備中高梁PR大使 倍賞千恵子 小六禮次郎 トークショー

一部写真・文/鎌田浩宮

2016年2月29日、月曜日の平日。
東京は新橋にある、とっとり・おかやま新橋館 2階催事スペースにて、宵の6時より、「備中高梁PR大使 倍賞千恵子 小六禮次郎 トークショー」が、定員60名限定の入場無料というどエラいスペシャルプレミアムな催しがあった。
これだけのビッゲストスターが、たった60人収容の小さな部屋でトーク。
もうね、開場の1時間前に行っちゃって、1番前の席、座れちゃった。
ゆえに、千恵子さんとの距離、2mくらい。

トークの途中、1番前に座っていたおじいちゃんが、無断で写真を撮り始めた。
すると千恵子さん、怒るどころか、手でピースをし、にこっと笑ったんである。
「アップは駄目よ、しわが目立つから」
と、冗談まで言って皆を笑わせる。
飾り気のない、内面の美しさが顔の美しさとなる人。
本当に、いい人だなあ。

お2人のトークの時間は30分だけだし、内容は高梁市のPRがメインなんだが、嗚呼、泣いてしまった。
高梁市は「男はつらいよ」の第8作と32作のロケ地となっている。
博の父・飃一郎の住まいのある町として登場するんである。

その32作で、寅さんはあるお寺の住職の代わりに、お坊さんの扮装をして法事を執り行っちゃう。
そこに飃一郎の法事でさくらと博がそのお寺へやって来て、
「ここでそんな恰好で何やってるのお兄ちゃん!?」
と腰を抜かしそうになるシーンがある。
その撮影の時、千恵子さんと渥美さんは、何だかとても可笑しくなっちゃって、笑いが止まらなくなっちゃったんだって。
撮影監督の高羽さんに怒られても、まだ笑いが止まらない。

渥美さんが亡くなってまだ間もない頃、高梁市のロケ地を訪れた千恵子さん。
そのお寺へ行くと、撮影の時お世話になった住職さんがいた。
その顔を見たとたん、千恵子さんは涙が止まらなくなって、2人とも無言でしばし立ったままだったそうだ。

まだ、渥美さんが病魔に襲われる前の、幸せだった時。
撮影中は、笑顔が絶えなかった頃。
僕は、1番前の席で、涙が止まらなくなった。

小六さんが、話を変えた。
「今、世の中がとても変わってきている。僕は音楽家を営んでいる、音楽は争いごととは1番遠い存在です」
素晴らしい人だ。
敢えてその単語は出さなかったが、安保法制については千恵子さんも反対を表明している。

そして、最後に町おこしについても語った。
「高梁市って、何もないんです。でも、見どころや遊ぶところが沢山ある観光地へ行くのも旅ですが、心からくつろげる所へ行くのも、旅です」
僕は、小諸について考え込んでしまった。
高梁に比べたら、小諸は懐古園もある、蕎麦もある、マンズワインワイナリーもある、温泉もある、布引観音や千曲川のような景勝地もある、りんごも名産地で、しかも心からくつろげる所でもある。
でも、もし高梁に渥美清寅さん会館があったら、財政難で休館にさせ、何年も放っておき、しまいにゃ閉館させてしまうだろうか?
答えは、否である。
何もない所だからこそ、有るものに対しては、必死で守り抜くだろう。

何もない町だから、縁のある倍賞さん小六さんに観光大使になってもらうのも、大変だった事だろう。
そしてお2人に、何もない事の素晴らしさを語ってもらう。
小諸市も、こうした著名人の語り部を見つけなければならない。

僕も、いつか行ってみたくなった。


2016.03.04