玉音ちゃんradio 第24回「細野晴臣、新譜発売記念特集」

DJ・タカツカアキオ/鎌田浩宮

2013年5月22日の
発売日、

行きつけの
三軒茶屋の

レコード屋さんが
開くのを待って

細野晴臣さんの新譜、
「Heavenly Music」
を、買って
聴いたんです。

よかった!

なので、
特集なんです。

小学生の時、リアルタイムでYMOを聴いて、夢中になって。
で、もっと聴きたくなって、3人のソロアルバムを聴きだす。
ユキヒロさんの「音楽殺人」、教授の「千のナイフ」、カッコいい!
そして、細野さんの「はらいそ」を聴いた。
なんだこりゃ?
ピコピコしてないじゃん!
良さ、全く分からず。

しかし、YMOのライヴに行けば、
「ユキヒロー!」
「教授ー!」
の黄色い歓声の中、僕は必死に
「ハリー!」
と絶叫しておったのでありました。
当時、細野さんの愛称がハリーと知る人、少なかった事であろう。

そして中学生になり、はっぴいえんどを聴くようになってから、より細野さんに魅かれていく。
ヴォーカルも、ベースプレイも、曲も詞も、クールなのに、情感があり、ユーモアがある。
世界一の耳を持つ男。
それは、彼の思想から根付いたもの。
細野さんが精霊信仰、アニミズムに関心がある事を知れば、それを追っかけ、沖縄は日本最西端・与那国島まで飛び、細野さんが以前会ったノロに僕も会わせてもらった。

 

細野さん
は、
クールで、
あったかい。
あったかくって、
クール。

 

そして遂に僕の創った曲「冷やかされる為のダンス」が、細野さんが審査を務めるコンテストにて、最優秀賞となり。
はい。
ここで、宣伝です。
この曲が収録されたアルバム「精霊の暴力」は、エプスタのこちらにて発売中ですど。

そして受賞者を集め、細野さんが監修を務めたオムニバスアルバム「École」(エピックソニー)に、僕の曲「the nowhere man’s music」が収録されたんです。
はい。
もう一丁、宣伝です。
これは、アマゾンで売ってます。

それ以来、僕は勝手に細野さんの事を心の中で「師匠」と呼び(声に出して言ったらイタいヤツだと思われる)、勿論先方は僕の事を弟子とは全く思わず現在に至るんです。

今回のアルバムは、前々作「フライング・ソーサー1947」前作「HoSoNoVa 」に続く、基本的にシンセ類を使わずヴォーカルをメインにした3部作の3作目といった趣。
では、その中から1曲、行ってみよう。

The House of Blue Lights

すごいPV。
1カメだ。
細野さんのプライベートスタジオで、曲に合わせて踊ってるだけ。
でも、このダンスが、細野さんらしいユーモア。
製作費、まさかの0円ではなかろーか。

本当はこのアルバムから数曲取り上げたいんだけれど、youtubeによる音源がこの1曲しかない!
この創り方なら、もっと数曲PV創れるはずでしょ!
細野さん、宣伝に、欲がなさすぎです。

なので、エプスタ重役のタカツカアキオと2人で、細野さんの過去の作品を振り返る特集としますね。

 

では
まず、
タカツカアキオ
が選んだ
細野さんの曲
ベスト3
を、彼のコメント付き
で。

 

恋は桃色

初のソロアルバム「HOSONO HOUSE」より(1973年)。
この曲を聴くといつでも、懐かしさとせつなさとえもいわれぬ多幸感とが湧き上がってきます。”HOSONO HOUSE”は頭で創ったものじゃあないと細野さん自身がかつて語っていたのですが、そんな言葉のとおり、体温が感じられる曲が続きます。その中でもこの曲がきわめつけと感じます。

 

ファム・ファタール~妖婦

ソロアルバム「はらいそ」より(1978年)。
強烈なリズムを奏でるベースが最高。妖しい曲調にちょっとおどろおどろしい歌詞が続きますが、サビのメジャーなコード感でそれも一変し、バランスが保たれています。YMO結成のきっかけとなった曲としても有名。

 

熱帯夜

ソロアルバム「トロピカル・ダンディー」より(1975年)。
深い眠りへと誘うエレピ。夢見心地にさせるスチールギター。そして美しいコード感。かつてこの曲を寝る前によく聴いていました。FM放送から録音したカセットで。クーラーのない熱帯夜にはなんてぴったりな曲なんでしょう。

 

 

次に、僕、
鎌田浩宮
が選ぶ
5曲です。

 

風来坊

はっぴいえんど「HAPPY END」より(1973年)。
アコースティック・セットでの細野さんのヴォーカル曲は、どれもすんばらしいんであるが、どれかと訊かれれば、これ。ああ、ふらりふらふらと生きていきたい。寅さんの世界だ。

 

OTT MANIFESTO

フレンズ・オブ・アース「フレンド・オア・フォー?」より(1985年)。
YMO散開後に細野さんが結成したユニット、フレンズ・オブ・アース(F.O.E)。細野さんご本人は、このユニットを振り返るのは嫌みたいだけれど、僕は非常に大好きで。聴けば分かるさ唯一無二の32ビート、ポスト・テクノポップ。ジェームス・ブラウンとジョイントで演った武道館でのライヴも、高校生の時、ビンボーだったけれど観に行った。

 

プリオシーヌ

ソロアルバム「omni Sight Seeing」より(1989年)。
F.O.Eを続けるのが嫌になった細野さんが、しばらく音楽から遠ざかってしまった。ファンとしては、つらい時期だった。テクノ・ポップが終焉してしまい、皆が迷っていた時期だった。そんな時に、エスニック・ミュージック、民族音楽、ワールド・ミュージックの波が来た。その影響の中で細野さんが久々に出したソロアルバム。メロディーの素晴らしさは言うまでもなく、音と音の間の「すき間」を堪能できるアレンジが秀逸。

 

YUKI-ya-konko

スウィング・スロウ「swing slow」より(1996年)。
細野さんとコシミハルさんの共演も素晴らしいものが多いんだけれど、1番のお気に入りはこれ。クールなのに、あったかいのは、細野さんならではだと思う。このオルガンの音色1つ取っても、強いこだわりがある。

 

Yellow Magic Carnival

ティン・パン・アレー「キャラメル・ママ」より(1975年)。
この映像は、細野さんの還暦を祝って様々なミュージシャンが集まり、日比谷野音でトリビュートライヴが行なわれた時のもの。僕、これ、観に行ったんだ。出演者も観客も、細野さんをお祝いしたい気持ちで1つになってて。あんなに1つになってるライヴ、そんなにないと思う。大勢の出演者の中で、1番最初に出て来たのが、この映像にもある細野さんの師匠的存在、ヴァン・ダイク・パークス。なんとこの1曲のためだけにアメリカから飛んで来たのよ。そしてヴァン・ダイクによる、とろける様なスイートなリアレンジ。細野さんの原曲も素晴らしいけれど、2人の友情を祝して、敢えてここに挙げてみます。

この5曲以外にも、いい曲、一杯。
映画音楽も素晴らしいし、ハリー&マックも良かった、YMOもあるし。
タカツカさんも、敢えて涙を飲んでYMOからは選ばなかったみたいですね。

細野さんの代表曲に「はらいそ」という歌がある。
「パラダイス」、という意味だ。
これは、彼の長い創作活動の全てに通底している。
未だ見ぬ楽園を夢想しながら、そこに向かい、長く平坦な道をとぼとぼ歩き、音、奏でる。

しかし、2011年3月11日に、その歩みを通せんぼされる。
福島の原発事故だ。
細野さんはガイガーカウンターを買い、常に身につける事になる。
そして今回のアルバムのラストに、クラフトワークの「放射能」という曲をカヴァーし、収録している。
細野さんの、静かな、怒り。
細野さんの曲で、あんなに歪んだディストーションを聴いたのは、初めてだった。

細野さんはキヨシローに、キヨシローが60歳になったらブルーズのアルバムを一緒に創ろう、と言っていたそうだ。
細野さんのクールであったかいベースに、キヨシローのシャウト。
心から、聴きたかった、聴きたかった…。

でも、僕の小学校時代からのヒーローが、今でも新譜を出し続けてくれるなんて、なんと嬉しい事でしょう。
細野さん、いつまでもお元気で、楽園への旅を、いざなって下さい。


2013.06.05