浪日記㉑  撮影・庫田久露武/文・鎌田浩宮

撮影・庫田久露武
文・鎌田浩宮

久しぶりの浪日記になっちゃいました。
やはり、浪のことを書くのは、未だに構えてしまいます。

昨日は浪の月命日。
あれから丸4カ月経ったのかあ。
早いなあ。
信じられないなあ。
春がやってきたなんて、信じられないなあ。

去年12月2日の浪の死後、ほぼ1日も隔たることなくエプスタの更新を続けました。
取材、編集、執筆に没頭することで、精神状態を保ってきました。
大袈裟な書き方するなあ、ってな感じでしょうか。
でも、そうだったんですよ。

浪の看病で全く外出できなかった時は、ラーメン食べたい、映画観に行きたい、酒場に行きたいとそんなことばかり考えていましたが、浪が旅立ちいざ外出できるとなると、どこで飲み食いしても味気ないものでした。
1人酒場で浪を思い出し泣くばかりでした。

知り合いの集まる店や場所も駄目でした。
猫ごときでなぜそんな?という無理解が苦しいのです。
また、皆の楽しそうな顔を見るのもつらかったです。
浪の不在を強く感じてしまうばかりだからです。
だから、震災で家族や恋人、友人を亡くした人々の気持ちが解るようでした。
浪も、震災の直後に体調が悪化しましたしね。
だからなおさら、編集に没頭していました。

そんな時、数人の友人が、時々声をかけて、外に呼び出してくれ、酒を酌み交わしたりしてくれました。
心から感謝しています。
その話は、また別の機会に書いてみますね。

さて。
こんな僕に、早く働けばいいのに、という人もいるでしょう。
また、被災者が酒びたりになっていたりパチンコ屋で過ごしている報道を見て、早く働けばいいのに、と思う人も多いでしょう。
しかし、僕は生きる意欲の多くを、失ってしまったんです。

実は去年の夏、浪の声や仕草を忘れてしまわないよう、生きているうちに浪を映像に収めておきたいと思い、エプスタに度々登場する大友太郎君をディレクターに、庫田久露武君にカメラをお願いし、浪の映画、ないしはプライヴェートヴィデオのようなものの制作をお願いしました。
撮影は去年の真夏に行われ、そのままになっていました。

浪の死後、なぜか僕は浪の声を思い出せなくなってしまいました。
理由はいくつか考えられるのですが、死ぬ直前の、普段とはまるっきり違う叫び声が強烈で、普段の声の記憶が脳から抹消されてしまったかのようでした。

それがあまりにつらくて、まだ未編集の映像を大友君から見せてもらいました。
嬉しいことに、浪の泣き声も入っていました。
涙が止まりませんでした。
大友君に心からお礼を言いました。

その後日、意を決して大友君が映画の粗編集を仕上げてくれました。
それを観て、僕は浪の生前から考えていた、浪に捧げる曲の作曲を決心しました。

ずっと昔、浪が元気な頃から「浪のテーマ」というものが頭の中で鳴っていて、それとは別に、浪へ日々歌っていた子守唄のような鼻歌がいくつもありまして、それを1つの組曲のようにまとめたいと生前から考えていたのです。
この曲を完成させ、浪にお供えした時に、僕自身ようやく前に進めるのではないかと思ったのです。

2月16日から作曲を開始しました。
僕は今まで、バンドのためのヴォーカルものや、映画音楽を含めたインストゥルメンタルを沢山創ってきましたが、その全てが、なるべく多くの人に親しんでもらいたい、理解してもらいたい、というものです。

しかし今回は、浪が喜んでくれればそれでいい、全ての人に理解できない駄作と言われても、浪が解ってくれればそれでいい、と思いながら創りました。
こうした思いで曲を創るのは初めてです。

これまでは、例えば誰かにプレゼントする曲であったりする際でさえも、その人と他者との関係性を含めた全体像を、客観的に眺めて描くことを重視したのですが、今回は浪の主観だけを描くのです。
浪が生まれてから死ぬまで、どう感じ思っていたかをメロディーにし、浪の生涯をオーケストレーションしていきました。

午前中はエプスタの作業をし、午後2時から午後10時までぶっ通しで作曲、休憩はコーヒーを一服するのみ、その後風呂に入り飯を作り、11時頃食って0時に就寝、翌朝6時に起きる。
そんな生活が続きました。

約40日後の3月25日、完成しました。
僕の曲では最長の、19分48秒となったんですが、ヴォーカルものだと思った僕の親友があ然としていたのを見て笑ってしまいました。
もちろん、歌詞のないインストゥルメンタルです。

その曲を大友君に聴いてもらい、曲の一部を浪の映画のサントラとして使っていいと快諾してくれました。

とても悩んだのですが、完成した音楽と映画は、それぞれCDとDVDとして、近日中にエプスタインズで販売を開始してみようと思います。
決して金儲けをしようということではなく、浪の一生を皆に知ってもらえたらな、という思いからです。
感想、ぜひ、聞かせて下さいね。

浪に、そして浪がお世話になった人々に聴いてもらって、それからようやく僕にも春がやってきそうな気がします。
これからも、浪をよろしくお願いしますね。


2012.04.03