キャマダの、ジデン。㉒お楽しみ会

著・鎌田浩宮

とゆーわけで、僕だけじゃなくって、皆、
家ん中ではつらいこともあったが
学校は楽しくおかしく面白く豊かに
結果的に健やかに過ごしておったわけで。

今、振り返っても
僕のジンセーの中で
最も楽しかった時期の、1つ。

で、またエピソードを思い出したので、1つ。

和田先生は、
年に何回か
授業を潰して
「お楽しみ会」
を開いてくれる。

内容はとゆーと、
4年2組の各自がグループを作って
出し物をする、
それだけなんだが、
非日常「ハレ」の日とゆーのは
それだけでも
と~っても楽しいもので。

で、グループ分けの結果、
なぜか、
やまもーりん
だけが、仲間外れになったのよ。

やまもーりんは
普段から嫌われ者でも
いじめられっこでもなく
温厚ニコニコスポーツ万能。
僕ら馬鹿丸出し軍団とは違い
正統派の純朴な小学生だった。

でも、どの歯車が狂ってしまったか、
あんなに皆と仲のいい彼が
どこのグループにも
入れなかった。

たった1人で出し物をやることになった
いつもニコニコ誰からも好かれるやまもーりんは、
映画「狂った果実」で津川雅彦演ずる
兄貴に恋人を寝取られた弟の
漆黒に座った眼差しのラストシーン、
兄を殺す決意をした表情でこー言ったね。
「俺、出し物、『カサブランカダンディ』やる。」

ギャラリー、ザワザワッ!
え?あの、ジュリーの?
僕たち馬鹿丸出し軍団でさえも
キューバ危機並みの事件発生を察知し
やまもーりんを説得。

「だって、あの曲、間奏、あれだろ?」
「やめとけって、やばいぞ!」

いや、絶対、やる。

ある種の男気さえ、感じる。
現在、あいつの弟、自衛官だしな。
ま、それは彼本人と、
1ミクロンも関係ないが。

とにかく、意地を張っている。
ダメだ。

この連載を読んでおる
数億の読者諸氏は
覚えているか?

子供たちの間で当時、ピンク・レディーの次に
絶大な人気を誇っていた沢田研二は
この曲の間奏で
当時のお茶の間で
ちょびっとだけ物議をかもした
トホホなことをやっていたのだ。

説得できず、事態、不可避。

そして、当日。

女子の出し物はもちろん
振付ありのピンク・レディーが多かった。

僕のグループは
世良正則&ツイストの
「宿無し」
を、箒(ほうき)ギターで。
まだこの年齢ではギターなど持っていないから
今で言うエアギターに近い。
これが楽しくてたまらない。

やまもーりんの出番だ。
「うわっ、あいつ、ほんとに持ってきてるよ」
目は、座ったまんまだ。
4年2組、騒然。

どのグループもそうだが、
当時はカラオケなんぞなく、
しかもここは学校、
皆アカペラなんだが、
やまもーりんも
無伴奏で歌いだした。

1つ 2つ 張り倒して
ボギー ボギー
あんたの 時代は よかった

やまもーりんが、
無表情でシャウトする、
無表情で腰を振る、
無表情でステップを踏む。

間奏だ!!

ヤツは水の入った
トリスのウイスキーのポケットボトルを
やにわに取り出し
口に含み
僕たち客席に向かって
泣きながらぶちまけた!

「うわ山本君汚い!」
特に女子から、
同情感ゼロ、お父さんとおんなじ洗濯機イヤ!
にも似た壮絶な嫌悪が、悲鳴と共に露わに噴出。
和田先生、爆笑(ここが先生の偉いところ)。
お楽しみ会、紛糾。

間奏から先も歌うことが出来たのか、
床をやまもーりん自身が泣きながら拭いたのか、
そして和田先生から反省文の刑に処せられたのか、
後のことはすっかり覚えていない。

翻って和田先生は
こんな法外なお楽しみ会を開き
職員会議で吊し上げに遭わなかったのか。
南無ー。

やまもーりんよ、
泣くんだったら
その間奏のそれ、
省けばよかったにぃ。

そのことばかりが忘れられない。
やまもーりん、
お前があの日の主役だ。


2013.02.06