長野県川上村・続報

文・鎌田浩宮

お読みになる前に…
この記事は、2016年に制作したものです。
2018年の現時点で、こちらでは川上村の現状を把握しておりません。
したがって、現在の川上村の状況とは異なる点があるかも知れません。
その点を踏まえてお読み下さい。

 

エプスタインズで、
長い期間高アクセスを保っている記事がある。
第15便「標高1135.3mの村のトイレ」だ。
JRの駅で1番標高の高い野辺山駅の隣にある、
信濃川上駅。
そこを訪れた際に撮影したトイレの落書きが、
2chなどで話題になっているようなのだ。
その写真を、ここに再掲する。

 

 

川上村は一昔前まで、
ただの寂しい寒村だった。

 

しかしその気候がレタスの栽培に適していることが分かり、村は一変する。
日本一のレタス生産量を誇るようになり、農家の年収は2500万とも噂されるほど倍増、村のあちこちにレタス御殿ができた。

問題はそこからだ。

川上村は、過疎とまではいかないが労働人口の少ない村だ。
僕も近年何度か足を運んだが、村にはコンビニはおろかスーパーも八百屋も魚屋も肉屋もない。
酒屋が1軒、乾物屋が1軒、食堂が2軒、民宿が1軒、その他数軒。
歩いている子供に声をかけると「こんにちは」と返してくれる、のどかな田舎だ。
それは戦後間もなく、僕の母が住んでいた頃からそうだった。

また、労働人口の見込める小諸市からは、JR小海線で約1時間45分もかかり、本数も1時間に1本あるかないかだ。
そんな所へ行き真夜中の寒いうちから腰をかがめて収穫に勤しむのなら、上田市の方まで出て就労した方が楽だし賃金もいい。

 

そこで目をつけたのが、
外国人技能実習生だ。

 

途上国の人々に技術を学んでもらう名目で来日してもらうわけだが、現状は考えられないような低賃金で単純労働を強制させ、日本国内各地で問題になっている。
少し前も、広島県江田島という小さな島で牡蠣養殖に勤しんでいた外国人が、雇用主を殺害した事件があった。

上記の写真も、川上村の現状を訴える写真だと考えられるのだが、色々と調べても事実関係がどうしても浮かび上がらず、歯がゆい思いをしていた。
そんな時、先日の読売新聞にて記事になったと知人から教えてもらい、慌てて確認した。

歪んだ外国人実習

外国人技能実習生の保護強化と精度拡大を図るための法律が18日、成立した。23年前に始まった制度は、途上国支援を目的としながら実際は低賃金の労働力確保に利用され、大量の失踪者も生んでいる。歪んだ「実習」の実態と課題を追う。

今年春、愛知県の中部国際空港に中国人58人の団体が降り立った。バスで4時間かけて向かった先は、日本一のレタス産地として知られる長野県川上村。全員が、村の農家で受け入れる実習生だった。
「半年で130万円は稼げる」。その中にいた江蘇省出身の男性(30)はそう聞いて来日を決めた。母国ではとび職だった。
標高1100mの村は、4月でも寒さが厳しい。棒状の器具で土に穴を開け、苗を植える作業は、立て膝の姿勢を長時間強いられた。収穫期の6月に入ると出荷の箱詰めも加わり、夜明け前から照明器具が灯る畑で黙々と働き続けた。
5~6月の手取りは計約28万円。中国の送り出し機関に対する手数料約20万円の支払い分などを引くと、「来日前の稼ぎとほぼ同じだと初めて気づいた」。男性はそう振り返る。
2000年代中頃まで、川上村の農業の主力は日本人学生だった。農家の男性(72)は「単純作業なら日本人でも最低賃金しか支払っていなかった。この賃金で日本人は集まらない」と話す。
制度上の技能実習期間は現在最長3年だが、村の実習生の大半は農繁期の7ヶ月間働いただけで帰国する。農家の都合に合わせた労働現場であることを物語る。
日本弁護士連合会は14年11月、実習生の受け入れ窓口となる同村の監理団体(解散)に対し、「長期間かつ休日の少ない労働環境と、狭く不衛生な宿舎で実習生の人権を侵害した」として改善を求める勧告を出した。それでも、村では今年も約900人が働いた。
(中略)
川上村の男性実習生は来日の3ヶ月後、農作業中にトラックと接触する事故で足を骨折した。痛みが残り、現在は岐阜県の支援団体に身を寄せるが、とび職への復帰は難しい。「日本での仕事や生活は想像とかけ離れていた。来日をとても後悔している」

読売新聞2016年11月19日(土)朝刊社会面より


2016.11.22