第八話「ソース焼きそば」 <前編>

 

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深夜食堂に元アイドルの芸能人・風見倫子(YOU)がやって来た。
ソース焼きそばに目玉焼きをのせたものを食べて帰ったと聞き、
かつて倫子のファンクラブに入っていたという客たちは盛り上がる。
それからひと月ほど経った頃、再び同じものを注文した倫子は
マスター(小林薫)に「子供の頃、よく食べてたから」と打ち明ける。
そんな彼女は今度、映画の主演をつとめることになっていた。
その映画の主人公の境遇と 自分自身の境遇にはどこか重なる所が
あると言うが・・・。
 
 
“そんな台詞、言えねえよ・・・”
 
新宿を流れてゆく、深夜の眼差し。
第八話主演のYOUについて、突如鎌田氏が語りだす。
 鎌田「俺は女優としてのYOUは全然評価してないんだよね」
 倉田「ん~、なんでです?」
 鎌「なんだろう?バラエティのキャラクターイメージが強すぎて。
   是枝監督の『誰も知らない』では物凄く評価されたけど・・・」
 倉「それよりも同じ是枝監督の『歩いても歩いても』のYOUさん、
   そして樹木希林さん、この二人以外は役者にしか見えなかった
   です。それくらい二人は作品世界の住人でした。凄すぎでした」
 鎌「そうなんだ!見てないな・・見なきゃね」
 倉「実際『誰も知らない』の時はあまりYOUさん出てませんよね」
 鎌「そうだよね」
 倉「ま、僕は“FAIRCHILD”の頃からYOUさん好きだったので(笑)」
 鎌「フェアチャイルド!(笑) よく知ってるなあ!」
 倉「そっちは置いといて(笑) 僕が思うイイ役者さんの条件て、
   その作品世界の住人に見えるかどうかなんです」
 鎌「そうそうそう。それだね」
 倉「そういう意味で『歩いても歩いても』で完全に住人だったのは
   YOUさんと樹木さんだけでした。他の俳優陣も有名な方々ばかり
   でしたが、それでも役者然としか見えなかったんです。周囲の
   著名俳優をそう感じさせてしまう、この二人は恐ろしいとすら
   思いました」
 鎌「それでいうと、今回でんでんが出演してるでしょ?お父さん役で。
   今やでんでんはこの日本映画界で欠かせない存在になってきて
   いるとすら思ったよ」
 倉「でんでんさん本当に素晴らしいですよね、この話でも。
   でんでんさんは劇団東京乾電池の出身ですか?」
 鎌「いや、ピン芸人だね。お笑いスター誕生に出てたもん」
 倉「ほお!いやぁ、でんでんさんはいい役者さんになられてました」
 鎌「うん!」
  (※FAIRCHILD:1990年代に活動した音楽ユニット。YOUが在籍)
 
深夜食堂に訪れる、芸能人・風見倫子(YOU)。
 倉「あれ?・・・YOUさんて、作り込んだ役柄はダメなのかも(笑)」
 鎌「この話では・・・凄くは・・・ないね・・(笑)」
 倉「ちょっとコントっぽいです(笑)」
 
食堂の常連の間で、芸能人・風見倫子が通っていると噂になって・・・。
 倉「そういえば、何故か僕、YOUさん何度も渋谷で目撃しています」
 鎌「ほお!」
 倉「よく見るのはビックカメラで(笑)」
 鎌「家電芸人かい!(笑)」
 倉「YOUさん、なんでこんなにビックカメラにいんだろう?って
   いつも思ってます(笑)」
 
風見倫子の元親衛隊というサラリーマン二人組登場。
 倉「この恰幅いいサラリーマンの剣持直明さん、大好きなんです!」
 鎌「知ってる方?」
 倉「監督の佐藤信介さんに連れられて観に行った劇団だるま座の
   主催の方で、脚本も演出もされている凄い多彩なお方です」
 鎌「へえ。いいよねえ彼!」
 倉「この方のおばあちゃん役とか、本当に素晴らしいんです」
 鎌「おばあちゃん役!?!?」
 倉「演技中、どう見てもおばあちゃんにしか見えませんでした(笑)」
 
 
ジャマジャマボーイをぶっ飛ばせ (song by 凛子)
 
アイドル時代の風見倫子の歌が流れていく・・・。
 鎌「この曲の歌詞が凄まじいんだよな・・」
 倉「ひどいです(笑)」
 鎌「寄ってくるオジャマな男たちは殺虫剤でシュー!だからね(笑)」
 倉「(笑)」
 鎌「ちなみにDVD特典映像で、この曲のフルVer.を
   この親衛隊が歌ってるのが収録されているという・・」
 倉「えっ?YOUさんの方じゃないんですか!?(笑)」
 鎌「うん(笑)」
 倉「しかし、凄い歌だ・・。YOUさん・・・」
 鎌「(歌詞を聞いて) ♪あなたの戸籍に一直線~! って!(笑)」
 倉「鎌田さんは好きなアイドルとかいましたか?」
 鎌「俺は小学校の頃はピンク・レディーの大ファンだったね」
 倉「お!タイムリー!最近、再結成しましたよね!」
 鎌「ピンク・レディー親衛隊ってのをクラスで作って、
   それに逆らう奴はぶん殴ってたよ」
 倉「なんで殴るんですかっ!?(笑)」
 鎌「アハハハ!」
 倉「僕は全然アイドルとか好きになった事ないですねえ。
   それってつまんない人生だったりして・・・」
 
風見倫子がいると聞きつけてやってくるお茶漬けシスターズ。
しかし、その店内には既に本人が居て・・・。
 倉「・・相変わらず間の悪い女たちですよね」
 鎌「うん(笑) 『ムー一族』における樹木希林を3分割したような、
   悪口しか言わない女たちだ(笑)」
 倉「(悪口に) なんでコイツら自尊心しかねえんだろ?(笑)」
 
 
“俺がクレジットカードを使っているのを旧友が見て愕然としてた(鎌)”
 
財布を落としたマスター。カードやら免許証が心配といって・・・。
 鎌「マスター、カード持ってんだあ。俺去年、古い友人と飲んだ時、
   俺がカードを出したら死ぬほどビックリしてた。
   “鎌田!?お前、カードあんのか!?!?”って(笑)」
 倉「(笑)」
 鎌「そして今、俺はマスターにそれを驚いている(笑)」
 
財布を拾ったホームレス風の男(でんでん)が食堂に現れる。
 倉「でんでんさん、こういう渋いというか、言葉は悪いですが
   こういう貧相な役柄などは本当に巧いですよね」
 鎌「うん」
 倉「もう普通のオジサンにしか見えないです。素人の」
 鎌「最初、ホームレスにしては身奇麗に感じたから
   ちょっと設定が分からなかったけどね」
 倉「公園で理容師のような事をやっているシーンもあるんで、
   元々ホームレスになるべくなったような人間ではない、
   という設定なのかもしれませんね」
 鎌「そうかもね。事情があったのかもね」
 倉「最初の話に繋がりますけど、このシリーズ通してみても
   この世界観で生活しているように見えたのは、でんでんさん
   くらいかもしれないです。そう感じます。それくらい自然な
   身体や表情の動かし方ですよね。発音の素朴さも」
 鎌「うん」
 
 
子を捨てた親を、現実はドラマのように赦せるのか
 
風見倫子とホームレス男の関係が垣間見えていく。
同時に、倫子の主演映画の撮影が始まり・・・。
 鎌「実際にでんでん演じるお父さん、それに捨てられた経験を
   持つYOU。そのYOUが映画で父に捨てられた娘を演じる。
   しかし、撮影でリアリティがないと監督に叱られるYOU」
 倉「そうですね」
 鎌「そこがね、どういう状況で捨てられたのか分からない。
   自分の過去を振り返りたくないから、リアリティのない演技を
   倫子はしてしまうんだろうか?」
 倉「そうかもしれませんね。あと、幾つくらいで捨てられたのか?
   幼い頃すぎると記憶があまり無いかもしれませんよね」
 
食堂にて、マスターに映画のストーリーを語って聞かせる倫子。
倫子は映画内の台詞「恨んでいない。ありがとう」に自身を重ね、悩む。
 鎌「・・・・・そんな台詞、言えねえよ・・・」
 倉「・・・・・」
 
完成した倫子の主演映画を、映画館で泣きながら観る男(でんでん)。
 鎌「このくだりのてんどん、カットバックはいいね」
 倉「泣きながら、後ろの客に文句言われながらも、俺の娘だと
   笑いながらピースをするでんでんさん・・・・・。
   何か、本物の演技とはこういうものなのかな、なんても思います」
 鎌「しかし、倫子はあのホームレス風の男を本当に父だと
   察したんだろうか? それとも四万十川の青海苔で父を
   思い出せただけなんだろうか?そこがよく分からないね」
 倉「はい。僕としては、倫子はあの食堂に来た男を父と気づきながらも
   これからも会わず、会えず、暮らし続けていく事がいいなと
   思ってしまいます。そういう成長を倫子はできたと思いますし。
   そういう意味では倫子があの焼きそばで父と理解したかどうかは
   はっきりと描いてくれた方が、よりこれからの二人の人生を
   想像していけたような気がします」
 鎌「惜しいよね。でも二人はいつか食堂でばったり出会ったりして」
 倉「その時はどうなるんでしょうね・・・」
 鎌「赦すのかな、父を。赦せるのかな・・・」

 

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第八話<後編>へつづく・・・





 
 
 

2010.10.18