キャマダの、ジデン。⑲さよなら馬鹿丸出し軍団

著・鎌田浩宮

小学4年。
ありゃりゃ、また父がいなくなった。
女を作って家から出て行ったのさ。

「パパは、帰ってくるの?」

一晩たりとも、帰宅しなかった。
数ヶ月して、離婚するということになった。
一生の中で あんなに泣いたことはあるだろうか、
母は、僕と弟を連れて、
池袋に引っ越すということになった。

親友たちと別れる悲しさは
身を引き裂かれる、なんて比喩では足りない。
「なんとかならないの?!」
僕は毎晩泣きながら懇願した。
こんな素晴らしい仲間、「馬鹿丸出し軍団」は2度と作れない、
それを引き裂かれるのは気が狂いそうだった。

「マカロニほうれん荘」と
「ムー一族」と
ピンク・レディーが
束んなって僕を励ましてくれても駄目だった。

これを読んでくれてる
数億人のエプスタ読者のお母さんお父さん。
子供の気持ちを無視して
勝手な事情でその土地を離れるのだけは、
絶対、駄目だぜ。
子供には
お金もない
人権もない
移動手段の車も
住みたい場所に建てる家も
励ましてくれる恋人も
弁護士もいない。
あるのは友達だけ。
友達だけなんだぜ、
たった1つの大切なものは・・・。

引っ越す前の日、
4年2組の皆が、
誰かが音頭を取った訳でもないのに
僕の大好きなピンク・レディーのグッズやら、
王貞治選手の下敷きやら、
各々が普段使い、1番大事にしている「宝物」を
僕にくれた。

僕はいまこの文房具屋さんで買った白い下敷きを
42人分、皆に渡した。
「かまちょ、これにサイン書いてよ!」
「下敷きに書いちゃっていいの?」
何故か涙ながらのサイン会になっちゃった。

普段は見せない、皆の思いやり。
こんなに嬉しいのに、明日から、一生会えなくなるなんて。

夏。
池袋に引っ越した。
そして、ンババーン!!
さすが我らが母。
目には目を歯には歯をパオーン!
そこには、男の人がいたのだ。

「この人をパパって呼んでもいいのよ」
どっちも、目くそ鼻くそ。
だから言ったでしょ、
うちの母も、スゲー輩なのよ。
・・・その人との、ブクロでの生活が始まった。

僕は、自宅の電話では話を聞かれてしまうので
公衆電話でいまこに電話した。
何故だろう、さときっちゃんでもかときんでもなかった。
「いまこ、2人だけの秘密だけど、
俺さあ、苗字、変わるかもしれないんだ・・・。」

その頃は知らなかったが、
いまこも早いうちにお母さんを亡くし
親戚に養子に出されていた。
だから、いまこは、
今泉君は、かつては渡辺君だったのだ。

その時のいまこの心境を考えると
タイムマシンで戻っていって
抱きしめたくなる。
「僕の親友の苗字まで変わっちゃうんだ!」
心が爆発しそうだったかもしれないから。

何を喋ったかは覚えていない。
僕が泣いてたのか、思い出せない。


2012.04.13