応募作品#6 師走の地下鉄で、

編集・鎌田浩宮

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
「第2回エプスタ随筆大賞」

スズキスキーが提案した
9つのテーマから選び
随筆を、書く。
大賞決定前に、応募作品を1作ずつ掲載していきます。


6作目は、表参道が、好きによる随筆です。

彼女は、2020年に開催した
第1回エプスタ随筆大賞にて
作品「我が家の困った習慣変わるかなあ」で
開催者撰賞」を受賞しました。


それでは、お読み下さい!

題・師走の地下鉄で、
著・表参道が、好き
テーマ・悲鳴学

12月の都営三田線内、
スマホでこれを打っている。
片手には印刷所へ入れる原稿。
いつもIKEAのブルーシート素材のバックに、
大量の原稿を入れて持ち歩くのが私の仕事のひとつだ。

昼間の都営三田線は、
リュックサックを膝に乗せてシス単や期末考査の勉強をしている高校生、
マッシュルームカットにマスクのひょろひょろ男子大学生、
すっかり寝込んでいるおじさま会社員がいて、
私の隣は、PTA帰りの綺麗にしている奥様が盛大におしゃべりしている。
そして、
それなりに混んでいる。

急に車両の端から
大きな声が聞こえて、

一瞬顔をそちらへ向ける。

見ると、
何か男性が怒っている。

電車の空気が一気にかわり、
男性を見ないようにしながらも
皆が一斉に警戒に入ったのがわかる。

男性はなおも怒る

こんなことはなかった!
こんなことは今までになかった!
と。

ちょうど次が
印刷所のある駅なので、わたしは降りた。
降りる人の多い駅だったので、
降りた人は
少しホッとした雰囲気を出している。

すると、
だから、今までこんなことはなかった!

と、ホームから大きな声が聞こえてきた。

あの男性も電車を降りていたのだ。

怒りながらこちらの方向へ
歩いてくる。
声が近づいてくるのが早い。

出口の階段を目指しながら歩いている私達の
後方の人達がどんどん早足になり、
わたしの前を歩く人も早足になる。
目の前を歩いていた小柄の女性は声に追い立てられるかのように小走りで走り出した。

男性がグングン歩いてくるのが、
声の近さで分かる。

なんでだよ!こんな、こんな、!
と喚いている。

振り向いたらいけないと
皆思っているみたいで、誰も振り向かない。
男性が来る。皆早足。
男性も早足。

私は原稿が重たくて、あまり早く歩けずにいて、
男性に追いつかれるだろうから、
何かあったときの回避方法を考えていた。

今年は、電車での事件が多かったから、
ヤバイ人なら困るなとも思った。

実際、
早足で前を歩く人達の背中が緊張しているのが分かる。

ああ、もうっ!なんで、なんでなんだ!
と、興奮した男性が私の真後ろにきた。

真後ろ!え?真後ろにくる?
と、思いながら歩いていたら、

ザッと私をよけて、
だから、だから、ああ、
と言いながら、前のめりで歩いていく。

黒いジャンバーに、ブラックジーンズ、
パーマ黒髪の中肉中背な中年男性。

何事もなく
抜かれた私は、ほっとして
歩みをゆっくりにし、
男性の背中を眺める。

前のめりに丸まった背中。

男性の前には早足の人々。

階段の手前で
男性が、

ああ、なんでだよ、今までこんなことなかったじゃないか!と改めて怒り出し、
今まで下赤塚駅で停車位置間違えなんて
なかったじゃないか!
やり直しなんてなかったじゃないか!

と、長文で怒りだした。

その瞬間

早足で階段を登っていた人も男性の前で早足だった人も、歩く速さが元に戻り、

怒り叫びながら早足で歩く男性は
人々を颯爽と抜き去り
階段をあっという間に上りきった。

駅を歩く人の空気はゆったり流れ始め
わたしは男性のことを考えた。
きっと私だけではない。
早足で歩いていた人たちも考えていたことだろう。

え?それ?

と。

怒り男性は、大切な約束があるのかもしれない。その心の悲鳴が怒りとなって外に出てしまい、

それを聞いた私達は、
危ない人だと、心の中で、悲鳴をあげながら
早足で歩く。

出ちゃう悲鳴も出さない悲鳴も
場の空気を震わせる。

さあ、次は山手線で、五反田だ!

エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
第2回エプスタ随筆大賞
応募締切:2021年11月23日(祝・火) のはずだったがまだ募集中
ジャンル:随筆
形式:文字、点字
枚数:制限なし
賞品:福島県相馬市の新米及び新米酒
選考委員:後日発表
発表:2021年12月25日(土)
応募先:hironomiya.kamada☆gmail.com ☆を@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

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2021.12.08