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再び清志郎行きつけの店で献杯する
写真/DJ・鎌田浩宮
2013年、今年の5月2日は、完全復活祭のDVDを観て過ごしました。
また、泣いてしまった。
そしてその数日後、5月10日に、再び四国屋へ行ってきました。
キヨシローが虹の向こうへ旅立つ前、行きつけだった、東京・新中野にあるうどん店です。
http://tabelog.com/tokyo/A1319/A131902/13025581/
僕、時間はたっぷりある。
駅から寄り道して歩いてみると、四国屋さんの近くは、あらま、自転車屋さん、多い。
これも、キヨシローが行きつけになった訳の、1つなのかな?
銭湯まで、あるんだよ。
古くって、いい街。
ここでキヨシローも、ひとっ風呂浴びてから、四国屋へ行ったのかも。
開店の午後6時半になっても、まだのれんがかからない。
いつもの事なんだけれど、不安になるひと時。
隣のセブン・イレブンへ行き、時間を潰す。
こんな時の、不安だけれど、わくわくする気持ち、この曲に似てる。
今日の1曲目は、RCサクセションの隠れた名曲「CALL ME」!
いつもと同じように、少し時間を過ぎてから、開店。
今日も1番乗りで、お店にお邪魔する。
キヨシローの思い出が詰まったこのお店を、僕1人だけで噛みしめる事ができる、贅沢な時間。
女将さんもご主人も、1度来ただけなのに顔を覚えていてくれた。
お2人の客に対する気持ちに、ありがたくなってしまう。
この日は、キヨシローがいつも座っていた席の隣へ座る。
本人の席に座るのは、厚かましいからね。
そして、生ビールを2つ頼む。
「清志郎さんの写真、あった方がいい?」
と、親切な女将さん。
ありがたくお借りして、前回と同じように、隣に飾らせてもらう。
キヨシローのお箸、ここに置いときますね。
献杯。
5月2日は、こちらに来るお客さん、多かったですか?
「そんなに沢山じゃないけれど、ファンの人が結構来てくれたよ」
「5月2日は、武道館のロックン・ロール・ショーに行ったの?」
さすがご主人、詳しい。
色々考えたんですけれど、今年は行くのをやめたんです、と答える。
少しその話のやり取りがあってから、ご主人が言った。
「去年のを映像で観たけれど、何だかお祭りのようになっちゃってたもんねえ」
…ああ、僕と同じ違和感を持っているんだ。
その違和感は、以前エプスタのこちらで書いた。
http://epstein-s.net/archives/10153
今年のセット・リストを見て、やはり行かなくてよかったかもな、と思った。
かまやつひろしと浜崎貴司が「黒くぬれ!」を歌ったんでしょ。
しかも、全然関係ない小林幸子の話とかしたんでしょ。
かまやつがストーンズを好きなのは有名な話。
去年もいたけれど、無数にあるキヨシローの名曲を差し置いて、カヴァーを歌う人の気が知れない。
要は、かまやつのような、それほどキヨシローと交流があったわけでも、思いが深いわけでもない人が出て、ぬるくにこやかに歌われるのが耐えられないんだ。
そんな2曲目は、RCサクセションの「黒くぬれ!」。
本家のすごさを、存分に見せてもらいましょう。
お客さんが入りだした。
今日は、金曜日。
前回よりも、お客さんの出入りが頻繁に感じられる。
持ち帰りで、おいなりさんを10個買っていく労働者風情の若者。
「今用意するから、お茶でも飲んで待ってて」
さっとお茶を出す、女将さん。
心根の優しい、心根の美しい、親切な人。
だいぶ混み合って来たので、声のトーンを抑えながら、手を動かしながら、キヨシローの話をしてくれるご主人。
残念ながら、声が小さくって、あまり聞こえなかったんだけど、気持ちが嬉しいんだ。
「清志郎さんは、手のかからない人だったよ。普通、あれだけ有名だと色々注文出してくるでしょ。そういうのが全くないんだよ」
やっぱりそういう人なんですね、嬉しいです。
それだけこのお店を愛していたって事でもあるんでしょうね。
「清志郎さんはね、常温が好きみたいだったよ。ビールもね、そんなにキンキンに冷えてなくって」
最初のメンフィスでのレコーディングの時は、しきりにあっちのビールがぬるい、ぬるビ、って言ってましたもんね。
じゃあ、彼の好きだった瓶ビール、もらえますか。
あと、好物だったじゃこ天も。
再び、献杯。
僕が、キヨシローと間近で会う事ができたのは、マジカ・デ・ミル・スター・ツアーで下北沢のライヴハウスへ観に行った時、CDを買った人のみの特典で、終演後握手会に参加できるというので、握手をさせてもらった時の1回だけ。
でも今は、こうして、会いたい時にキヨシローと「ぬるビ」を酌み交わす事ができるんだ。
ちょっぴり寂しい、でも、なんて贅沢な事なんだろう。
それに、キヨシローの好きだったじゃこ天の美味い事!
そして、こうして生ビールと瓶ビールを呑み比べてみると、キヨシローの好みが分かる。
瓶の方が、やはりあっさりして優しい。
このお店も、香川のあっさりしたうどんだしね。
再び奥の部屋で、ご主人が麺を打つ、どしん、どしん、という音が聞こえる。
今日はお客さんが多いから、麺が足りなくなったかな?
それとも、明日の仕込みかな?
今度来る時は、金曜は避けた方が、じっくり話を聞かせてもらえるかも知れないなあ。
皆が食べている時、働いているんだもん、大変な仕事ですよね。
「そうだねえ、一息つけるのは、夜中の1時半かなあ」
そうですか、お疲れ様です。
お客さんの多くは、僕のように長居はせず、1人か2人で来て、静かに少し呑んでうどんを食べて帰る人がほとんど。
僕も場をわきまえ、忙しそうな時は、こちらからはあまり話しかけません。
先日、RCサクセションの「新譜」が発売された。
録音されたのは、1972年から1973年にかけて、彼らのライヴを隠し撮りしたもの。
RCの3人…リンコ、ケンチ、キヨシローが、まだ21歳の頃、ライヴで何を表現していたか。
タイトルは「悲しいことばっかり」。
公式海賊版、ってやつだ。
これを隠し撮りしていたのは、当時無名だった、グラフィックデザイナーの太田和彦さん。
僕は太田さんを、居酒屋巡りのテレビ番組で知ったんだけれど、その物静かに淡々と、しかし美味そうにおちょこを傾けるこのおじさん、いいなあって思ってたんだ。
以前から話としては聞いていたけれど、内側に向かうエネルギーが凄い曲たち。
自分の母親への恨みを歌い、つき合う女を情婦と呼ぶ。
これを一言で言えば太田さんの言う通り「魂の救済」という言葉が正に適していると思うんだけど、僕が魅かれたのは、作曲者・忌野清志郎のメロディーラインやコード進行の独特さ。
それが色褪せる事がなかったから、このアルバムに収められた曲のいくつかは、爆発的に売れて以降にスタジオレコーディングされ発表されている。
太田さんはその中の1曲「お墓」が再発表された時に、がっかりしたと言っている。
おそらくアレンジが洗練されて、元々この曲が持っていた重苦しさがなくなったからだろう。
だけど、再発表されたヴァージョンの方を中学生の時にオンタイムで聴き、最初のヴァージョンを後年に聴いた僕は、どちらにもかなりの愛着がある。
じゃあ3曲目は、1972年頃の「お墓」を聴こう!
この重厚なラヴソングに、太田さんはやられたのだ。
じゃあ、4曲目は、1983年に発表されたアルバム「OK」の方の「お墓」を聴こうよ!
僕はイントロのコーちゃんのティンバレスも、間奏のGee2woによるキーボードソロもその音色も、当時から大好きだった。
レゲエに転じポップに仕上げたが故に、「お墓」という、ラヴソングには通常出て来ないようなフレーズが燦然と際立つのだ。
陰からここまでに持って行った5人のRCサクセションのアレンジ力は、凄いと思う。
キヨシローの好きだった、海老天を頼んだ。
前回来た時は、キヨシローの好きだった大き目の海老が入荷されてないから今度食べてね、と言われたのだ。
そうしたらなんと、キヨシローの分もと、海老天が2匹も入った野菜天を出してくれるじゃあないの。
嬉しいけれど、多くって食べきれるかなあ!
店の壁には、キヨシローのポスターの切れ端の他に、他の飲食店のチラシなども貼ってある。
飲食店なんてライバルになりそうなもんなのに、貼ってあるところ、この優しさ、心の大きさ。
そんな時に、ご主人、ふと言うのさ。
「完全復活祭で、完全復活、すると思っていたんだけどね…」
今日は泣かないと思っていたのに、ここで涙が止まらなくなった。
誰もが勝てないどんなガンだろうと、キヨシローは克服する、と皆が思っていた、あの時。
ほら見なよ、武道館に戻って来たじゃないか、キヨシローは違うんだよ、と皆が思っていた、あの時。
カレーうどんを食べ終わった頃には、またもや2時間35分くらいの時が経っていた。
長居は失礼ですから、そろそろ帰りますよ。
また、お話、聞かせて下さいね。
楽しい夕を、ありがとうございました。