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ポール・マッカートニーに会いに行く
撮影/文・鎌田浩宮
Dear
Sir Paul McCartney
OUT THERE Tour in Japan
19th Nov. 2013
at TOKYO DOME
天使
を
志願退職
した
男
の
ライヴ。
2013年11月19日。
多くの人が、待ち焦がれて仕方ない。
脱原発デモかい?
秘密保護法反対パレードかい?
今日だけは、違うんだぜ、ベイベー。
1966年6月29日。
實おじさんは、まだ上田に住む高校生だった。
継母のきつい仕打ちに耐えながら、レコード針を落として、楽しんでた。
ビートルズが初めてこの国にやって来た2年後に、僕は生まれた。
おじさん、ポールが来るんだよ。
一緒に、行こうよ。
僕らは、東京メトロ後楽園駅を降り、開場の17時よりだいぶ前に、東京ドームへ繋がる歩道橋を昇りかけ、びっくりした。
歩道橋も、下の歩道も、人、人、人。
警備員さんが「立ち止まらず前に進んで下さい」と言ったって駄目さ。
だって、ポールの入り待ちをしてるんだから。
悲鳴が、上がった。
10分もしないうちに、本当にポールの車がやって来た。
窓から手を精一杯伸ばして、挨拶してくれた。
車は、ドームに入って行った。
早速、素晴らしいものが見られた。
それにしても、ポール、来場、遅くないかい?
一般客入場まで、時間がないよ。
「ケネディー トラフィック ジャム」と、ポールが言ったそうだ。
皇居で行われたケネディー駐日大使の信任状捧呈式があり、渋滞に巻き込まれたんだって。
さあ、バンドのサウンドチェックだ。
開始が16時45分頃、終了が17時35分頃。
最近のライヴは、すごい。
このリハーサルに、別料金を払った「VIP」と呼ばれる客は入場できるんだ。
その時に披露した曲は、以下の通りだそうだ。
1.On My Way To Work(ポール登場前にバンド4人のみ)
2.Match Box
3.Blue Suede Shoes
4.Flaming Pie
5.Highway
6.Whole Lotta Shakin’
7.Don’t Let The Sun Catch You Crying
8.Midnight Special
9.即興
10.Ram On
11.Alligator
12.San Francisco Bay Blues
13.Bluebird
14.Lady Madonna
これだけの曲を、サウンドチェックで披露してしまう体力、精神力。
なんて、すごいんだろう。
だから、一般客開場は、大幅に遅れた。
でも、皆、一生に1度しかないその雰囲気を楽しんでいるから、平気だ。
皆、ここの正面玄関の写真を撮って。
30代くらいの男の子3人組が、これをバックに撮って下さいと言うから、喜んで撮った。
そうしたら、我慢できず既にちぃと呑んだ別のおじさんが、これをバックに僕を撮ってくれた。
こうして、輪が広がる。
ドームの外庭に、巨大なグッズの販売場があるんだけど、信じられないほどの人の列。
開演の時間になっても買えないだろうと、断念。
この写真の左側に、大蛇のような行列です。
客層は…何せ5万人もいるんだから、僕くらい、僕より下の世代も沢山見かけたけれど、圧倒的に多いのは、50代以上の人々。
だから、60代、70代の人も多いよお。
初老と若者の親子連れも、よく見かけた。
かなりラフな映像だけれど、雰囲気だけでも、どうぞ。
ちなみに、開演は19時。
その約2時間前で、この様子。
皆僕と同じで、早く入場して、会場の雰囲気を楽しみたいのかな。
6時を過ぎたか過ぎぬかそんな頃、ようやく開場。
ステージにはDJがいて、世界各国のビートルズ/ポールのカヴァー曲がプレイされている。
金沢明子の「イエロー・サブマリン音頭」がかからなかったのが、残念?
ドーム内も、ごった返してます。
女性用トイレが混んでしまうのはよく見かけるシーンだけど、男性用も、長蛇の列。
開演しちまうんじゃないかと、気が気じゃない。
かすかな期待は幸いし、場内にもグッズ販売が。
でも、品数、少ない。
場外では、何十種類も売ってたものね。
そして、DJは去り、ビートルズ/ポールの曲のリミックスがかかり始める。
スクリーンも呼応して、昔の彼らの写真のコラージュを映す。
そしてヘフナーのヴァイオリンベースがアップになり、それは星になり、19時15分か20分だったろうか、ステージが始まった。
1. Eight Days A Week
2. Save Us
3. All My Loving
4. Jet
5. Let Me Roll It/ Foxy Lady Coda
6. Paperback Writer
7. My Valentine
8. Nineteen Hundred And Eighty Five
9. The Long And Winding Road
10. Maybe I’m Amazed
11. Things We Said Today
12. We Can Work It Out
13. Another Day
14. And I Love Her
15. Blackbird
16. Here Today
17. New
18. Queenie Eye
19. Lady Madonna
20. All Together Now
21. Lovely Rita
22. Everybody Out There
23. Eleanor Rigby
24. Being for the Benefit Of Mr. Kite!
25. Something
26. Ob-La-Di, Ob-La-Da
27. Band On The Run
28. Back In The U.S.S.R.
29. Let It Be
30. Live And Let Die
31. Hey Jude
Encore One
32. Day Tripper
33. Hi Hi Hi
34. I Saw Her Standing There
Encore Two
35. Yesterday
36. Helter Skelter
37. Golden Slumbers/Carry That Weight/The End
2時間
45分
の、
楽園。
1曲目から、声の伸びが、テレビのワイドショウで観た時よりも、遙かに素晴らしかった。
予想済みだったけれど、東京ドーム、音響悪すぎだ。
ドラムスが複雑なフレーズを叩くと、残響で何が何だか分かんなくなる。
でも、次第にそれを凌駕していく、ポールたちのパワー!
続いて2曲目より、ニューアルバムからの曲を挟んでくるんだけど、それがすごくいい。
70代にして書き上げた今回の新譜が、過去の作品と遜色ないことを証明してしまう。
5曲目で、ジミ・ヘンドリックスの曲をかなり長く演奏した。
ポールがそれほどジミを敬愛していたとは。
驚きだった。
9曲目の「The Long And Winding Road」で、大粒の涙がこぼれ始めた。
僕はこれまで、この曲で涙したことがなかった。
かえって、大袈裟な曲だな、くらいに感じていたこともあった。
でも、このメロディーが持つ説得力は、何なのだろう。
あろうことに、ハンケチを忘れてきてしまった。
双眼鏡まで持って来て、準備万端だったのに、涙をふく物がない。
どうしたらいいのだろう。
15曲目「Blackbird」を演奏する前に、ポールが言った。
アメリカの公民権運動を、イギリスのテレビで観ていた。
それでできた曲だよ、って。
(あ、僕が英語堪能な訳じゃないです。ポールが喋ったことを、瞬時に翻訳がスクリーンに映し出されるんです。すごいすごい)
場内が、水を打ったような静けさに包まれる。
日本も、差別がなくなるといいな。
ヘイトスピーチも、福島県人との結婚拒否も、クソ喰らえだ。
28曲目の「Back In The U.S.S.R.」では、スクリーンにほんの一瞬だけ、プッシー・ライオットの文字が躍った。
そして、アンコール前の「Hey Jude」を、観客皆で合唱する多幸感。
こんな時が訪れるなんて、夢のようさ。
珍しく、周りの皆と肩を組みたくなった。
ポールは、ライヴツアーなどしなくとも、ひ孫や玄孫の代まで食べていけるだろう。
それでもツアーを組むということは、皆と歌うことが、本当に楽しいんだと思う。
愛と平和の時代を経て、エプスタイン、ジョン、ジョージ、リンダの死を経て、歌うことが、心から楽しいという境地へ。
去年ビーチ・ボーイズを観た時も、キーを変えずに立ち続けて歌う姿に驚嘆したが、真夏の野外スタジアムというせいもあって、ブライアン・ウイルソンはかなり困憊してた。
欲を言えば、あの流麗なるベースプレイを、もっと聴きたかった。
かなり多くの曲で、ポールはギターによるバッキングに回っていた。
そして、舞台から引っ込み、ほぼ間を開けずすぐにアンコールに登場し、時に相撲のしこを踏む仕草をし、時にピアノにほおづえをついて僕らを見回し、どうだい?素敵な夜になっただろう?と無言で僕らに語りかける。
そして、「福島のために歌うよ」と言ってくれた「Yesterday」で10度目の号泣。
昨日は、帰ってこない。
僕にも、あなたにも、福島の人々にも。
僕の隣は、70代のご婦人だった。
懸命に手拍子し、「JET」や「Hi Hi Hi」に合わせて、拳を振り上げていた。
時々、ご婦人は、僕の方を見やるのだった。
それは、僕が、實おじさんの写真を手にしていたからだった。
元
天使
の
仕業。
2度目のアンコール、最後の曲「the end」が、終わった。
午後10時。
約2時間45分のステージが、終わってしまった。
ずっとこの幸福感に浸っていたかった。
全公演観に来る人の気持ちがよく解った。
ジョンも、ジョージも、リンゴも、メロディーと歌詞で愛を伝えてくれた。
しかし、ポールは、やや違う。
メロディーそのものが、愛に満ちているのだ。
だから、歌詞の意味が分からなくとも、メロディーだけで幸福感に包まれる。
傑作「ベルリン 天使の詩」という映画では、天使を「退職」し、人間になった登場人物が出てくる。
あの「刑事コロンボ」の主役を演ずるピーター・フォークが元は天使だったという美しき設定なのだが、ポールもひょっとしたら、天使を「志願退職」して、人間になったのかも知れない。
ツアーで世界中の人を幸福に包むことが楽しくて、そんな70代を過ごしている、元天使。
天使は人を導き救うことができるのに、ポールは人間になることを選んだ。
周りの天使たちは、人間になるなんて、と止めただろう。
人間の生活は、苦しく、哀しみに溢れているからだ。
しかし、天使は人を導き救うことが仕事だけれど、作曲は、できない。
そして、ポールの創るメロディーは、人を導き、救う。
實おじさん、喜んでくれたかな。
「しろあき、またポールと、会いたいな」
名残惜しくって、皆、写真を撮ったりして、もの思いにふけっている。
僕らも名残惜しいよね、おじさん。
も少し、散歩しようよ。
寅、
満男
と
会う。
名残惜しくって、ドームの向かい、目立たない所にある、ひなびた中華料理屋に入った。
ポールの客でごった返していて、相席だった。
僕は満面の笑みで、生ビールを呑んでいた。
ポールがベジタリアンだから、つまみは白菜漬けを頼んだ。
少しすると、未成年と思しき少年が入ってきた。
「お姉さん、こっち、相席いいよ」
僕は合図した。
どう見ても未成年なのに
「飲み物はどうします?」
と店員さんに尋ねられ、目を白黒させながら烏龍茶を頼んでいる。
僕は、浪を亡くして以来、そういったことは避けてきたんだけれど、元天使が僕の背中を押した。
「兄さん、塾の帰りかい?それとも、ポールを観てたのかい?」
ポールの帰りです、と少年は答えた。
「じゃあ、俺と一緒だ。だから、乾杯しよう」
生ビールと烏龍茶を、カランと鳴らし合った。
「兄さん、よくチケット取れたねえ」
「チケット屋で、2万円で売ってたのを買ったんです」
「そりゃあ散財したねえ。俺の白菜、どんどん食べなよ」
少年は17歳。
彼の父親は、僕の2歳上だった。
こんなの、持って来たんです、と目を輝かせて、カバンから取り出したのは、CD化されてないビートルズのライヴ盤!
ビートルズ・ライブ・アット・ハリウッド・ボウル。
「よく持ってるねえ!実は俺もこのレコード、家にあるんだ。小学生の時買ったんだよ」
僕らの会話に、相席の皆も色めきだった。
「ええ?このレコード知らない!すごいわねえ」
初老の夫婦が話しかけてきた。
テーブルが、1つになった。
「実は、サインもらえるかと思って、色紙、持って来たんです」
少年は、小声で僕だけに話してくれた。
「そうか、ポール、ここを通りがかるといいなあ」
少年の頼んだ坦々麺がやって来た。
11時を過ぎた。
少年は帰る時間だ。
「兄さん、ここは俺が払うからいいよ。気を付けて帰りなよ。またポールと会えるといいな」
彼は、笑顔で手を振って帰って行った。
17歳で、ひょっとしたらポールと会えるかもと、ドームの近くの店に寄って。
ひょっとしたら、1人で飲食店に入るのも、初めてだったんじゃないだろうか。
僕も、若い頃は、見知らぬ人に奢ってもらったり、助けてもらったり、したもんだ。
今は、自分が「寅さん」になる齢だ。
さあ、酒も進んで11時半だ。
そろそろラーメンでも食べるか。
まだ、夕飯を取ってないんだ。
「すみません、麺類、今日はしまいです」
ちゃんと、寅さんの様に、オチまであるじゃねえか。
僕はほくそ笑みながら、店を出た。
實おじさん、至福の1日だったね。
ポール、最後に「また会おうね」って言ってくれたもんね。
楽しみにしてようね。
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