キャマダの、ジデン。㊲差押えと夜逃げ

鎌田浩宮・著

キャマダヘロノミアこと鎌田浩宮、81歳。
忘れようとして思い出せない、
ジンセーの述懐は続く。

あれは、中学1年の頃じゃった。
エプスタ「二番館へ走れ」担当にして
小学3年生からの旧知、
戦闘的ゴジラ主義者くんから
打ち明けられたのじゃ。

「ある日学校から帰ると、自宅の玄関のドアノブが、いつもより余計に回るんだよ。あれっと思ったら、鍵も開いていて」
なんだよ、泥棒かい?
ヤバいじゃないか。
「家の家具とかテレビとかに、白い札が貼ってあるんだよ。よく見たら、差押えの札だったんだ」

戦ゴジくんのお父さんが始めた会社が
うまくいってない事は、以前から聞いていた。
彼の家はどうなっちゃうんだろう…
13歳の僕は小さな胸を一杯にして
家に帰った。

ある日僕は弟とふざけて
家の中でかくれんぼをしていた。
テーブルの下に隠れ何気なく見上げると
スペペ!
そこには、差押えの白い札が。

「見てしまったのね。パパが知り合いの借金の保証人になっていて、それで…」
母よ、うちもか、うちもなのか。
脳が割れそうだ。
チミは、脳が割れそうな思い、した事、あっかい?

こうして小さな三軒茶屋界隈に、
2軒の家族が差押えという
人口比率にして一体多すぎやしないかという
異常事態が発生。

そんなある日、
学校へ行くと
学年で1番頭の良かった
〇君が引っ越していた。

前の日まで
何の変わりもなく出席していた
のに、なぜ。

夜逃げじゃった。

誰も、知らなかった。
お父さんが株に失敗したとか
様々な噂が飛びかったが、
真相、誰も、知らなかった。

〇君は皆に好かれていたし
断トツに成績が良く
将来は東大に行き
官僚か一流企業に入るんじゃろうと
皆が、期待していた。

誰もが〇君の消息を追ったが
今もなお、
彼がどこでどう生きているか
知る人は、いない。

そんな激動のある日、
戦ゴジくんが言った。

「誰にも言うなよ。うち、夜逃げする事になった」

不幸、エヴリデイ。
不幸の、ラッシュアワー。
不幸が、シャンパンタワー。
世田谷区の人口が、また減るのか。

つづく!


2013.08.02