神保町のでっかい書店にて、港の人フェア開催中。後編

取材/文/一部を除く全撮影・鎌田浩宮

東京・神保町、東京堂書店にて2月23日まで開催中の
「書物、さらなる海へ 港の人全点フェア」。
http://tokyodoshoten.co.jp/blog/?p=2291

結局僕はここで港の人の本を4冊買い、
8000円以上も出費しちゃった。
無職にはちと痛いか?
いえ、
エプスタインズや自分のCD、DVDのデザインに
役立ってあまりある!
デザインだけでなく、その出版精神までも学べると思う。

出版人たるもの、
紙質の選択から、
数ある明朝体からどの書体を選ぶか、
活版印刷も選択範囲に含め、
帯の不要を提案する、
全てに神経を行き届かせた総合芸術であらんとす。

さて、それでは早速、港の人の本の紹介を。

まずは詩集。
「場面」津田桂祐・著
(エプスタインズでの販売ページはこちら
http://epstein-s.net/archives/6575 )

な~んだ、割とおとなしめじゃないか、と見えるでしょ?

 

これがなんと、外箱の取り出し口が、下にあるんです。
なので、下から本を引っ張り出します。

 

さらになんと、引っ張り出された本は、横開きなんです。
横長の書籍なんです。
しかも、表紙が一転して色彩豊かです。

 

ほら、めくってみると、分かるでしょ。
赤も、映えるなあ。

 

両開きです。
文字の置き方…レイアウトもいいでしょ?
グッと上側に文字を組んで。
写真をクリックしてみて下さい。
よく分かりますよ。

今日は宇宙がよく見える ふん
(「豆腐を投げる」より)

.

さて、次にジャケ買いした本も、すごいです。
2011年12月に発行されたばかりの新刊文学
「はじまれ  犀の角問わず語り」姜信子・著
(エプスタインズでの販売ページはこちら
http://epstein-s.net/archives/6572 )


大理石のような虹色の光沢のある、変わった紙質のブックカバー。
真っ白。
帯も、ない。
よく見ると、真ん中の右端に1文字、「は」とだけ。
しかし、挑発的な印象は受けず、清らかさや優しさを感じるのはなぜだろう。

 


裏返しにしてみます。
「まれ      犀の角問わず語り   姜信子 著」
とあり、左上のバーコードさえ美しい。
遂にやったか、とほくそ笑みながら、見開きにしてみます。

 

この書物の行なった冒険が、明かされます。
写真をクリックすると、拡大写真になります。

 

そう。
このような「冒険」なんです。

この「冒険」は、例えば本屋さんに他の書籍と共に縦積みで陳列された場合、
致命的と言える困難を伴います。
客には
「じ」
の文字しか目に入らないからです。

実は、同じことを僕はやったことがあります。


これは僕らのバンドのライヴDVD、

airy tracks
against
all of war
tranquil
over

を見開きにしたものなんですね。
(エプスタインズでの販売ページはこちら
http://epstein-s.net/archives/344 )
縦に陳列した時に

a a a      t o

とだけ目に入るようにデザインしたんです。

大失敗でした。
僕らのような、名前の流通していないバンドのDVDが
店の中の何百何千とあるDVDの棚に縦に陳列され、
結果、ほとんどの客は素通りしてしまいました。
なんのDVDか、全く分からないから、興味も沸かない訳です。

言葉による宣伝情報というのは、それほど重要なんです。

当然港の人はプロですから、
そのリスクは知った上で冒険の壁を登ったのでしょう。

 

カバーを外してみますとね、
こんな模様が印刷されてるんですが、
カバーをつけると、光の加減によって、
この模様が透けて見えるんですよ。

単に無地というコンセプトに収まらない。
もう、ため息です。

では、ちょっと本を開いてみますね。

港の人の書籍は、本文の書体も美しい。

皆さんはパソコンでワードやエクセルを使う時、
書体を選びますよね?
その中で、明朝体は数えるほどの種類しかないですが
本当は、ハネやトメ、ハライの長さや太さや丸みの微妙な違いで
沢山の種類があるんです。
ほんの一例を示しますね。

ね、違うでしょ?
港の人は、この本にはどの明朝体が合うか、
そこまで気を配っているかが分かります。


そして、ページの数字にも、一工夫。
見開き、左のページにのみ
48
49
とあり、右のページには数字の刻印はありません。

この本は違うんですが、
書籍によっては、昔懐かしい活版印刷で印刷することもあるそうです。
活版印刷って、知ってますか?

このように、一文字一文字、印鑑のように文字を拾って1枚の盤を組み、
インクを塗り付けて印刷していくんです。
これ、「男はつらいよ」で博が勤める印刷屋のシーン、
よく見てもらうと、初期の作品は皆活版印刷で仕事してます。

博の工場にオフセット印刷機が導入されるのは、なんと1983年。
つい最近までは、皆活版だったんですよお。

活版印刷の良さは、なんといっても、
印刷時に紙を文字盤に押し付けるので、
印刷された文字が、ほのかに浮き出ているところです。

 

さて、次回では、最初に紹介した、東京TDC賞2012特別賞受賞書籍、
「きのこ文学名作選」をじっくりと披露しましょう。

.

 

「書物、さらなる海へ 港の人全点フェア」
は2月23日(木)まで東京堂書店本店にて開催予定。
東京堂書店は、その翌日2月24日から3月29日まで
リニューアルのため一時閉店となります。
ご注意ご注意!

東京都千代田区神田神保町1丁目17番地
営業時間 10:00~20:00
休業日 年始(1/1,1/2)を除き無休
TEL 03-3291-5181
■ 東京メトロ半蔵門線「神保町駅」
■ 都営新宿線「神保町駅」
■ 都営三田線「神保町駅」
いずれもA7出口より徒歩2分

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この記事、2月17日(金)につづく・・・


2012.02.10