第65話 第2章「ブラインドは要らない」の巻

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「いらっしゃいませ~ 今日も寒いですね!」

近所に住む、常連の初老の客が今日も一番乗りだ

「はい、おはようさん いつものモーニングね」

そういって、海を望む窓際の特等席を陣取り

読みかけの文庫本を開く

“クォーーーーー” と、

業務用コーヒーマシーンが音を立てる

そして

“ジュワーーーー” と、

ベーコンを炒め、特製BLTをつくるカノジョ

「ハイ!おまちどうさま」

そういって、客に入れたてのカフェオレと特製BLTを差し出す

すっかりカフェの女主人が板についてきたな

ボクはカウンターの片隅でチャイを飲みながら

メールやらSNSをチェックする

すっかりこれも、いつもの朝の光景となった

「春はまだまだですね、気持ちいいんでしょうね、春先の浜辺は」

ボクは、おじいちゃん客に話しかけた

「そうですね、私は春がいちばん好きですよ」

以前聞くところによると、この初老の客は、

生まれも育ちも鎌倉で、

東京の大学を出て就職、結婚して子供を育て

早期退職とともに、夫婦で生まれ故郷であるここ鎌倉に戻ってきたという

そして、いまは、悠々自適な生活を送っているらしい

なんとも、羨ましい話だ

毎朝、8時のオープンとともにやってきては

同じ席に座り、同じメニューを頼み、同じ時間を過ごす

変わるのは洗いざらしのシャツの色と、文庫本といったところだ

「クリスの散歩に行ってくるね」

チャイを飲み終え、散歩に出かける

これもすっかり、いつもの日課だ

トーキョーでの毎日とは違い

ここでは幾分か、ゆっくりと時間が流れる気がする

海の見えるカフェの大きな窓から差し込む陽射しが眩しい

今日もいい天気だ

ブラインドは要らない

そう、

ボクとカノジョとクリスの第2章が

ここを舞台に、はじまっている

2012.01.26