応募作品#8 休業支援金、あるいは酸っぱい葡萄

編集・鎌田浩宮

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
「第2回エプスタ随筆大賞」

スズキスキーが提案した
9つのテーマから選び
随筆を、書く。
大賞決定前に、応募作品を1作ずつ掲載していきます。


8作目は、
一人親方として建築現場で働く
加藤匡通さんによる随筆です。

彼は、どのような随筆を書いたのか。
さあ、読めばいいのだが!

題・ 休業支援金、あるいは酸っぱい葡萄
著・ 加藤匡通
テーマ・ なし

二〇二一年五月××日(水)休業支援金、あるいは酸っぱい葡萄

 三月四月と仕事がなかったので土工をしてしのいだ。久し振りのスコップ作業はきつかった。体力落ちまくりだ。

  新型感染症の感染拡大に対して外出や休業の自粛が求められ、それを取り繕うための経済的支援策がいくつも行われたが、僕が使えるものはほぼなかった。建前としては誰にでも渡るはずの特別定額給付金と社会福祉協議会の緊急小口資金は使えたが、後者は無利子とはいえ貸付、つまり借金だ。だいたい金を貸すことが福祉なのかとは誰でも思うが、別に今回それを言いたい訳ではない。特別定額給付金にしたって野宿者を始めとして本人が受け取れない例はたくさんあるが、今回はそれも取り敢えず置いておく。

  一人親方だと自営業、フリーランス扱いなので持続化給付金が使える制度だったが市の商工会で僕には無理と確認した。こういう話をすると、「必要な人に渡らないのに、不正に受け取る人がいる。」と怒り出す人がいるが、出汁にされている本人は全くそんなことは考えていない。制度なんて上手く利用出来るのなら使えばいい。例え不正な利用者が多くても、必要な人にちゃんと渡るのならそれでいいじゃないか。元は税金だって?そんなこと言ったらあんな官僚もこんな政治家も、それどころか天皇すら税金で養ってるじゃないか。細かいことで目鯨立てんなよ。

 設備衛生のV社の仕事に戻った。茨城の自宅から事務所まで出て、それから車で現場、の生活から自宅から直接現場の生活に戻った訳だ。いや、電車で寝てられんのすっごいラク。

  最寄駅から現場に着くまでの短い距離に本屋の看板を見かけて昼に見に行ったら古本屋だった。おお、古本屋センサーいい感じじゃん?三度目の緊急事態宣言で休みに入ったが延長には付き合わず、今日から営業再開したらしい。喜んで棚を眺め、古代ギリシア関係の図録だのを二冊買った。事務所集合解散で寄り道をこの一ヶ月ほとんどしていなかったので、古本屋に入るのも久しぶりだ。やはりとても楽しい。

  だがそこまでだった。

  現在鉄筋が組まれ型枠が立ち始めている五階の、まさしく今立ち上がっている最中の壁にスリーブを入れる作業を三時前から始めた。スリーブとは電気の線だの各種配管を通すためにコンクリートの躯体に埋め込む管のことだ。塩ビだったり鉄管だったり厚手のボール紙だったりといろいろある。たいした数ではないが、今日中にやらないと明日には型枠が完全に立ち上がってしまう。それは不味い。スリーブは鉄筋の中に収まる物なので型枠が完全に立ち上がれば型枠二枚に挟まれた状態になり、新しく取り付けることはもちろん、位置を直したりも出来なくなるからだ。

  三時を過ぎてから詰所に下りて机に突っ伏した。眠い。と、携帯が鳴った。茨城の局番からだ。電話に出ると、茨城労働局とか言ってる。ん、組合に用か?「休業支援金の申請をした加藤匡通さんですか?少しお時間いいですか?」休業支援金も新型感染症関連の経済的支援策の一つだ。やっと通るのかよ、遅ぇーよ。社長が申請すれば金が降りると勧めるので申請した奴だ。「加藤さん事業者の欄に記入がありませんが事業者は?」「ああ、一人親方です。」と会話が始まり、「休業支援金は雇用されている方が対象なんですよ。」と話が終わった。

  思い出した!社長はV社に雇われている形にして書類を出せと言っていたのだ。最初は「こっちで書類用意するから。」だったのがいつの間にやら自分で用意することになって、送った書類が西暦表記だと返って来て元号に膝を屈し、結局駄目でしたと。もちろん事実を偽って申請しようとしたのだから、受け取っていれば僕は不正受給者だろう。そんな斉天大聖孫悟空、もとい清廉潔白な人士ではないのでそんなこと気にしてもいない訳だが、しかしこれは笑うしかない。すっかり忘れてたよ!やはり人を騙すような才覚はないんだなあ。これで溜まってる公共料金を一発で解消する魔法は使えなくなった。いや、そもそも魔法なんて少なくとも僕の前には存在した試しがないんだが。

  電話が切れるとすぐにスリーブ入れをしている相方が呼びに来た。休憩を十五分程度で切り上げ、六時まで延々スリーブ取り付けを続けた。もちろん終わったらV社の人間は誰もいなかったさ。

  いいことの後には悪いこと、久しぶりの古本屋がいいことだったのだ。きっと政府からまとまった金なんかもらった日にゃ現場で鉄骨に押し潰されたりするに違いない。狐は川に落とした葡萄を見て言ったのだ。あの葡萄は酸っぱいに違いない。僕もそう思うぞ、ギリシアのどこかにいた狐君!

六月×日(月)「お前、それはないだろう。」

 休業支援金は新型感染症の影響で会社から休業と言われた従業員を経済的に支援する制度である。だが、該当期間中に休んでいた理由が何なのか、あまり調べようがない。もちろんそれでいい。厳密な適用をしようとすればするほど使いづらく、肝心の者に届かなくなる。

 僕の場合、該当期間中に仕事がなかったのは新型感染症のせいなのか、それとも単に社長の手腕が駄目なのかは僕に判別のしようがないし、僕はどっちでもいい。

可哀そうだと思ったのかどうか、休業支援金の手続きはまだ続いていて、細かい問い合わせが何回かあった。が、今日正式に連絡があった。一人親方には適用されない、はそのままだが、おまけが付いていた。「感染を気にして本人から休むといった場合は適用されません。」「いや、社長に仕事がないから休みって言われたんですが。」「本人から申し出があったと社長さんから聞きましたけど。」!マジか。

手のひら返しとはこういうことを言う。やってはいけない振る舞いなので、みんなよく憶えておくように!


エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
第2回エプスタ随筆大賞
応募締切:締め切りましたよ~
ジャンル:随筆
形式:文字、点字
枚数:制限なし
賞品:福島県相馬市の新米及び新米酒
審査員:アガタシネマ miyako/Tamasudare
発表:2022年2月22日
応募先:hironomiya.kamada☆gmail.com ☆を@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

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2022.01.23