2009年5月2日(土) すべてはALRIGHT(YA BABY)

文・鎌田浩宮

渋谷のタワー、HMV、インディペンデントのレコード店。
何処も若者達が、むさぼるように試聴ブースで音楽を聴いている。
凄い勢いだ。
皆、大好きなんだね、音楽。
ノーミュージック、ノーマター。

音楽に、救済されたことは、あるかい?
その音楽を聴けば、生きていくことができる、
そんな音楽を、知ってるかい?
どんなに困難な時も、悲しみの時も。
そんな音楽を、探し当てたことは、あるかい?
音楽を、消費しちゃあいないかい?

その夜、僕は、うちの愛猫の浪君を肩に乗せ、
夕涼みに出かけた。
静かだね、浪君。
おかしいな、ひぐらしの季節なのに、
異常気象のせいかしらん。
しーん。
嗚呼、大友君の別荘じゃ、
ひぐらしとカエルととんびの声が豊かで、
まるで音楽なんて必要ないのに。

でも、都会と思われている三軒茶屋も、
ちょっと裏通りに外れれば、
古びた木造家屋、ぷーんと夕げの匂い。
まだまだ捨てたもんじゃないさ・・・とその時、おっと!
浪君がいわしの匂いにつられて、
その中の1軒に入っていってしまったではないか。
そろりそろり。
おお、自由な浪君よ!
僕も君のように、
大好きなあの娘の家に侵入したいぜ。

「すいません。うちの猫がお邪魔しちゃって」
僕は玄関を叩いた。
しーん。
「うーむ、困ったな。ちょいと失礼しますよ。」
がらがらがら。
おや、少し入ると、音楽が聞こえた。
相当聴き込んだのだろう、
レコード針が、プチプチ言っている。

すべてはALRIGHT Ya Baby
すべてはALRIGHT Ya Baby

これは忌野清志郎の声だ。
仲井戸麗市のギターだ。

夢を見るのは 悪い事じゃない
コトをあせりすぎちゃダメさ
ちょとだけ 時の流れが
君をじらしてるだけさ

硬い畳を踏み越えていく。
今日も、ちょっと、辛かった。

頭ごなしに 笑われても
うぬぼれて踊ってりゃEのさ
突然の 贈り物を
受け取る時がきっと来るさ

あれ、この部屋にも、いないのか。
何時から僕の人生は、思い通りにいかなくなったんだろう。

なぜ?母のない子のような
なぜ?こんな胸騒ぎ
叫んでも
閉じこもっても
Oh 涙をふいて BABY
もっと強く抱いて

おーい、浪君、何処にいるんだい。
誰もが味わう僕のこのもやもやを、誰もが慰められれないか。

気分を出して その気になって
コトに立ち向かうしかないぜ
大丈夫さ 上手くやるさ
すべては始まったばかりさ

小林和生、新井田耕造、G2woのサウンドだ。
癒やしの術しか知らない彼等には、これは解らないか。

すべてはALRIGHT Ya Baby
すべてはALRIGHT Ya Baby

ここにいたんだね、僕の浪君。
僕達はその家を出て、自分の家で夕ご飯を食べた。
あの曲は、僕も知っている。
「ハートのエース」に入っている、「すべてはALRIGHT」という曲だ。

大量生産され、大量消費される産業ロックの、全てが悪い訳じゃない。
しかし、音楽は、消費するものではない。
本当にいい音楽というのは幾つも実はあって、
心の底から胸躍らせてくれたり、
腰くねらせてくれたり、
とっておきの夢を見せてくれたり、
失望の底から這い上がらせてくれたりする。

そんな音楽に早くから出逢えた人は、本当に幸せ。
そんな人は、一体どのくらいいるのだろう。
それは、どんな曲なんだろう。
「さー、どーだろ、にゃー!」
あ、浪君も、教えてほしいようです。
今度、教えて下さいね。


2012.05.02