キャマダの、ジデン。⑨ラジカセと手袋

鎌田浩宮・著

その年のクリスマス。

僕は当然のように、
サンタさんにラジカセをお願いした。
FENで気に入った曲を録音して、1日中聴いていたい。
ビートルズ、ウイングス、その他のバンド、
ベイエリアから、リヴァプールから、ホットなナンバー。
サンタさんなら、願いをかなえてくれる!

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實おじさん、おばさん、母、修おじさんは
驚愕のあまり、小岩に集まり会議を開いた。

「しろあき、それは高すぎるんじゃないの?!」
いや、サンタさんに高い安いは関係ないでしょ!
僕は譲らない。

確かに、小学2年生なら、
クリスマスのプレゼントといえば、
おもちゃとか、本とか、文房具とか、バットとかボールとか。
ラジカセは大人びすぎている、高すぎる。

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一緒に小岩に来た、2歳年下の弟は、
幼稚園に行かせてもらっていない。

父が大阪で歌を歌ってるだけじゃ、
母の夜の稼ぎだけじゃ。
義務教育でもないし、いいだろう?

近所の友達が幼稚園から帰ってくるまで
弟は何をして昼間を過ごしてたんだろう?
今振り返っても、可哀想で涙腺が緩むのよ。

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同じ冬の日、「大事件」が起きた。
弟が、誰も買い与えていない新品の手袋を持っているのだ。
またもや小岩に母と修おじさんが来て
緊急会議となった。

万引きをしてしまったのかと、皆がおののいた。
貧乏で、親がいなくて、
こんな小さい齢でぐれちまったなんてことになったら、
親戚皆の責任だ。
僕も、とんでもないことが起こってしまったと
緊急会議を見つめていた。

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親戚中に囲まれた弟は
「どうしても新しい手袋がほしくなり
それまで持っていた古い手袋をその売り場にそっと置いてきて
交換してきたんだ」と言った。

万引きはいけないと知っている、
うちにはお金がない、
交換なら大丈夫だろう!
まだ幼くて、悪いことをしたという意識がなくて
きょとんとさえしている。

皆で長崎屋に行って、
全く悪気はなかったんですと謝りに行った。
一生愛おしい、わが弟よお。

radiocasette

そして12月25日。
枕元には、ラジカセがあった。
「しろあきぃ、高かったぞぉ。修おじさんにも感謝しろよぉ」
おじさんが言った。
まるで親戚中でお金を出し合ったかの言い方さ。
僕ぁ、サンタさんにお願いしたのにね・・・。

それから、今現在まで続く
ロックの虜になる生活が始まったのさ。

santa

そしてその冬、
鎌田家はまた4人一緒に暮らすことになった。
三軒茶屋に引っ越すことに決まった。
おじさん、おばさん、広実くん、
一体どんな気持ちだったんだろう?
悲しかったかな?
ちょっとはホッとしたのかな?
ひょっとして、
泣いたりなんかしてくれたのかな?

残念ながら、覚えていないんだ・・・。
だって、やっぱり家族と一緒に暮らせる喜びで、
僕は一杯だったからねえ・・・。


2011.08.23