みたび清志郎行きつけの店で献杯する

写真/文・鎌田浩宮

5月2日が近づくと、
四国屋が恋しくなる。

四国屋は、
東京・新中野にある
うどん屋さんだ。

四国屋に行くのは、
ほぼ1年ぶり。

僕の顔、
覚えていてくれてるかなあ。

玄関を、開ける。
「あら、久しぶり」
「あ、もう、その時期か」
女将さんとご主人が、笑顔で迎えてくれた。
すいません、ご無沙汰しちゃって。

夜の部の開店は6時半。
少し遅れちゃったので、あの席は、他のお客さんが座ってた。

それじゃあ、生ビール、2つ下さい。
本当は、ここではキヨシローは瓶ビールだったそうなんだけど、ここの生ビ、美味しいのよ。
サービスの漬け物の浅漬けも美味い。
この浅漬けを食べると、ああ、四国屋に来たなあ、って実感して、ほっとするのよ。

傍らに置いた生ビに、僕の生ビをカチンとぶつける。
もうすぐ、5月2日。
献杯。

 

自転車で
走ってる
気がする。

 

四国屋を知らない人のために書くと、このうどん屋さんはキヨシローの行きつけの店。
時には友達と、時にはバンドのメンバーや、事務所の人と。
行列の時は並んででも食べた、四国で本場のうどんを食べた後も、物足りなくてここに来たほど。
ここでビールを呑みながら、ドラゴンズの出ている日本シリーズを、何時間も観たりして過ごしたこともあった。
お洒落さはない、ごくごく庶民的なお店。

「なんかねえ、キヨシローさんが、今でもその辺を自転車で走ってる気がするのよ」
「そう。キヨシローさん、いつも自転車でここに来てね、着替えたりなんだりで、5分くらいしてようやく店に入ってくるのよ」
「ほら、オレンジ号、盗まれちゃったじゃん。あれから、自転車は店の中に入れてもらうようにしてさあ」

ご主人と女将さんは、キヨシローが大好きで、お客さんが大好きで、だからいつも笑顔だ。
キヨシロー目当てではないお客さんにも、笑顔を絶やさない。

混んでいたお客さんがいなくなって、ご主人が、いつもの席に移動させてくれた。
そう、キヨシローがいつも座っていた席だ。
僕は、厚かましくもその横の席に座らせてもらうのが、いつもの流儀だ。
何も言わずとも、いつもそこにキヨシローの写真を置いてくれる。

 

キに○
は、
キヨシロー

直筆
です。

 

嬉しそうにご主人が、僕の傍に折りたたみ椅子を置いて座った。
「このクーラーボトル、知らない?」
「『サイクリング・ブルース』にも載ってるやつよ」
女将さんも、口添えする。

まさか?

そう、キヨシローの席の上の壁に、キヨシローが愛用していたサイクリング用のクーラーボトルが飾られていた。
「キヨシローさんの遺品が出てきたらしくてね、それをいただけたんだよ」
それはすごいですねえ!
「触ってみなよ」
えっ?
それはあまりにもおこがましいので、駄目です!
「キヨシローさんのパワーが感じられるよ。キヨシローさんもね、そのパワーを皆へ均等に分けたいはずだからさ」
ご主人は壁から降ろし、僕の目の前に置いた。

恐る恐る、ボトルを触らせてもらう。
緊張。

温かい!

壁の上に置いてあったから、るうどんを茹でる熱気の滞留だとかで、温まっていただけかも知れない。
でも、僕はそれを、キヨシローのパワーだと感じたかった。

その時。
店のテレビから、セブン・イレブンのCMで
「デイ・ドリーム・ビリーバー」
が流れた。
驚く3人!

「ほら!すごい偶然でしょ。やっぱりキヨシローさん、触ってほしいのよ」

お店が忙しくなければ、おそらく皆さんも、触らせてもらえるでしょう。
ぜひともご主人と女将さんの手の空いている時にだけ、頼んでみて下さいね。

「百ちゃんの個展、やってたねえ」
僕、最終日に行ってきましたよ。
「ああ!そう!うちの娘も、百ちゃんと齢が近くってね、キヨシローさん、普段はすごく大人いいんだけど、うちの娘が店にいると『よおよお、しっかり働けよお』とか絡んだりしてね。百ちゃんに絡めない分、うちの娘に絡んでんだよね」
「うちの娘、平成元年生まれだから、キヨシローさんのこと、最初は知らなかったのよ。『何、あのおじさん』って感じで」

「で、『僕らの音楽』の収録の時に、うちの娘を招待してくれたんだよね。普段からかってるから悪いなあと思ったのかもね。で、初めて間近でキヨシローさんのライヴを観て、すごいなあと思ったようよ」
「歌いながら、娘に目配せしてくれたみたいだよ」
うわあ、テレビのスタジオだから、相当間近ですね、羨ましいなあ!

 

量がたっぷりあって
美味いので
有名です。

 

四国屋は、すごいんだぞ。
料理だって、とにもかくにも美味い。
ブラックペッパーとチーズが効いてる、ポテトサラダ
空の器で失礼スルゼ。
他の店とは、区別がつくさ。

また、店が混み始めてきた。
ほぼ、満席。
どのお客さんにも、笑顔でお喋りを交わす。
他のお客さんへの対応に追われているので、僕はしばらく、キヨシローの写真に語りかけて時間を過ごす。

かき揚つまみ
ごま油の匂いが香ばしくって、美味いんだ。
しかも、安くって、どデカい。
箸と皿の大きさで、分かってほしい。
かなり、お腹一杯。
って、なんで俺は空の器ばっかなんだ。
読者への嫌がらせだっ。

〆は、カレーうどん
この日のカレーうどんは、格別に美味しかった。
スープの出汁が、カレーに負けてない。
さっきご主人が打っていた麺かなあ、コシがすごい、歯ごたえがE。
キヨシローもよく食べていたこのメニュー、僕も大好きだ。

「俺が悩んでいる時、キヨシローさんに救われた時もあったしね。キヨシローさんの人気が途絶えないよう頑張るよ。また来てね!」
もちろん、また来ます!

2時間35分には至らなかったけれど、お店の邪魔にならないよう、
2時間くらい長居しちゃった。
いつもは2人の思い出話につい泣いちゃうんだけど、今回は、泣かないですんだ。

進んでキヨシローの語り部になってくれているお2人に、頭が上がりません。
女将さん、ご主人、いつまでもお元気で。
キヨシローファンにとっても、大切な場所。

 

四国屋
住所:〒164-0012 東京都中野区本町4丁目36−3
電話:03-3380-4598
営業時間:11:30~15:00 18:30~23:00頃
定休日:日曜・祝日
最寄り駅:東京メトロ丸の内線・新中野駅

5月2日、渋公の帰りに、寄ってみては。
ただ、翌日の3日から6日まではお休みのようなので、気をつけてね。

こちらは、これまでの四国屋訪問記でござる。
毎回、泣いてるのでござる。

清志郎行きつけの店で献杯する

再び清志郎行きつけの店で献杯する


2014.05.02