第34話「夜明けのスキャットを口ずさむの巻〜後編〜」

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キューイーーーーーーン

いわゆる恐怖心をおもいっきり煽る歯医者の音だ

そして、歯医者独特の臭い

「るるるのるー、やっぱかえろうかな…」

あっ、しゃべった

「いまさらなにいってんだよ!治さないといつまでたっても痛いままだぞ」

「むぅー、いたしかたないのだな」

クリニックの待合室でキョロキョロと挙動不審のカノジョ

面倒にも付き添いできたものの

キューイーーーーーーンという、この音

やはり何とも痛々しい…

「ねぇ、ねぇ、いたいかな?いたくないよね?いたくないといえよぉ〜」

いつになく、弱気だ

ふーむ、このオンナよっぽど歯医者が嫌いなようだ

なんか、カノジョの弱みを握った様な気がして

ついつい、ほくそ笑んでしまった

「アー!キサマ!今わらっただろぉーーーー!」

「今に見ておれ・・・」

ふーん、やはりかなり動揺しているようだな

「大丈夫だよ、最近の歯医者って、痛くないっていうし、痛い治療の時は麻酔かけるからさ」

「麻酔って注射でしょ?注射キライ」

ホント、まるで子供だな…

ほどなくして呼ばれる

「ギョエ!アタシの番だ!そこのモノ一緒に来い!」

「はぁ? マジ、子供ぢゃないんだから独りでいってこいよ、大丈夫だから」

「なぜそういえるのだー!」

「だーかーらー、早く行けって!また呼ばれてるぞ!」

「そーかいそーかい、アンタはハクジョーモンだね」

なんだか、“ちびまるこ”みたい…

恨めしそうにボクを睨み診療室へと消えていった

30分経過・・・

口をへの字にして睨みながら戻ってきた

「終わったの?どうだった?」

「・・・」

フンとばかりにそっぽを向いて、口をきかないカノジョ

「そんな痛くなかっただろ?」

「・・・」

「なんだよ、しゃべれよー!」

「・・・」

なんだかボクが悪いみたい…

ちょっとからかって脇腹をくすぐってみた

すると、おもいっきり向こうズネをヒールキックされた

「イテー!」おもわず叫んでしまった

「なにすんだよ!いってーな!」

「・・・」

それでも無言のまま、またフン!と振りかぶる

ちぇ、八つ当たりもいいとこだよ…

治療代を払って、次回の予約をとるカノジョ

受付の人にもムスッくれてガンタレ気味…

だから、ボクもその人も悪くないってーのに!

帰り道

ムスーっとしたまま、下を向いてとぼとぼ歩くカノジョ

ショーがねーな、と思いながらも

「痛かったの?」と、顔を覗き込み声をかけてみた

こんどは素直にウンと頷くと腕を組んできた

無言で、口はへの字のまんま腕を組みながらまた歩き出す

そういえば、腕組んで歩くのも久しぶりだな

つい、また微笑んでしまった

カノジョにその微笑みがバレ、ヤバイ!と思ったが、

今度はヒールキックは飛んでこなかった

そのかわり、さっきよりギュっと強く腕を組んできた

家に着くまで、二人とも結局無言のままだった

カノジョの口はへの字のまま、ボクの口元も微笑みまじりの、への字のままで…

2011.05.05