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キャマダの、ジデン。㉞亀戸
鎌田浩宮・著
おー、大きくなったのー。
僕が、中学3年になったこの時、
鎌田家は一大決心をして、
三軒茶屋のマンションの
小さな小さな一室を
ローンで購入した。
うちの家計から考えると
かなり無茶したなオイってな感じだが
「賃貸で家賃を払うと思えばだよ、
ほぼ同額の払いを続けて
60歳になった時ゃ自分の家になるんだから
絶対に得だ!」
っつーのが母の意見だった。
しかし。
まただよオイ。
父は転職先でまた女を作り
家出をしていた。
正式に離婚したいとのことだった。
これはもう、父の才能だった。
仕事先で女を作る。
職場内の場合もあれば
職場近くのスナックの女だったり。
そして女と縁を切るために職場を変えると
また次の職場先で女ができてしまうのだ。
とにもかくにも
稼ぎ頭の父がいなくなった。
母は昼も夜も働いた。
だってね、僕、高校受験なんですもの。
高校行く金、うちにあんのかなあ…?
母は深夜、
勤め先のパブから帰ると
女に父を寝取られた怒りで
家の物を叩き壊しながら、泣きわめいた。
そして翌朝になると、
腫れた目で母の兄のデザイン事務所で働いた。
まだ少年の15歳に
これを間近で見させられるのはつらかった。
毎晩のように半狂乱になるのだ。
地獄は何処にある?
と尋ねられたら、
三軒茶屋2丁目
と答えただろう。
それにしても
昼夜働いていた母は、
一体、いつ飯を食って
いつ休んでいたんだ?
当時の担任の藤田良樹先生が言うには
僕は父のことを
殺してやりたい
と言ってたそうだが
実際のところは、
憎いだのなんだの
言ってる場合じゃない。
家に戻ってもらって
家計を何とかしてもらわんと、
ヤバイんである。
で、ある日の夕方、父に、会いに行った。
父は女と、亀戸に住んでいた。
實おじさんの小岩のすぐ近くで
好きな下町のはずだけど、
全く風景を覚えちゃいない。
「家に戻ってきてくれよ。
俺も受験だし、家も買っちゃったし、
この先どうするんだよ。」
女がコーヒーを出してくれた。
「俺は戻らない。
これから仕事だ。
とっとと帰れ。」
父は女の勤めるのスナックで働いていた。
【蘇我】の頃から、
水商売の好きな奴だなあ。
父にとっては、
息子より、
ダンゼン、女だった。
結局喧嘩のようになって
仕方なく帰った。
「親父、駄目だったよ。」
母は落胆しきって、
また夜の仕事に行った。
それから少しして、
母方の親戚から借金することができたのか、
僕は都立高校に
入ることができた。
私立は無理よ~ん。
学費、高いもん。
母に楽をさせようと
入学と同時に新聞配達を始めたら
もー眠いのなんのって
1時間目から6時間目まで
全部眠りこけてもーた。
僕はあっとゆー間に
クラスでビリの成績になった。
中3までは、そこそこ
お勉強、でけたんだけどねぇ・・・。
亀戸、
今度、行ってみたいなあ。
どんな街、なんだろ・・・?
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