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矢野顕子、忌野清志郎を歌うツアー2013を観る
ライヴを観に行く予定の人は、種明かし、どうぞお気を付け下さいね。
写真/文・鎌田浩宮
アッコちゃん
との
出逢い
は、
1980年
の
広東。
僕が小学5年生でYMOに夢中になり、フジカセットの懸賞が当たってYMOのワールドツアー凱旋公演
「FROM TOKIO TO TOKYO」
の武道館へ行ったのが小学6年。
その時に演奏された矢野顕子の
「在広東少年」
は、そのライヴの演目の中で最もロックンロールしていた。
皆が知っている通り微動だにせず演奏する3人の後ろで、憲司のディストーションが1番輝いていて、1人だけぴょんぴょん飛び跳ねながらキーボードを弾き、歌うアッコちゃん。
海外でのツアーでも、この曲が1番盛り上がったとか。
これ以来、僕はアッコちゃんを聴き続けるようになる。
そして、そのすぐ後の
「い・け・な・い ルージュマジック」
で、忌野清志郎と出逢うのだ。
矢野顕子、忌野清志郎を歌うツアー2013、2日目。
4月21日、日比谷公会堂。
わざと霞ヶ関駅で降りて、出口を出てすぐにある日比谷野外音楽堂に沿ってゆっくりと歩く。
RC、そしてその後のキヨシローやチャボを聴き続けた、野音。
最初の頃はまだ高校生で金がなくって、塀の外でかじりつくように聴いていた。
雨は止んだけど、二重の虹は出てなかったかなあ?
お客さん、僕より上の世代の人が、多い。
僕より下の世代は、あまり見かけないです。
日比谷公会堂には、初めて入った。
1929年に出来た、古くって素敵な建物。
当時はまだ珍しかった東京唯一のコンサートホール。
定員2,074名。
会場内の散歩、こんなに楽しい。
使い古され、人々の何かが染み込んだ建物って、こんなにも味わい深い。
あちこち、歩き。
この売店も、いいんだなあ。
子供の頃は、こんな風景、沢山あったのにね。
地元の映画館とかさあ。
近所の遊園地とか、百貨店とかさあ。
1曲目
は
「よォーこそ」
では
なかった
けれど。
清水ミチコさんからの花。
キヨシロー関連からの花はなかったです。
開演前のBGM、ちょっと期待してた。
キヨシローの曲だったら、いいなあ、って。
普通のジャズだった。
開演前から幕は開いていて、学芸会というか、おゆうぎ会というか、ステージの上には、風船のようなオブジェにキラキラ十字の星。
これ、キヨシローの「ブーツ」を模しているんだなあ、きっと。
1曲目は何かなあ?
「よォーこそ」行って「ロックン・ロール・ショー」行ったら最高なんだけど、と絶対あり得ない夢想をしながら時を過ごす。
席は幸運にも、前から5列目。
最近のライヴじゃ、先行発売だなんて言いやがっても1階の後ろの方だったり、ヘタしたら2階席だったりで。
一体あの【発送手数料】600円だの【お支払い手数料】210円ってのはなんなんだよ悪い席取るための費用なのかよって腹が立っていたの。
こんな前で観るの、久しぶりだ。
そして、照明が落とされた。
おゆうぎ会のセットのようなスクリーンに、キヨシローとアッコちゃんが映し出される。
在りし日のイマワノ・アキコのライヴ。
曲は「ひとつだけ」。
今日のライヴの演目全てが、キヨシローにまつわるものではないだろう。
でも、この映像を観ただけで、僕は感極まってしまった。
この会場のどこかに、来ている。
「キヨシロー!」
と叫んでしまった。
その直後、他の誰かも何かを叫んでいた。
映像の途中で、実物のアッコちゃんが、登場。
映像の曲に合わせてインプロを弾く。
そして映像が消えていき、アッコちゃんのインプロは
「誇り高く生きよう」
へと連なっていく。
やはり、来てよかった。
アッコちゃんの解釈で、キヨシローの曲のよさがさらに際立ったアルバムだったが、ライヴではさらにそれを感じられた。
いつもより強く大きく足踏みをする、その音がデカい。
こんなに足をストンプさせるアッコちゃん、珍しい。
アルバムよりもさらにアレンジは変わり、曲のよさを引き立てる。
「デイ・ドリーム・ビリーバー」1つとっても、ヴォーカルの「彼女はクイーン」のビブラートを少し強めにし、少し長めに歌う。
微調整にしか聞こえないかも知れないが、これだけで情感はぐっと深まる。
また、「恩赦」の終盤での、ホンキートンクなピアノプレイはすごかった。
ツアー開始前に、どれだけ練習を積んだのか、それとも本番一発のインプロビゼーションが冴えわたるのか、僕は前者だと思うが、曲がアルバムよりもさらに深化して、忌野清志郎の曲の世界に深みを増している。
結局、ゲストのMATOKKUとのすんごい共演も含めて、アルバムからは
「毎日がブランニューデイ」
以外は全て歌われ、その他に、以前既にアッコちゃんがカヴァーしていた
「海辺のワインディング・ロード」
も歌われた。
僕が聴きたかった
「きよしちゃん」
は歌われなかった。
まあ、あの曲は、特別なものだから、歌うのにも相当な決心が要るだろうからね。
でも、この機会を逃すと、もう歌われないかも知れない、と思うと、どうしても聴きたかったのだ。
その他に歌われたキヨシロー以外の曲で印象に残ったのは、大貫妙子さんのカヴァー
「横顔」
だったです。
歌詞を聴けば見当違いなのは承知の上なんだけれど、メロディーと混じり合って僕の耳に届くと、アッコちゃんが今でもキヨシローの横顔を見て笑顔でいることを歌っているように聴こえたのだ。
あと、新曲も披露された。
「海のものとも 山のものとも」
という曲名で、前日の所沢で披露した新曲とは異なるそうだ。
やるねえ、さすがだねえ。
この曲は「震災で傷ついた人へ贈るような曲を」と乞われて書いたらこんな曲になった、と言っていたんだけど、
「どんな人にも明日は来る」
というニュアンスの歌詞があった。
歌詞を全て聴き取れたわけではないので、誤解している部分があるかも知れないけれど、誰もが知っている通り、震災では明日の来なかった人が何万人といて、その明日がつらくて自ら命を絶った人さえいる。
なのでそのフレーズが、僕の喉に引っかかったままでいる。
今度またじっくり聴いてみたい。
あと、もう1つ不安があるのは、このツアーの愛知公演には岡林信康がゲストで来るのだが、岡林は以前キヨシローの一連のプロテストソングに批判的な発言をしていたことがあったらしく、その辺はどうなったのかということだ。
「愛し合ってるかい?」
を、
かみ
しめる。
先日、FM東京のピーター・バラカンさんの番組にアッコちゃんが出演して、そのテイクがここで聴けるようになっている。
(違法ではないので安心して聴いてちょ)
ピーターさんとアッコちゃんは古い仲なので、このアルバムに関しても、どのインタビューよりも核心をついたものになっていて、うんうんうんと僕も頷いたのだった。
ピーターさんが、このアルバムの選曲の基準は?と訊くと、
「『いい事ばかりはありゃしない』も好きな曲だけど、私は白バイに捕まった事がないから、歌えないし歌おうと思わない」
と答える。
ピーターさんが、RCの反原発ソングを評価すると、
「キヨシローがステージで『愛し合ってるかい?』って言うのは、ファッションで言ってるんじゃなくって、本気で言っているの。本気で愛し合ってほしい。人間に1番大切なものは愛であると本気で思っていた。だから、そういう愛を攻撃する権力だとか圧力には本気で嫌だったの」
と答える。
「『恩赦』は昭和天皇が死んだ時に創られたのは知っているけれど、私には人間全てへの救済の曲に聴こえる」
というのも、クリスチャンであるアッコちゃんらしいなあ!と納得がいったのだ。
そんなアッコちゃんが、キヨシローの「ブーツ」ブーツに履き替えて再登場、アンコールで歌ったのは、キヨシローの名曲
「セラピー」と、MATOKKUを再び呼んで演じた
「PRAYER」だった。
この曲も、キヨシローに向かって歌っている気がするのだ。
「時を越え 空を越え たどりつくから
降りつもる悲しみに 負けることなく
祈ることだけ
今 強く願うことだけ
あなたが 今日も 明日も いつまでも
愛に包まれているように」
アッコちゃんもMCで言ってたけれど、このライヴだって、続編があるかも知れないんだから。
だって、ツアータイトルには「2013」って、あるでしょ。
だったら「2014」とか、色々、ありそうなんだから。
そして最後に、こう言った。
とっても、嬉しかった。
「これからも、忌野清志郎の曲を聴いて下さい」
アッコちゃんがステージを去るその時、僕はキヨシローがどこに来ているのか、ステージを見回した。
上手を、下手を、そして上の方を見上げたりしながら…。