀想だったけどね!」

最近のポールは、ビートルズ中期の曲をよく歌ってくれる。
「Lovely Rita」を生演奏で聴けるなんて、齢を取るのも決して悪くない。
東京ドームが、ラヴリーな多幸感に包まれる。
ジョージ・マーティンが弾いていたホンキートンクなピアノソロを、バックバンドが見事にプレイする。
ほとんどの曲は、原曲と同じ尺で演奏されるのだけれど、この曲は原曲よりも長くリアレンジされていて、それがまた幸福感を倍にしてくれる。

「ベルリン 天使の詩」という映画について、もう1度書きたい。
言葉、映像、音、音楽、全てが奇跡的な完璧さで構築された、20世紀の映画の最高傑作の1つ。
主役は、天使たちだ。
天使は、人間の眼には、見えない。
天使は、人間を、さわれない。
天使は、悩んでいる人、苦しんでいる人、悲しんでいる人の横に座り、励ましや、慰めの言葉を耳元に囁くのが仕事だ。
しかし時にそれは失敗し、自殺してしまう人間がいる。
その時天使は、手さえ差し伸べ握ることのできない非力さに、苦悩の表情を浮かべる。
そんな中、いっそのこと、人間になってみたいと願う天使が現れる。
天使と違い、人間には寿命があり、肉体的な苦痛もあり、怪我もし病気もし、金がなくては生きていけず、空も飛べない。
しかし、恋愛する喜びがある。
そして遂に、彼は人間になるのだ。
そこで彼は、もう1人の「元天使」と出逢う。
それは「刑事コロンボ」を演じている、俳優のピーター・フォークだったのだ。
ピーターは彼に、彼はピーターに、「人間になってよかったかい?」と尋ね合う。

僕はポールのライヴを観る度に、彼もかつては天使だったのではないかと思うのだ。
ポールも天使だった頃、僕ら人間の耳元に、希望や勇気を囁いていたのだろう。
しかし、それに飽き足らなくなった。
だから、人間になり、ロックという形で僕らの耳元に歌を届け、喜ばせ、感動させ、救っているのだ。

と、ここまでは2013年来日時の時にここで書いた。
今回のライヴで感じたのは、Fab Fourの他の3人も天使だったのか?ということだ。
リンゴは、天使だった可能性は高い。
ジョージは、ソロになってから、ヒンドゥーに裏打ちされた慈愛に満ちた曲が多いのだ。
ある意味、ジョンよりも「愛と平和の人」だと思う。
ジョンは、「キリストよりも有名」だ。
ヨーコと出逢うまでは、記者も含め周りの人への人間嫌いぶりが、よく取り沙汰されたものだった。
人間嫌いの天使は、残念ながらいないのだろう。

でも、僕にとっては、4人とも天使のようなものなのだけれど。

なぜそんな事を考えながら聴いていたかというと、2013年同様、今回もジョン、ジョージに捧ぐ曲が歌われた。
2013年と同じセットリストなのに、涙が、止まらなかった。
ポールの、彼らへの思いが変わらないからではないか。
それは、元天使から元天使への思いなのか?
それとも、元天使は人間とバンドを組んでいたのか?

そんなポールの思いは、セットリストに感じられる。
ジョンへ「Here Today」を歌った後の次の曲は、最新アルバムからの「New」だった。
君への悲しみを今もなお携えつつ、僕はまた新しい所に行くんだ、今日という日はまた、最も新しい日の始まりだ。

ジョージへ「Something」を歌った後は、「Ob-La-Di, Ob-La-Da」で会場の地盤を盛り上げる。
この悲しみを携えつつ、皆で一緒に慰め合おうという意志を感じる曲順。
4人が天使だったか、人間だったか、それは彼らだけの秘密。

「Hey Jude」で、ポールは日本語で「女子、歌って!」「次は、男子!」と、サビのフレーズのコール&レスポンスを何度も求める。
隣のお客さんと、肩を組みたくなる時だ。
そして、この時が永遠であってほしいと願う時。
2013年と、セットリストはほとんど変わらなかった。
でも、何度も泣き、ハンカチが必要だった。
美しい風景を見ると感動して自然に涙が出るが、それと似ているのか、美しいメロディーに、自然と涙が出てくる。

どの曲が最後の曲でもふさわしい。
「Hey Jude」でも「Let it be」でも「Yesterday」でも。
でも、ポールにとってこのアビー・ロード・メドレーは、1つ頭を越えた特別なものなのだろう。
長い長いレコードの、遂に針が上がる時だ。
さようなら、ポール。

元天使は少し経つと、初の韓国公演へ飛んで行ってしまう。
韓国の皆さんも、至福の時を過ごせるのだから、僕らはポールの「See you next time !」の言葉を信じて、待っていよう、いつまでも。

僕らは韓国にハイタッチをし、韓国は次の国へハイタッチする。
そうして、世界中が幸福に繋がっていく。
これが、元天使の仕業なのだ。

sound check

1. Honey Don’t
2. Blues Suede Shoes
3. Drive My Car
4. Coming Up
5. Whole Lotta Shakin’ Goin’ On
6. Let ‘Em In –
7. On My Way to Work –
8. San Francisco Bay Blues – “This one is for Shelley!”
9. Everybody Out There
10. Ram On
11. Bluebird
12. You Never Give Me Your Money
13. Lady Madonna –

Set list

1. Magical Mystery Tour
2. Save Us
3. Can’t Buy Me Love
4. Jet
5. Let Me Roll It
6. Paperback Writer
7. My Valentine
8. Nineteen Hundred and Eighty-Five
9. The Long and Winding Road
10. Maybe I’m Amazed
11. I’ve Just Seen a Face
12. We Can Work It Out
13. Another Day
14. Hope For The Future
15. And I Love Her
16. Blackbird
17. Here Today
18. New
19. Queenie Eye
20. Lady Madonna
21. All Together Now
22. Lovely Rita
23. Eleanor Rigby
24. Being for the Benefit of Mr. Kite!
25. Something
26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
27. Band on the Run
28. Back in the U.S.S.R.
29. Let It Be
30. Live and Let Die
31. Hey Jude

Encore:
32. Day Tripper
33. Hi Hi Hi
34. I Saw Her Standing There

Encore 2:
35. Yesterday
36. Helter Skelter
37. Golden Slumbers / Carry That Weight / The End


2015.05.01