david bowie,again

文・鎌田浩宮

 

Dear David Bowie
1947.1.8 – 2016.1.10

 

デヴィッド・ボウイが、旅立った。
それほど熱狂的なファンではなかったのに、訃報を知り、ずっとボウイを聴いた。
ボウイはアルバム毎のコンセプトが完璧で、自殺でもないのに、死期と同じタイミングにコンセプチュアルなアルバムを発表し、音楽生活と人生両方の幕を下ろす事の出来た、稀有の存在だ。

ただ僕の場合、ボウイをデビュー時からリアルタイムで追いかけていた訳ではない。
FENを聴いていても、ボウイの曲はかからなかったし、「ぎんざNOW!」の週1回の洋楽ベストテンにも、ボウイは出てこなかった。
後追いである僕は、各アルバムのコンセプトの優劣よりも、楽曲そのものの素晴らしさが、今でも胸に迫る。

「starman」(1972)を、聴いてみて下さい。
ボウイというと、アンニュイだったり、陰鬱だったり、デカダンだったりのイメージが付きまとう。
でも、この素晴らしい曲のすがすがしさは、なんだ。

「スターマンが 空で待っている 僕らに 会いたがってるんだ 子供たちに ブギーを踊らせるんだって 彼は言うんだ」

この曲「space oddity」(1969)の、各楽器のアンサンブルの素晴らしさ。
彼が、優れたレコーディング・アーティストだった事が分かる。

「ziggy stardust」(1972)に封じ込まれている、ロックの魂。
80年代にトノバン(加藤和彦さん)がやっていたラジオで、この曲を知る。
「ギターじゃなくって、ギツァーって、イギリス訛りで発音するんだよね」
と解説してくれた。

「ashes to ashes」(1980)のような、寂しげな曲もいい。
ディヴィッド・シルヴィアンの「orpheus」に通ずるものを、感じてしまうメロディー。
「灰は 灰に ファンクは ファンキーに…」

83年に入り、アルバム「let’s dance」を発表した時は、興ざめした。
売れ線に走った、と思った。
MTVで、彼を観ない日はなかった。
僕の好きなメロディーは、そこにはなかった。
それでも、「cat people」「blue jean」などは、まあまあ好きな方であったけれど、今日はこの2曲を紹介します。

「underground」(1986)

ボウイと、ゴスペルとの組合せが好みだった。
彼の音楽の素養の深さが、分かる。

「absolute beginners」(1986)

ミュージカル映画の主題歌のせいか、60年代のミュージカル映画のような、歌い上げる形の曲になっている。
当時は売れたのに、今では砂に埋もれた曲になっているかな。

911のテロがあり、アメリカのイラク侵略戦争があり、日本では311があった。
その後、ボウイは久しぶりに「the next day」というアルバムを出す。
2013年だ。
この中の「where are we now ?」という曲が、突き刺さった。

この曲自体はベルリンの壁の事を歌っているにもかかわらず、現在を歌っているような気がして、仕方なかった。
911、311以降の、世界を覆う閉塞感、空虚さを、見事に曲にしている。
「僕らは 今 どこに いる ?」

2016年1月。
東京に雪が降った。
積もったのは、たった数㎝。
でも、一部の電車はマヒし、数時間もかけて会社へ行ったという話を聞いた。

僕は、東日本大震災を思い出して、気分が悪くなった。
正確に書くと、3月11日に起こった、帰宅難民のことを思い出したんではない。
その翌週からの、会社への通勤のことを思い出したんである。

僕はその頃、サラリーマンだった。
かなり多くの会社が、自宅待機という名目で、通勤をさせなかった。
なぜなら、急な停電で電車が運休してしまい、出社・帰宅できなくなる恐れがあったからだ。
でも、僕の属していた会社は、通常営業を断行しやがった。

僕の家は都心にもかかわらず被害が大きく、家具が倒れ、食器なども破損した。
さらには、息子同然に暮らしていた愛猫の体調が激変し、1~2週間で死ぬかもしれないという診断を受けた。
出勤できる状態ではなかったので有休を取った。
それを責められ給料を下げられ、会社を辞めざるを得なくなった。

当時、今回の積雪のように、どれだけ駅で待たされ、どれだけ徒歩で会社へ向かい、どれだけ苦労して出社したかを、美談として語る人がいた事が恐ろしかった。
この国が未曾有の参事に遭い、原発さえ爆発している状態の中で、放射能を浴びながらキンベンに会社勤めをするこの国の気質が恐ろしかった。

海外にいる人ならば、この異常さが分かるだろう。
個人が、全体主義に陥っていくこの様への怒りを、僕はまだ抑える気はない。
雪の中の駅に、茫然と2時間も過ごす社畜に、なる気はない。

「僕らは 今 どこに いる ?」

ボウイ、僕は、ずっとここにいるんだ。
彼らは、どこかを、彷徨ったままだけど。
ここにいて、永遠の空にいるスターマンを待ちながら、とぼとぼと、歩くべき道だけを、歩いているんだ…。


2016.01.22