応募作品#5 「犬にとってリードとは何なのか」の変奏

編集:鎌田浩宮

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
「第2回エプスタ随筆大賞」

スズキスキーが提案した
9つのテーマから選び
随筆を、書く。
大賞決定前に、応募作品を1作ずつ掲載していきます。


5作目は、名無シーによる随筆の3本目です。

彼は、2020年に開催した
第1回エプスタ随筆大賞にて
作品「昭和四十五年九月十七日木曜日 火山、川、犬、人のことなど」で
Mr.Boo!ギャンブル大賞 」を受賞しました。


それでは、お読み下さい!

題・「犬にとってリードとは何なのか」の変奏
著・名無シー
テーマ・犬にとってリードとは何なのか

 もう何箇月も前のことだ。

 夏で、日差しも無いではなかったが、割と涼しい日で、自宅からバスで20分余りの辺鄙な場所にある郵便局に荷物を受け取りに行った時のことだ。

 私は荷物を受け取ると、さっき降りたバス停の向かいのバス停で次のバスの時間を確認した。

 あと25分。

 どうやら、局員がモタモタしている間に丁度バスが行ってしまった後だったらしい。

 いつもなら不毛に待ち続ける等と言うことが出来ない質の私は、先のバス停まで歩いて行こうということになるけれど、この時は、ここから次のバス停に向かう間に、次のバスに追い抜かれるぞ! と言う謎の声を聴いたような気がして、それは超常的な声のように不運不吉な事への誘いにも聞こえたが、普段映画館で二時間1800円払って不吉な話を楽しんでいるのと比べても、25分無料の不吉な出来事を体験するのはある種お得だと思えた。きっと結構ミステリアスで面白い出来事を見つけられるに違いない、このおれならば、という気分になり、そのままぼおっと、バス停の標識になったつもりでただ立って、何かの訪れを待った。

 ヘンリー・ジェイムズのように、待っていれば体験できるのだ。

 バス停の斜め向かいには警察署、反対側の斜め向かいには立体駐車場完備のスーパー。

 後を振り向くと郵便局建物の脇の植栽。植栽と言っても手入れをしている感じではなく、スギゴケやゼニゴケが生すぺったり固まった土質の土に、楓が一本。

 そのスギゴケ、ゼニゴケの薄い絨毯の上に、セキレイのような小鳥がいてこっちを見ていた。

 ヤクザなどではないが、柄の悪いおっさんが、自慢の手品か何かを見せてやろうと言う感じで、見てなよ、と言うニヤついた視線を送ってきていた。

 なんだい? と言う感じで、こっちも軽くバカにしたように眺めていると、セキレイはぴょんぴょん跳ねながら郵便局と隣の敷地の間のブロック塀に向かって助走をつけて進んで行き、ジャンプしてブロック塀に体当たりすると、ボールのようにぽよ~んとバウンドしてスギゴケの上に着地、急いで後に下がると、またブロック塀に向かって進んで行き、ぽよ~んとモッシュした。

 小鳥がそんな遊びをするとは知らなかった私は少し呆気に取られてセキレイを見ていたが、セキレイは、どうだ、見たか、と言う感じで自慢げに笑うと郵便局の裏庭との間に立ててある後ろ側のブロック塀の透かしブロックの穴にしゅっと消えてしまった。

 バスに追い抜かれるぞと、話しかけてきたのはあのセキレイだろう。

 鳥は普段はヒトの言葉が判らない振りをしていると、古典にも言われている(南華真経)。
 どうやらそれは本当らしい。

 なぜあのセキレイはそれを教えてくれたのか。

 少なくともセキレイは、ひたすら拾い食いばかりして動物らしく浅ましげだがかわいいスズメなどに比べると、もう少し人に近いマナーのある鳥で、その辺を歩いているだけでも歩き方にコミュニケイションがある。

 我々も、全盛期を終えて脇役のような動物に進化したとき、空を飛べるように進化したとき、セキレイのように何らかの気品を持って次世代の主人公達や、数多の動物達に接することが出来るだろうか。

 人間は今、次にどちらの方向に系統発生を辿るのか、静かに分岐点の前で迷っている。

 あなたとあの人達の生き方が違うのはその違う未来のためなのだ。

 世界中に古今東西を問わず将軍がいる。将軍達が。
 しかし、その中で綱吉だけが、何か大切なものに気付いたただひとりの将軍だったのだ。


エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
第2回エプスタ随筆大賞
応募締切:締め切りましたよ~
ジャンル:随筆
形式:文字、点字
枚数:制限なし
賞品:福島県相馬市の新米及び新米酒
審査員:アガタシネマ miyako/Tamasudare
発表:2022年2月22日
応募先:hironomiya.kamada☆gmail.com ☆を@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

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2021.12.06