第五十三夜:「指先から笑顔」

diary_yubisaki

こんばんわ、けい子です。
もうすぐあの地震から半年が経とうとしています。
しかしテレビではめっきり報道される事が少なくなりました。
新政権の動向も私にはよくわかりません。
「誰の為に」がすでに薄まっている様に感じられるからです。
  
 

先日、久しぶりに友人でヘアサロンを経営されている
K氏と会って飲んで参りました。美味しい酒で御座いました。
少し落ち着かれたという事でK氏も穏やかにされていましたが、
お疲れのご様子でもありました。

彼はこの半年、本当に精力的に被災地を訪れておりました。
震災発生から一ヶ月後から、南三陸町や気仙沼などを回り、
被災された方々の髪をカットしてあげるというボランティアを
されておりました。
初めて訪問した際には、一ヶ月後とはいえ、
それはそれは地獄絵図だったと彼は言っておりました。
その中で自分の無力さを酷く痛感したとも・・・。
被災地に通ううち、避難所の人々も少しずつ前向きに、元気に、
生活されていく姿が力強くなっていくのを感じながらも、
被災された方々が内に秘めている気持ちを時折見てしまったり、
察してしまうと、居た堪れなくもなったそうです。
そんな中で救われたのは子供達の屈託ない笑顔だったそうです。
子供の天使のような笑顔だけが、前に進む為の力になれそうだったと。

私は阪神淡路大震災の時は知り合いのお陰でボランティア参加を
できましたが、今回の大震災では現地に赴く事は出来ませんでした。
その事はこの半年、私の胸を苦しめました。
物資を送るなどでしか手助けが出来なかった。
そんな私には、彼の活動は眩しいものでした。

普段から陽気なK氏ですから、飲んでいる際も
私をめいいっぱい笑わせようとしてふざけてくれました。
そんな彼の持つ、心根から生まれる優しさや、
人の傍に居てあげられるスタンス、
他者の苦痛を理解しようとできる魂が、
普段のお仕事だけでなく、被災地の方々にも伝わったのだと思います。
髪を切るというお仕事は、人に直接触れるお仕事です。
多分に人の波動というか、想いを感じ取りやすい仕事なのでしょう。
そして想いを与える仕事でもあると思います。
これは誰にでもできる事ではないと私は思っています。
飲んだ後、彼が送ってくれたメールから私はそれを強く感じました。
 
 

「自分が髪をカットしてあげたことで、
 何かを決意したり、何かと決別したり、
 救われたと言ってくれた方もいたよ。
 なんともいえない気持ちになった。
 最初は被災者の為だったけど、最後の方は
 自分自身の為に向かっていってたと想う。
 ここからは自分自身と自分を信じてくれるお客様の為に、
 こっちでも頑張らなんね。それが僕の仕事だから。」
 
 

私は自分の路を見失いやすい人間だと想っています。
それでも当旅館に来られた方に、それは全く関係がありません。
彼のように直接触れて喜びを与えられる仕事ではないですが、
私の全身をもって、そう出来たらな、なんて思いました。
Kさん、本当に有難う御座います。

最後に、復興には途方も無い時間が掛かります。
心の傷だって簡単に癒せるものでは決してありません。
先日の甚大な台風被害でも同様です。
その事、どうか、どうか忘れず、支援を続けて参りましょうね。
あなたの指先からも笑顔は産み出せるんですから。
 
 
 
 
 
 

2011.09.07