行く、東北へ。⑨相馬、鳩、犬。

取材/写真/文・鎌田浩宮

この
連載
も、

長くなった
ぜ、
ベイベー。

 

東北から戻って、すぐに始めた連載だけど。
ちっぽけなウェブマガジンさ、でも、苦悩しながら書いてるんだ。
安易に、食べ物の放射線が気になるとか書いたらいかんのでは、とかね。
福島には、自殺した農家の方だっているのだから。

 

ボツに
した、
写真たち、を。

 

この連載を読んでくれている、
東北復興支援の仕事をしている親友から感想を聞きました。

前々回の、津波で荒野になった写真。
壊れた家屋などの写真も掲載すべきだったんじゃないのか、
という意見でした。
彼は仕事柄、そのような場所へ行くことが多く、直にそのような風景に触れることにより、学ぶことが多いと言うのです。
それは僕も同じでした。

あの家屋などは、新聞やテレビの写真ではなく、
直に見ることに意義を強く感じました。
ここに人が住み、生活をしていた。
そしてその人達は、この世にはもういないのかも知れない。
ということを、肌で感じるのです。

ただ、逆にメディアに氾濫しているような壊れた家屋などの写真を
エプスタでも掲載して、読者のPTSDを増幅させてしまうのが
本意ではなかっただけなのです。
そう話すと、親友も納得してくれました。

 

ボランティア
じゃ
なくっても、
できる
こと。

 

2012年4月18日(水)。

養鶏、庭木の剪定、畑仕事、釣り、とにかく多趣味なおじさん。
1番の趣味は、レース鳩だ。
100羽以上、大きな小屋を建て、飼育し、レースに出す。
十数年前に来た時は、とにかくレース鳩の自慢話が楽しかった。

でも、震災後、おじさんにとってのお母さん(杉ちゃんのおばあちゃん)
が亡くなり、おじさんは、鳩の手入れに力が入らなくなってしまっていた。

おじさんがもっと注意深くお母さんの面倒を見ていれば、
杉ちゃんが震災で失職せず宮崎へ行っていなければ、
そして、震災と原発事故さえなければ、
お母さんの体力はもっと丈夫だったんじゃないか。

後悔が、何かをする気力を奪っていく。

それは、僕も同じだったから。
うちの猫の浪は、震災で体力が著しく減退した。
あれがなければ、もっと長生きしたんじゃないか、という思い。

酒を交わし、笑顔で再会を喜び合うだけじゃ、いかん。
遊びに来たわけじゃ、ないのだ。
おじさん、鳩小屋の掃除をさせてよ。

 

鳩、
命、
大事。
おじさん、
命、
大事。

 

立派な、小屋です。
広いです。
階段は、鉄筋なんだ、すごいでしょ。
1階は、物置かな。
2階に、鳩を飼ってます。
100羽以上も、います。

「いやあ、もう、今年は掃除しねえと思ってたんだ」

中を、見せてもらった。
床の一面に、鳩の糞が5㎝ほどにも積もって固まっちゃってる、臭い。

でも、見せてくれた。

「最近産まれたんだ。いいレース鳩になるぞ」

新しい、命。
他にも、卵を温めている親鳩が、いくつか。
この子たちのためにも、きれいにしてあげなきゃ。

粉塵がすごくなるので、上下をカッパに着替え、防塵マスクに長靴。
4つの部屋を、1時間半みっちり。

汗が玉のように落ちる。
マスクをしているので、呼吸が荒くなって仕方ない。

この粉塵にも放射能が…という風には、全く考えもしなかった。

鳩の大切な命、快適な環境ですごせるように。
そしておじさんも、元気になりますように。
それだけ。

全ての写真、掃除した後のものです。
比較のために、掃除前も撮っておけばよかったね。

この1年、浪の看病に追われていたので、体を動かすのは久しぶり。
とてもキモちE、です。

鳩たちも、キモちE、かな?
次に来る時、また掃除してあげるからね。

「集めた糞、畑にまいてくれ。肥料になんだ」
エコだねえ、あいよ、おじさん!

しかしおじさん、家庭菜園の放射線量の危険性は、報道されてるんだけどね…。
「おらあ70歳だから、影響出る頃にはもう生きてないさ」

http://www.minyu-net.com/news/news/0516/news1.html

これは地元の新聞・福島民友。
南相馬市立総合病院による検査結果です。

 

の、
笑顔。

の、
憂い顔。

 

少し休んで、次は飼っている犬の手入れ。
長いこと、体を洗ってあげていないとのこと。
こうしたことも、おっくうになってしまうんだなあ。
おじさん、つらいんだなあ。
人間用のシャンプーで、きれいに洗ってあげた。

この子は1年中、庭で飼われています。
東京は室内飼いがかなり多くなったので、僕には新鮮。
福島、冬は寒いんだろうね。

そして、お散歩。

久しぶりの散歩が、楽しくって仕方ないご様子でぇございやす。

こちらこそ!僕も楽しいよ。
今まで、ずっと猫だったけど、犬との散歩も、いいね。

歩きたい方向へ、自由に行かせてあげる。
走りたい時は、走らせてあげる。

近くの川まで来ました。
綱を外して川の水で遊ばせてあげることもあるそうだけど、
今日はシャンプーしたばっかだから、我慢してね。

そして読者の皆さん、お気づきでしょうか。
ゴロンと打ち上げられているボートは、ここから4~5㎞離れた海から、
津波でここまで流されてしまったもの。
決して、川づたいに流れてきたのではなく、海から陸を一直線に来たものだそうです。

橋を渡って、近くへ行ってみようよ。
「いいワン」

杉ちゃんが宮崎から戻ってきた際、
「まだ片づけられてないのか」
と驚いたそうです。
1年以上経ってるんだものね。

30分ほど散歩して、家に戻りました。
「帰ってこないから、道に迷ったのかと思った」
と妹さん。
いやいや、楽しかったから、飽きなかったからだよ。
「この犬、血統書付きなんだぞ」
うん、可愛い犬だよ、おじさん。
おじさんを、ずっと、見てるんだよ。
ずっと。

つづく・・・


2012.06.15