第74話 第2章「1日店長〜後編〜」の巻

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「いらっしゃ~い」

 

「あれ、オクサンは買い物?」

 

「なんでも、髪の毛きりにいくってトーキョーまで出かけましたよ」

 

「そうなんだ、そのまま帰ってこなかったりしてね」

 

常連客はそういって笑いながらいつもの席に座り

いつものコーヒーを注文した

 

しかし、このお客さんの言葉も一理あるというか

現実味があり過ぎて笑えない

アイツのことだから

下手すりゃキャバクラ体験入店とかいって

そのまま働いちゃいそうだからな

 

「お待ちどうさま、コーヒーです」

 

「ははは、なんだか、ぎこちないね。流石は髪結いの亭主だ」

 

「いや、まだ、結婚してないですし、チョロチョロはフリーで仕事してますよ」

 

「いやいや、髪結いの亭主なんて立派なものだ、私なんかもう半世紀近くカミさんの尻に敷かれているくらいだからね」そういって笑った

 

「4人大丈夫?」一見らしき客が入ってきた

 

「あ、お好きなとこにどうぞ」

なんだか珍しく客が来るな…

 

その後もパラパラと客が入ってきて、

小さい店だけど満席になった

おいおい、なんかエライことになってきたぞ!

めんどくさいものは出せないので、急遽“限定メニュー”にして対応

常連客の一人が見かねて手伝いをはじめてくれる

端から見てると対したことのない仕事だよな~

なんて思っていたけど、いざやってみると大間違い!

これが大変なんだわ

 

1000円でお釣りが来るような商売

でも、どんな商売も楽には稼げないってことだな

 

夕方になってようやく一段落、はやくも足と腰が痛い

 

「はあ~、つかれるな~」

 

思わず客の前で呟く始末

 

 

アイツ、髪の毛きりに行くとかいって

ホントは鎌倉の駅前でチラシでもくばってんじゃねーかとさえ思う

 

一息ついたのも束の間

また、団体で客が入ってきた

これ、絶対アイツの仕掛けたワナだな

などと思いながら心の中で叫ぶ

“嗚呼、ボクが悪かったから、どうでもいいから早く帰ってきてくれ~”

 

ん?なんか悪いことしたっけ?

 

まあ、いいや

こうなりゃとことんやってやる!

 

そういって、キッチンのスミに隠れて、

缶ビールのプルトップをあけた

 

「プシュ! ゴキュゴキュゴキュ プハ~ うめぇ」

 

さて、やるか…

 

 

2012.04.05