応募作品#3 犬にとってリードとは何なのか

編集:鎌田浩宮

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
「第2回エプスタ随筆大賞」

スズキスキーが提案した
9つのテーマから選び
随筆を、書く。
大賞決定前に、応募作品を1作ずつ掲載していきます。


3作目は、名無シーによる随筆です。

彼は、2020年に開催した
第1回エプスタ随筆大賞にて
作品「昭和四十五年九月十七日木曜日 火山、川、犬、人のことなど」で
Mr.Boo!ギャンブル大賞 」を受賞しました。


名無シーによる、今年2本目の随筆。

読めばいいとも!

題・犬にとってリードとは何なのか
著・名無シー
テーマ・犬にとってリードとは何なのか

 犬が地上に参加することになった日、と言っても、それは遠い昔のことではなく、来たるべき未来のことでもない、ある、いつかではないその日。

その日も地上には普通の日差しが差していて、神話や民話の日差しが差していたわけではなく、犬は、あの散歩している犬みたいに楽しそうに我々を引っ張ったり、道端のにおいを気にしてしばらくねばったり、こちらの気持を確かめるように振り返ったりした。
犬には行くべき方向が分かっている。

 そのイメージは、あれは何かの本に書いてあったのだったろうか。

 犬に引っ張られていた我々は、狸か、アナグマか。
時にはむしろ渡烏が犬を引っ張ったり等と言ってみているここ、この部分は最近のサイエンス読み物系のサイトで仕込んだ耳学問ではあるけれど、犬が種の違う魂との意思疎通に長けている事は、犬との触れ合いの中で何となく分かっていた。
言葉の通じない同士の意思疎通があると言う、そういう事が分からない人のそれは、自分以外の存在の世情に疎い人間自身の側の問題だった。

 人はダメ。とにかくダメ。意思の疎通が苦手で犬が何をしているか理解出来ず、人だけ寄り集まって社会を作って見ても、全体として悲劇ばかりが起きる。新聞が古文書になった暁には、古文書を読む未来の誰かがが笑ってしまいそうになる程人の世は悲劇続きで、頭の上に徐々に水か小麦粉で膨れてゆく風船があって割れる前に正答を迫られている昭和のタレントのように恐慌状態にある。

 可哀想な悲劇の連続はこの苦手分野が発端となっているに違いない。
バベルの一件で言葉を分かたれる前に、記号的な言語が貼り付けられた当の「気持ち」が、交流不可能なものにされた事件があったと現代の考古学者は気付き始め、証拠となる遺跡を探している。
これが例の原エクリチュール性と呼ばれる通行不能・通行偽装状態の発端で、むしろポジティヴに眺めるとそこにこそ可能性があるみたいな話になるが、それは苦手分野の現実直視が辛いという逃避でもある。

 犬は、反原エクリチュール性闘争を生きている。人間以外の種については犬は魂の紐帯で彼等を闘争に誘い、唯独りコミュニケーション機能が悲劇的に喪失している人間は紐で引っ張って行く。
紐があると人はそれに取り縋る習性があることを犬は知っていて、まず最初に人間自身に紐を作らせた。
人が縄を綯うということに気づく迄には何万年もの年月が流れた。犬はその間遠巻きに念を送り続けた。今でこそツイッター上でも誰も「綯う!」とか言わなくなったが、寄り合わされた繊維は、魂の臍の緒とでも言うべき、一過性の流行を超えた繋がりなのだ。

 犬とは、そう言う苦手が自分を特徴付けているとも知らない存在をも見捨てない存在だ。

 犬は少し先で振り返って舌を出している。
嬉しいときに口角を上げて笑うのを人に教えたのは実は犬だし、わからないことがある時小首を傾げるのを人に教えたのも犬だったことを人間達は忘れている。そしてまたしてもわからないことをわからないままにするようになった。行くべき方角すら。
犬はその事を責めずに、振り返って舌を出して笑って待ってくれているのだ。

 犬を探しています。(写真)
 9月14日夕方、いなげや関町店で買い物中に店先からいなくなりました。
 柴犬、4才、オス。
 人懐っこく誰にでも笑ってすぐに近付いて行きます。
 かみません。

 犬を見つけ、ついて行く。

 犬は、次には、詰まりこの昏迷の先に、我々をどこに連れて行くのか。
 綱吉の霊魂だけが、その秘密を知っている。


エプスタインズ創刊11周年記念特別事業
第2回エプスタ随筆大賞
応募締切:締め切りましたよ~
ジャンル:随筆
形式:文字、点字
枚数:制限なし
賞品:福島県相馬市の新米及び新米酒
審査員:アガタシネマ miyako/Tamasudare
発表:2022年2月22日
応募先:hironomiya.kamada☆gmail.com ☆を@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

関連記事です。
募集・第2回エプスタ随筆大賞
審査員発表
応募作品#1 胡桃割られ人形 名無シー
応募作品#2 想像披露宴 鎌田浩宮
応募作品#3 犬にとってリードとは何なのか 名無シー
応募作品#4 2時間35分 鎌田浩宮
応募作品#5 「犬にとってリードとは何なのか」の変奏 名無シー
応募作品#6 師走の地下鉄で、 表参道が、好き
応募作品#7 連れ立って歩く もげお
応募作品#8 休業支援金、あるいは酸っぱい葡萄 加藤匡通
応募作品#9 現場に来てまで本なんか読んでる馬鹿がいるか! 加藤匡通
賞品発表
大賞決定
受賞の声

2021.11.28