渥美清こもろ寅さん会館内見学と「男はつらいよ・寅次郎恋歌」35㎜フィルム上映

撮影/文・鎌田浩宮

寅さん会館

再開

価値

あるのだろう
か?

 

正月気分の抜けない、1月の第2週の3連休。
渋滞が容易に予想される。
高速バスを愛用している僕は、前乗りして金曜の夜、小諸に降り立った。
なぜならば…。
正月も第2土曜はやるのだ、「寅さん全作フィルムで観よう会」

小諸は、寒い。
しかも、成人式の3連休。
こんな日に、映画を観に来る人、いるんだろうか?
いや、「男はつらいよ」の中でも、博がさくらを誘うシーンがあるのだ。
「正月だな、映画でも観に行こうか?」

しかも今回は、小諸市と委託業者の企画で、閉館中の渥美清こもろ寅さん会館の、館内無料見学会があるのだ。
僕らの上映会は、いつもその地下1階にある上映スペースにしか入ることができないので、僕は生まれて初めて、遂に会館内に入ることになる。

だが、コーフンは、しなかった。
会館再開をどうするか来客にリサーチするための会ではなく、晴れて正式再オープンした時に、嬉し涙をどばどば流しながら入場したかったのだ。

ぐっすり寝て、土曜、2015年1月10日を迎えた。
ココトラのメンバーだけが特別に、朝11時の入館を許された。
一般の人の入館は昼の1時からだ。
玄関を開ける。
我等がココトラ代表、轟屋いっちーこと一井正樹が、思わず第一声を発した。
「ああ、この匂いだよ、懐かしい…」

僕は敢えて一ファンとしてではなく、冷静に客観的でいることを務めた。
入場料500円を払って、全国各地から時間をかけて観る価値のあるものか?
何せ、そこが見失われ、閉館に追い込まれてしまったのだから…。

観終わり、僕らは地下1階へ行き、大急ぎで上映の設営開始だ。
今日はマル秘ゲストのヴィデオメッセージがあるため、初めてヴィデオプロジェクターも設置しなくちゃならない。

昼飯も食えず、午後1時。
一般向けの見学会が開始だ。
USTREAMでそれを生中継する。
来場者にインタビューだ。
さすがは寅さん好き、殆どの人が好意的に答えてくれる。
若い人からお年寄りまで、様々。

 

冷静
に、
来場者
へ、
インタビュー。

 

「ファン歴はどのくらいですか?」
意外にも、ここ最近のBS-JAPANでの全作放映でファンになった人が多い。
40年前、淀川長治さんの日曜洋画劇場で寅さんを好きになった僕とは、大違いだ。

「あ、貴方、鎌田さんじゃないかい?フェイスブックのココトラサイトで知ってますよ」
と声をかけてくれた人もいた。
ムフッ、エプスタインズも読んでね!

「どうですか?正直に言って、500円払って観る価値があると思えましたか?」
全員だ。
インタビューした全員が、こんなに貴重な展示物があるとは知らなかった、もっとじっくり観たい、500円の価値はある、と答えた!
確かにすごいのだ。
例えば、若い頃の渥美さんのプライベート写真が、無造作に、時系列も無視して飾られている。
よく見ると、水着姿の渥美さんがいるじゃないか!
渥美さんは結核の手術をし、その痕が残っているから、決して裸をさらすことはなかったのだ。
そして、決して家族を表に出さなかった渥美さんの、奥様が小諸にいらした時の写真がある!
すごいぞ、なんだこりゃ。
他にも、渥美さん直筆の私的に書かれた葉書の数々。
浅丘ルリ子さん演じたリリーが身に着けていた靴やアクセサリー類。
どれ1つとっても、柴又の寅さん記念館にはないものだらけだ。

その、柴又の記念館からわざわざいらっしゃって下さった(しかもココトラへ、美味しいお菓子の差し入れまでして下さった、涙…)スタッフの某さん。
「うちらは館内撮影OKなのに、ここは駄目なのはおかしい。松竹が何か言ってきても突っぱねるべき」

実際、中を撮影したかったお年寄りの方がいて、断られがっくりして帰って行ったのだ。
天国の渥美さんが、そんな人を見すごしていられるか、ここに書かなくとも自ずと答えは出るだろう。

さあ、これからがてんてこ舞いだ。
午後2時半からは、恒例の上映前のお楽しみコーナー。
今月は、地元小諸を代表するバンド、コピーヌクラブによるミニライヴ。

なんと、最後には「男はつらいよ」を演奏してくれた。
しかも、轟屋いっちーのヴォーカル入りだ。

バリバリに盛り上がる、場内。
飛びかう、歓声。
熱いぜ、ベイベー。

しかも、お楽しみコーナーでは初めて、アンコールがかかった。
こりゃあすげーぜ。
急遽、演奏するメンバー。

こんな素晴らしい演奏をノーギャラでやって下さり、しかも我々にカンパまでして下さいました。
感激の一言に尽きます。
ありがとうございました。

そして、先月上映できなかった第8作「寅次郎恋歌」の上映が始まった。

 

童心に
帰るのでは
ない。
寅は、
童心なのだ。

 

もう、名シーンのオンパレード。
怒る博の熱演、孫をあやす志村喬、初代おいちゃん森川信最後の名演、等々。
僕が全48作の中でも屈指の名シーンだと思うのは、マドンナ・池内淳子の子供は父親もおらず友達もできずいつも1人ぽっち、そこに現れる寅さん、いいか、あいつらより面白い遊び教えてやるぞ、寅ちゃんについて来い!帝釈天のお供えの饅頭を溢れんばかりにつかんで逃げる寅と子供、面白そうだぞと追いかける同級生、いつの間にか子供は同級生とすっかり仲良くなり、寅とそろって大笑いする。

このシーン、何度観ても、涙が止まらないんだ。
よく、童心に帰るって言うけれど、寅さんの場合はいつも童心なんだ。
イタズラ小僧が、雪駄履いて腹巻巻いて歩いてるんだ。

僕はちょうどその子供と同じくらいの齢、家庭の事情で、實おじさんの家に預けられた。
この實おじさんというのが、短気で口も悪けりゃ手もすぐに出る、だけど僕と汗だくになって夢中で遊んでくれる人だった、まるで童心、寅さんなのだ。
實おじさんは難病にかかり、64歳で亡くなってしまった。
それを思い出すと、涙は倍になる。

最近の映画だと、「そして父になる」のリリー・フランキー演ずるお父さんが、童心だった。
童心に帰って遊ぶんではない、童心なのだ。
いい映画だったなあ。

上映が終わり、これも大忙しの原因だったんだが、マル秘ゲストによるヴィデオメッセージが届き、プロジェクターで上映。

そう。
あの、源ちゃんこと佐藤蛾次郎さんだ。
とっても短いメッセージだったが、お客さんは大喜びで拍手喝采。

さらにサプライズは続く。
この第8作の冒頭とエンディングで強い印象を残す旅役者の一座の「マドンナ」、大空小百合役を演じた、岡本茉利さんからお手紙が届いた!
それを、元松竹衣装係・本間邦仁さんが代読。
彼女のお便りは、とても長かった。
それだけ心がこもっているのだ。
なんとありがたいことだろう。

この後、恒例の本間さんといっちーによるトークショウは、今月は割愛。
その代わり、20人以上はいるココトラのメンバー1人1人が、観客へ挨拶。
盛り沢山の内容で、いつもより1時間ほど延長し、終了。

このポスターのデザインは、先日お越しいただいたマドンナ役・榊原るみさんの姪っ子さんである、榊原菜穂子さん。
今年より、このポスターが全国に貼られますど。

蛾次郎さん、茉利さん、菜穂子さん、そして見学会と、盛り沢山で始まった、年初めの「寅さん全作フィルムで観よう会」。
今年こそ、悲願の渥美清こもろ寅さん会館再開目指して、奮闘努力です。
応援して下さい!


2015.01.11