第二十四夜:「偶然レベル」

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卒業旅行の受付が増えてくると少しだけアンニュイな気分になる、
あまり別れというものが得意じゃない、乙女な若女将けい子です。
 
 
先週、親友のナオちゃんが久しぶりに子供を連れて当旅館に訪れました。
3歳になる娘と、1歳になる息子。 元気な子供達。 うん、良かった。
ナオちゃんと私は同い年で、東京ではいつも一緒でした。
学生時代には少しだけ一緒に音楽もやりました。
笑いのツボも、覇気も、男性の趣味も似ている、鏡のようなナオちゃん。
ここの所はメールやら、電話やらで近況を報告しあう程度になって
いたのですが、先日の葬儀の際に再会し、また今度遊びに行くと言って
いたのが今回実現しました。
よくこんな時期に旦那さん旅行許してくれたね?と聞いたら、
「私の望むことをNOなんて言わないよ?というか言わせない」と。
相変わらずのカカア天下です。 頼もしいというか、漢というか。
 
私も少しだけお休みをもらい、ナオちゃんとゆっくり語り合いました。
彼女と話していると、私は今の生活を不意に忘れる瞬間があります。
互いの不満や愚痴、夢や憧れを長年話し合ってきた二人ですから、
バカ話もしますが、たまにはイイ話もします。
ほんのちょっとだけだけど。
ナオちゃんはこんな事を言いました。
 
「マオが3歳、ユウトが1歳でしょ?最近考えるんだよね。
 この子ら、いい子になるのかなって」
 
私は、ナオちゃんの優しさも、危機管理能力の高さも知ってるから、
それはナオちゃんの教育次第でしょ?と返すと、彼女はこう言いました。
 
「ホントにそうかな?ほら、最近多いじゃん。
 可愛がっても、お金つぎ込んでもおかしな子になったりして
 事件とか起こしたりしてさあ。じゃ、甘やかさない様に接したら
 接したで、子供の精神的にはダメだって言うし」
 
私はやっぱそれもバランスなんじゃないの?と言うと、
 
「そうだけどさあ、ヒト一人育てて、良い子になるなんて、もしかして
 ものすごい少ない確率だったりして。それはもう偶然レベルの」
 
 
偶然レベル。
私は悪い子になるかもしれないのだって偶然なんでは?とも思います。
まあ、ここで接客業をするようになってからは、
良い子悪い子、もっと言えば良い人悪い人の線引き自体、
よくわからなくなっていますが。
 
 
多分に、ナオちゃんの言葉にはバックボーンがあるのでしょう。
ナオちゃんは長い間、自分と家族との間で
苦しく、哀しい経験をし続けていました。
私と出会う前にはグレていた時期もあったといいます。
たった一度だけですが、母を殴ってしまったとも昔聞きました。
その一切合切を越え、年月を越え、ようやく信じられる旦那さんと
出会い、自身の家族とも和解し、子供を授かったナオちゃん。
それはナオちゃんにとっては、ものすごく大きな事で、
ものすごく大きな幸福で、そして同時にものすごく大きな
ジレンマでもあるんだと思います。
 
「今はね、母さんの事は大事に思ってるし、そうしてるつもりだけど
 やっぱりね、どこかでは子育てに自信持ててないんだよね。
 私のようにはなって欲しくない、そんな教育も違うでしょ?」
 
どうだろうね、ナオちゃん。
私は今、一人で息子を育てていて、それは男親を知らないまま、
鉄郎は育っていくわけで。
それは不憫だと思ってもやはり再婚なんて考えられないから、
私は父親的要素さえこの身に収得しようとさえ思ってる。
それが真っ当な親の行為ではないのも理解してる。
私のようになって欲しい、私のようになって欲しくない、
そのどちらも間違いじゃないと、私は思う。
必要なのは、子供のために自分の中の汚れていない心を
使えるかどうかだと私は思う。
そして子供はそれに気付くんだと思う。
 
 
 
そういえばナオちゃんの娘・マオちゃんは生まれる前の記憶、
最近よく言われる「胎内記憶」を持っていたそうな。
そしてそのマオちゃんが2歳の時に発した言葉は、長くナオちゃんを
氷付けにしていた部分を溶かしてくれたんだそうな。
 

  
「あたしがママをえらんだんだよ?
 だってママのわらったかお、かわいかったから。
 ママ、うれしい? ママがうれしいならあたしもうれしいの」
 
 

この地に生まれ落ちた頃の方が全能で、
人は成長していくにつれ、退化していくのかな?とも思えます。
子だけでない、親もまた、偶然レベルで生まれるのでしょうね。
そう、思います。
 
 
 
 
 
 
 
 

2011.02.02