第五十七夜:「アメフラシに祝福を」

diary_teru

行楽シーズンなのに、少し哀しげなお話を一つ。
この時期は遠足や修学旅行、運動会など楽しいことが沢山あります!
でもここ最近、こちらでも雨がちらほらありました。
そんな雨の日の、お話です。
 
 
 
先日、中学生の修学旅行団体がお見えになりました。
しかし当館に来られた日、こちらではどしゃ降りの雨。
さぞ子供達も肩を落としてるだろうと訪れる子達を見ていたら、
そりゃあもう酷い脱力感にまみれておりました。
旅行日程の全てで雨に降られていると引率の先生にお聞きしました。
それは可哀想・・・。
 
なんとなくおとなしい夕飯時間が過ぎ、子供達の自由時間の時、
売店近くで作業をしていた私に一人の少年が声を掛けてきました。
少年は、雨が降らないようにてるてる坊主を作りたいから
何か布をくれませんか?という要望でした。
その少年の瞳がやけに真剣だったので私は去年のイベントで余った
ハンカチをあげる事にしました。
売店の裏でハンカチを探している私の後ろで少年が
なんだか悲しそうに見つめていたので一緒に探そう!という事に。
そしたら少年、こんなことを言うんです。
 
「この雨も・・ぼくのせいなんです・・」
 
どうしたの急にこの子は!?と驚いた私は
何があったのか聞いてみました。
いやはや・・・。
いたのですね、本物の雨男が・・。
少年はM君といいました。
中学2年のM君のこれまでの人生は雨まみれでした。
これまですべての遠足は雨、運動会もすべて雨、もちろん写生大会も、
校外見学の日も、合唱コンクールの日も、入学式も卒業式もすべて雨。
それだけなら彼の同級生の中に雨男がいる可能性も考えられますが、
少年Mはそれだけじゃ終わらない。
家族旅行でも一度も晴れた事はないらしいのです。
親戚の結婚式から葬式、ありとあらゆる日で雨が降るのだそうです。
そしてM君の母いわく、彼が生まれた日もどしゃ降りだったそうで。
 
そして今回の修学旅行の連日の雨。
話しながらもう半分、放心状態のM君は
「もう雨・・きらいです・・」と哀しげな声を上げるもんだから、
もうこれはどうにかせねば!と思い、彼の手を引っ張って
布団部屋へGO! もう使わなくなった大量の敷布を見せて
「ほら、これで好きなだけてるてる坊主を作るんだよ!少年!」
と少年Mに叫びました。
その時ようやく彼の表情が明るくなったのを覚えています。
それから少年Mと彼の友人数人、彼の担任、そして私とで
大きな大きなてるてる坊主を計10体作りました。
きゃっきゃと言いながら布を丸めたり、顔を書いたり、みんなで
てるてる坊主を作ったのは本当に楽しかったです。
雨に苦悩する少年も普通の少年。友人も普通の少年。
晴れを願う普通の子供。なんだかひどく愛しくなりました。
完成したてるてる坊主は当館の玄関にずらりと吊るしました。
そして翌日の天気をみんなで願いました。
従業員の何人かは、巨大なてるてる坊主が10体も並ぶ光景に
ヒいてましたけどね。
 
 
 
 
 
翌日。
神様は私たちの願いを無視したのか、いや、少年Mの力に負けたのか、
雨は降っておりました。
ずらりと並んだ「てるてる坊主」ならぬ、
「見送り坊主」の間に立って泣きそうな私はその団体を見送りました。
それでも当館を出て行く少年Mと少年の友人達は
明るい表情で最終日程の地に向かっていきました。
力になれなかった事を悔やみつつ、私はずっとこんな事考えてました。
「少年Mよ、キミが、キミこそが地球の砂漠化を止められるんだよ!
 世界中回って雨を降らせるんだよ! メシアになるのだよ!」と。
でもそんなん彼に伝えたらグレちゃいそうなんで言えないですけど。
 
 
嗚呼、彼の人生に快晴の祝福を!それか晴れ女、彼と結婚してあげて!
 
 
 
 
 
 
 
  

2011.10.05