第十二夜:「イクジナシ ヒトデナシ」

diary_ikuji

こんばんわ。
今日は怒りと悲しみに充ち満ちている、けい子(仮称)です。

昨日、息子の小学校へ三者面談に行って参りました。
面談自体は何の問題もなく、我が子がクラスの皆に愛されているのを
知り、本当に嬉しく思えました。 担任の先生も温和な方でしたし、
息子の進路も特に問題は無さそうなのでほっと一安心しました。
これなら、お空のあの人にも少しだけ自慢できます。
ま、鉄郎クンは落ち着きが少し足りないですけどねぇと先生に言われ、
それは完全に私のせいだな・・・とは思いました。
嗚呼、ごめんなさいいいい!

ですが、その帰り!

息子は友達と遊ぶと言って教室に戻っていったので、私は一人で
帰ろうと玄関に向かって歩いておりました。
するとあちらからかなり若くて綺麗な、というか学校に来るような
格好じゃない女性がこちらに向かってくるではありませんか。
三者面談の親御さんかなとは思いましたが、次の瞬間、その足元から
鳴り響いているカツッ! カツッ! という甲高い音を私は聴きました。
そうなんです。その母親、ハイヒールで校内を歩いているんです!
マッ、マジで!? 学校っていつから土足OK!?
あまりの驚きで言葉を無くしておりましたが、私の横を通りすぎる際、
知らないだけかと思い、「ここは土足厳禁ですよ」と声を掛けました。
すると、その女は私の顔を一瞥し、そのまま歩き去りました・・・・・。
「怒髪、天を衝く」とは、まさにあの時の私だったのでしょうね。
その後どうやってウチに帰ったのか、あまり覚えていません。
多分、恐ろしい速度を出して車を飛ばしていたのだろうと思います・・・。
 
 
その話を、今日の休憩時間に仲居頭のヨシ子さんにしました。
顔色一つ変えず、ヨシ子さんは「そう・・」と答えました。
えっ?!「そう・・」だけ!?私がおかしいの???
ヨシ子さんは年齢的にも実績的にももはや老練で屈強な
スーパー主婦でありまして、その主婦コネクションたるや
この小さな町全部を網羅してるんじゃないかってくらいの情報通。
それだけじゃなく、ヨシ子さんの世話好きで慈愛に満ちた人柄が
人を呼び、頼られているのだと私は思っておりますが。
ヨシ子さん曰く、こんな田舎の地域でもおかしな母親は確実に
増えてるよと。 ハイヒールなんて序の口だって・・・。
 
ヨシ子さんが最近聞いた話では、授業参観日の日取りに文句付けてきた、
若い母親がいたそうな。都合が悪いから日にちを変えてくれと担任に
申し出たそうで。 担任もそれはムリなんですと言いながらも、一応理由
をその母親に聞いてみたら、その日は海外旅行に行くからムリなんだと。
しかも子供は連れず、両親だけでの旅行なんだと。
私は開いた口が塞がりませんでした・・・。
 
私は年齢的に息子と同じ年代の子を持つお母さま達よりは、
少々上なのですが、これまでおかしな若いお母さん方には出会わず
来ていたようです。ま、自分が学校の役の時にはピシャリ!と進め、
誰にも文句を言わせないようにしてきたからかもしれませんが。
それでも道理から外れた事なんて絶対にしませんよ?
だから、ヨシ子さんのお話は少々別次元のお話のように思えて・・・。
こんな田舎なのに・・・。
 
そんなヨシ子さんが神妙な面持ちで、ある話を切りだして・・・。
それはヨシ子さんの近所の家で起きている、育児放棄のお話でした。
育児放棄。 ネグレクト。
今ではしょっちゅう凄惨な事件として育児放棄が報道されています。
報道を見る度、酷く胸が締め付けられ、やり切れない気持ちになります。
何故!?どうして!?他に術は無かったの?!という想いしか
私の中には生まれません。 本当にあってはならない事だと思います。
そんな育児放棄が、こんな町の、すぐ身近でも起きていたんです。
 
 
その家庭は、両親が離婚し、父親が出て行った為、現在は母親と長男、
長女、次男の、四人で暮らしているそうです。 しかし母親は離婚後に
鬱病のようになり、寝室から一歩も出なくなってしまったそうで、
家事の一切を行わなくなったそうです。
それで中学一年の長男の子が、家事の一切と、新聞配達やら搬送の
バイトをしながら、兄弟と母親を支えているのだと。
他の兄弟もまだ小学生と幼稚園に通うような幼さ。
それでヨシ子さんと周辺の主婦は結託して、何かにつけては
その家をのぞき、けなげに働く長男くんと、それを応援する下の兄弟に、
ご飯の差し入れやらをしているのだということです。
子供達が、特に長男くんが中学生という年齢だったからほんの少しだけ
報道される事件のような事が回避できているだけで、もしも兄弟皆が
幼かったら、もっと悲惨な状態になっていたかもしれません。
ヨシ子さんはこう言っていました。
 
「育児を放棄したくなる事なんて母親なら誰でも想うけど、それを
 しないのが母親よねえ。 それをするのは母親になれていないんだよ。
 いや、もしかして人間にもなれてないのかもね。 それって怖いね。」
 
 
私も片親だからこそ、息子には辛い人生を一瞬でも歩ませたくないと
本当に思っていますし、両親が揃っている家庭以上に沢山の幸福と愛情を
感じさせてあげたいと思っています。
だから、私はネグレクトなんか絶対に肯定できません。
絶対に許さない。 事情なんか関係ない。 子供に罪はないんだ。
 
最後にヨシ子さん、その長男くんがこの旅館にも
新聞を配達しているという事を教えてくれました。
だから今度長男くんに会えたら、お腹がすいたらいつでも
兄弟全員でウチに食べに来なさい! と言ってあげようと思います。
それくらい、したっていいじゃん。
 
 
 
 
 

2010.10.13