第八十一夜:「尊敬する人生」

「尊敬」。
それは性別も年齢も職業も全く関係なく、
用意周到でもありえなく、時間の長さも関係なく、
突然舞い降りるもの。
 
GWの慌ただしさが落ち着き、
私はそんな事を思いました。
 
 
 
知り合いの職人の、親戚の職人。
年齢はわたしよりもかなり下の男性。
旧館廊下の、老朽化から剥離していた天井補修で
来てくれていた、腕のいい職人。
数日間の作業のうち、大雨により
一日作業が止まった時、なんとはなしに
その彼とゆっくりお話する機会がありました。
 
 
彼から聞かされた話は、人生の経験談ではなく、
ただただ人生、他者への真摯な眼差しのお話でした。
それはそれは丁寧で、穏やかで、
人を慈しむような視線。
何処までもが修行であり、
何処までもが人を見捨てない魂で、
そして何があっても揺らがない心の柱が彼にはあって。
それは、私の中にもこれまで芽吹くことが
一度もなかった「蓮の種」のようなものでした。
そんな彼が言ってくれました。
僕とけい子さんは似てますね、と。
 
 
いやいや。
 
いやいやいや。
 
ないない。 それはない。
 
 
と、引くくらいの、眩しすぎる男の子でした。
数日間の作業が終わり、彼はこの地を離れる、
という話を伝えてくれました。
もっと、僕は修行するんだと。
常人には到達できないほどの
相当な腕がもはやあるのに。
 
私は、そう、とだけ伝えました。
ただ背中を見守りたいと思いました。
 
 
 
人は人を尊敬できる。 死ぬまでできる。
それができるなら、
どこまでも長生きしてみてもいいかな?
そんな事を私なぞでも思いました、とさ。 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 

 

2012.05.10