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玉音ちゃんradio 第19回「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」後編
DJ・鎌田浩宮
2013年2月6日に発売されるアッコちゃんの「新譜」、
「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」。
ああ、待ち遠しくってたまらない。
僕の大好きな人が、僕が大好きな人の歌を歌ってくれる。
収録曲は
1. 500マイル
2. 毎日がブランニューデイ
3. デイ・ドリーム・ビリーバー
4. 誇り高く生きよう
5. 雑踏
6. 多摩蘭坂
7. 胸が張り裂けそう
8. 約束
9. 恩赦
10. セラピー
11. ひとつだけ(矢野顕子 with 忌野清志郎)
という、RCサクセション活動休止以降の作品がメインとなっている。
アッコちゃんが
「ぼくの自転車の後ろに乗りなよ」などのRC初期の曲や
「甲州街道はもう秋なのさ」など中期に差し掛かる辺りを歌ったらどんなに素晴らしいだろう、とも思うけれど、今回は、こうなのだ。
それでは、1曲ずつ、原曲を並べて聴いて、振り返ってみようじゃないかい。
1.500マイル
アッコちゃん、1曲目から、カヴァーを選んだかあ。
ううむ。
この曲は、フォーク世代では知らぬ人のいない、ピーター、ポール&マリーが有名にした伝承歌。
それをキヨシローが訳詞。
そして、細野晴臣・坂本冬実とのユニット、HISとして発表。
1991年発売のアルバム「日本の人」より。
その時のアレンジは、細野さん。
大好きな細野さんとキヨシローが組んでくれた当時は、もう嬉しくって嬉しくってたまらなかった。
でも、この曲を敢えてカヴァーし、しかも1曲目に持ってくるには、それなりの力強い理由がないといけないだろう。
あり得ない話だけど、僕のカヴァーアルバムが作られるとして、僕自身が好きな自作曲の数々を差し置いて、僕が他人の曲をカヴァーした曲をさらにカヴァーされるとしたら、少し複雑な気持ちになるだろうから。
今回のアルバムは、この記事の前編で紹介した
「夜の散歩をしないかね」も、
「トランジスタ・ラジオ」も入っていない。
以前アッコちゃんがカヴァーしたキヨシローの代表曲を差し置いて、カヴァーのカヴァーをするのだから、やはりそこに意味を考えてしまう。
でも、アッコちゃんのことだから、ここは安心する事にしよう。
キヨシローの訳詞に惚れ込んだとか、キヨシローが影響を受けたルーツをたどるとか、そういった事なんじゃないだろうか…。
アッコちゃん自身も、人の曲を、その才能で自分の曲にしてしまう人なのだから。
2.毎日がブランニューデイ
やった!
キヨシローの最後のアルバム「夢助」から、仲井戸“チャボ”麗市との共作が選ばれた。
アッコちゃんが好みそうな、ストレートで明るく健やかなラブソング。
チャボがこの歌を作曲した時の、ストレートな愛、想像に難くない。
そして、それに応えるキヨシロー。
まるで僕が、チャボの作曲が先でキヨシローの作詞が後につけたかのように書いているけれど、これはあくまでも僕の想像。
でも、そんな想像をするのが好きなんだ…。
3.Day Dream Believer
今や忌野清志郎の代表曲とさえされている曲だけど、僕はそう思わないし、彼がカヴァーした最高傑作は、誰が何と言おうと
「上を向いて歩こう」
だと思っている。
ただ、この曲に関しては以前、ある有名なミュージシャンの方が、エプスタの忌野清志郎に関する記事を読んでツイートして下さった言葉が心に残っている。
それは、
「キヨシローさんの曲はあの声でなければ意味を成さないものも多く、カバーするのは難しいと感じることもよくあります。僕が自分で歌うのは、500マイル、デイドリーム、風に吹かれてなど、ボス作詞のカバーが多いです。」
という内容のものだった。
この言葉を逆説的に考えれば、この「デイ・ドリーム・ビリーバー」という曲は既に、モンキーズの原曲よりもタイマーズのカヴァーの方が圧倒的に大衆に受け入れられており、既にキヨシローの曲と言ってもいいのではないかという事だ。
キヨシローのあの声、あの歌詞でないといけない曲に、既になっているのだ。
チェルノブイリの、あの頃。
1989年発売のアルバム「THE TIMERS」より。
4.誇り高く生きよう
原曲はこれも、2006年発表「夢助」から。
この曲は、アッコちゃんらしい曲かも知れない。
それまでのキヨシローのスタイルは、誇り高く生きることを
「ぼくはタオル 汗をふかれる 冷や汗あぶら汗どろどろの」
と、そんなタオルにも誇りがあることを暗に表すスタイルで、これまでずっと歌ってきた気がする。
こんなに直接的に、生きるプライドを歌ったことはなかったと思うのだ。
だから当時は、かなり驚いた。
この啓蒙的な歌詞は、矢野顕子のそれに通ずるものがあると思う。
5.雑踏
アッコちゃんのヴァージョンは、既にエプスタでも紹介済みですね。
「忌野清志郎ロックン・ロール・ショー 2012」で初演。
こっちが、原曲。
2003年発売のアルバム「KING」より。
なんで、こんなに若々しい歌を創れるんだろう?
こんな曲を完成させた朝の、キヨシローの清々しさに満ちた心。
そしてそれをしっかりと胸に感受し、歌うアッコちゃんの若々しさ。
「小学校からの幼なじみ」
の2人による、1つの曲を巡る交換日記。
僕も、こんな音楽仲間を作ろう。
6.多摩蘭坂
1981年発表のアルバム「BLUE」より。
今回の収録曲で1番古い、RCサクセションの傑作の1つ。
アッコちゃんが以前キヨシローとセッションした曲の中でも、今なお強く心に残っているんだろう。
多摩蘭坂を歌うということは、20代だったキヨシローの心を歌うということ。
坂の上の部屋を借りて住んでいた頃の、心を歌うということ。
それをアッコちゃんが、歌ってくれるんだ…。
アッコちゃんはこの春、この新譜をひっさげてライヴツアーに出る。
その際は、この時代辺りの、RCのナンバーも一杯歌ってくれたらな、と願ってしまう。
夢のような時間になるだろう。
やった!
ライヴの先行販売チケットの抽選、当たっちゃいました。
7.胸が張り裂けそう
なんと、こちらも「KING」より。
アッコちゃん、相当気に入ったんだなあ。
この曲は映像がなかったので、せめてもの思いに変えて、歌詞を掲載しますね。
Baby 忘れられない
Baby お前のこと思うと
胸が張り裂けそうだ
Baby 泣きわめいても
Baby 後戻りは出来ない
胸が張り裂けそうだ
ふられたんだ 捨てられたんだ
嫌われたんだ 可愛いお前に
ふられたんだ どうにもならないんだ
もう 真っ暗なんだ
この絶望に張り裂け 裂け 裂けそうだ
張り裂けそうだ
Baby 沈む夕陽に
Baby お前が浮かんでいる
胸が張り裂けそうだ
張り裂けそうだ
ふられたんだ 捨てられたんだ
嫌われたんだ 可愛いお前に
ふられたんだ どうにもならないんだ
もう 真っ暗なんだ
この絶望に張り裂け 裂け 裂けそうだ
張り裂けそうだ
Baby こんな世界で
Baby お前は歌っている
胸が張り裂けそうだ
張り裂けそうだ
裂けそうだ
もうギリギリだ
ギリギリだ
張り裂けそうだ
胸が張り裂けそうだ
胸が張り裂け 裂け 裂け 裂けそうだ
そうだ
ギリギリだ
もうギリギリだ
胸が張り裂けそうだ
8.約束
これも原曲は、2003年発表の「KING」より。
なんて美しいメロディーなんだ。
こういうタッチの曲、もっともっと聴きたかった…。
しかも。
言葉が希求する、メロディー。
メロディーが希求する、言葉。
曲と歌詞が、こんなにも一致する。
9.恩赦
アッコちゃん自身は、キヨシローが虹の向こうへ旅立った後に発見され発売された、僕も大好きなベーシスト・小原礼と1989年に録音したアルバム
「Baby#1」でこの曲を知った。
以降、彼女は自身のライヴで、精力的にこの歌を歌ってくれた。
クリスチャンのアッコちゃんの信条にも通づる、赦しの歌。
実際にこの曲が初披露されたのは、昭和天皇が亡くなったすぐ後のライヴ。
そして機が熟し、1993年、「忌野清志郎&2・3’S」の名義で、シングルCD
「プライベート」のカップリングとして発売。
以降、どのベストアルバムやコンピレーションアルバムにも収録されない、半分お蔵入りのようなひどい扱いを受けた曲だった。
この音楽業界のフトコロの浅さ、感じずにいられないぜ。
10.セラピー
これもHIS「日本の人」より。
心の病、だとか、鬱病だとか、そういったものがクローズアップされ始めた頃に、いち早く歌で慰めてくれていた。
この歌には、
「頑張って」
という、ありがちな励ましの歌詞は、ない。
そういう言葉を投げかけるのが1番いけないんだという事を、キヨシローもアッコちゃんも、知ってるんだ。
今、この街全体が、この国全体が、鬱になっている状況。
実質的な曲順の最後に、この曲を持って来た事の、意味は深い。
11.ひとつだけ
2006年に発表されたアルバム
「はじめてのやのあきこ」
にて、キヨシローとのデュエットヴァージョンが初収録された。
(ちなみにこのアルバムは、上原ひろみとの共演による「そこのアイロンに告ぐ」が素晴らしい!)
アッコちゃんのソロとしては、1980年発売のアルバム
「ごはんができたよ」
で初披露された。
キヨシローにとっての「雨上がりの夜空に」と同じく、アッコちゃんのライヴではかなりの確率で歌われる代表曲。
僕も、アッコちゃんのライヴで、もう幾度となく聴いている。
2011年、2012年と続けて行われたキヨシローのトリビュートライヴでも、アッコちゃんだけは特別に、自分のこの曲を歌う。
はい、全部聴き終わりました。
さあ、どんなアルバムになっているんでしょう!
最後に、このアルバムのためのトレイラ―を、ご覧あれ。
ここでアッコちゃんは、忌野清志郎というキャラクターやステージングを頭の中から取り除いて、曲のみを1つの作品として見直し、作曲家・作詞家としての忌野清志郎を評価したかったと語っている。
アッコちゃんらしい、とっても真摯な音楽への接し方だと思う。
そして、アッコちゃんらしい、虹の向こうへ旅立ったキヨシローへの接し方だと思う。
それでは、矢野顕子の新譜であり、忌野清志郎の新譜でもあるようなこの1枚、発売日を心待ちにしながら…。
アッコちゃん、キヨシローのブーツ、似合うね。
2013.02.01<< 玉音ちゃんradio 第18回「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」前編 玉音ちゃんradio 第20回「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」本編 >>