応募作品#9 エプスタ日記大賞

編集・鎌田浩宮
協力・名無シー

 

昨日の日記が、楽しかったです。
一昨日の日記が、楽しかったです。
日記を、募集します。

 

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊10周年記念特別事業第2弾
エプスタ日記大賞

 

 

YouTubeでも、Instagramでも、いいねでも、RTでも、シェアでもなく。
手垢や手癖にまみれていない媒体を用いて、多くの人の記録と記憶を集めたい。

その媒体。
随筆の次は、日記です。

日記の応募、集まってます。
大賞決定前に、応募作品を1本ずつ掲載していきます。

これで打ち止めかな。それとも、まだ応募が来るかな。
9本目は、名無シーさんの日記、2つめです。
世界にはたくさんの問題があって、
どこから手をつけたらいいのか、
どれが最重要で最優先な課題なのか、
でもって自分にできることは何か、
意外にも身近を見渡してみると、
そう遠くない場所でつながれたりして。

今回の企画は、
1981年12月8日(火)
1991年12月8日(日)
2001年12月8日(土)
2011年12月8日(木)
2020年12月8日(火)
2021年1月8日(金)
2021年2月8日(月)
2021年3月8日(月)
2021年12月8日(水)
〇〇〇〇年〇月〇日(〇)

の10日間、どれか選んで日記を送ってくんろ!
という企画なのです。

 

 

名無シー
20〇〇年〇〇月〇〇日(〇)

 

少し前から舌根の裏側辺りが痛い。
噛んでしまうには根元過ぎて、何が原因か分からない。
きょうはそれをずっと気にしながら仕事をしていた。
向かいの席の同僚は、まだ幼い一児の若い母親で、誰のことであれ健康の事は気になる様子で、病院に行った方が良いと勧めてくれる。
確かに、腎臓が悪い上に万が一舌癌等となったら、もう、来年は生きているのかいないのかと心細くなる。

きょうは早番の日で、夕方に残業も無く上がれた。
外に出ると、ほんのぱらぱら程度、雨が降り始めていた。
普段使っている路線とは反対方向の別の路線の駅まで、急ぎ足で向かった。
電車と乗ったことの無い路線バスを乗り継いで人に会いに行ったのだ。
先日会って話をした故国で弾圧を受けている民族の方が、自分の先輩にも会って話を聞いて見て欲しいと仰って、その先輩に会いに行ったのだった。

おとないに応対くださったご家族はきょとんとされていた。
今回の訪問は事前のアポなども無く押し掛けたもので、最初ご家族は戸惑い、少し警戒しているご様子だった。
私は伺った経緯を説明し、皆さんの置かれた境遇を憂えている事を話した。
皆さんの力になれることがないかと考え、先ずは故地の文化、殊に音楽についてほんのさわり程度だけれど勉強を始めた、色々とお話伺えればと伝えた。

奥に通され、少しぎこちなく、間遠に音楽の話などをした。
そんなことで時間を過ごしながらも、お互い初めて会う間柄であれ、私たちには、今語るべき話もあった。
私は前に会った方々が恐る恐る語ってくれた悲嘆すべき境遇を、反芻するように語った。
彼らからするとそれは当然知っている内容なのだけれど、私がそれを話すことで、私がそれを理解して立場の違う日本人として何かできないか考えていることが皆さんに伝わると思ったし、実際先輩とご家族にそれは伝わったようだった。
話の内容の多くは先輩もご家族もご自身と一族の身に降りかかっている事だったが、ものによっては先輩を心配させないためか、先日あった方が話されていないらしい近況もあり、話してよかったのか悪かったのか、先輩は後輩を心配して沈鬱に黙り込んでしまうこともあった。
思うに、彼らには、この国にあっても互いに自由に連絡を取り合うのも難しい状況があるのかも知れない。通話やメールはチェックを受けていたとしても不思議ではないかも知れない。
同じ町を歩くのでも、私たちと皆さんの吸う空気は違っていて、故国からの監視はこの国の中でさえ圧力を加え、空気を吸う自由、当たり前に語り合う自由も故地同様奪われているのではないかと、わたし個人の臆測ではあれ憂慮される。

一方で明るい話も勿論した。家族ぐるみで付き合ってくれる方など沢山の日本人の友達に囲まれてこれ迄何とか頑張って来れていることとか、最近はぱったり見えられなくなった日本人の方で、故地の言葉を勉強してくれて、自分たちの知らない言葉まで沢山憶えられた方もいらしたと、懐かしそうに相好を崩された。
その方は今はどちらでどうしていらっしゃるだろう。
その語学力を思うと、今この時こそという場所で、皆さんのために立ち働いていらっしゃるのかも知れない。

未来を描き切れない境遇の中で未来を描こうとしながら、それでいて語ることに躊躇もあるささやかな明日の展望の片鱗も少し感じさせる生活の話もして下さった。

そんな風に雨の夜は更けて行った。

帰り際、先輩のご家族が、先輩が故地の作り方で煮込んだ無花果のジャムをお土産に下さった。

外は雨脚が強くなっていて傘をさしても靴が濡れた。
雨の中、真っ暗なバス停にバスは中々来なかった。

バスの中で、乗り継ぎ乗り継ぎの電車の中で、飼い猫のように警戒心の一切無いこの国のサラリーマンたちの顔を見ながら、自分のできることについて考えていた。

遅い時刻、家に着いて洗面台の鏡を見ると舌からどす黒い血が出ていた。

雨が屋根を叩く音が聞こえる。眠るまでこの音を聞いていよう。

そうだ。帰り際、故郷でおやすみなさいって何て仰るのか聞いたのに、発音が難しく、雨に洗い流されるように忘れてしまった。
何と言ったっけな。雨音の隙間に、聞こえるような聞こえないような。

 

 

ブログ・エプスタインズ創刊10周年記念特別事業第二弾
第1回エプスタ日記大賞
応募締切:2021年3月9日といいつつ延長中
ジャンル:日記
形式:問わず 点字ももちろん可
枚数:制限なし
賞品/賞金:後日発表
選考委員:後日発表
発表:2021年4月吉日
応募先:info☆epstein-s.net ☆を半@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

今回の日記一覧 併せてお読み下さいね。
募集・第1回エプスタ日記大賞
応募作品#1 エプスタ日記大賞
応募作品#2 エプスタ日記大賞
応募作品#3 エプスタ日記大賞
応募作品#4 エプスタ日記大賞
応募作品#6 エプスタ日記大賞
応募作品#7 エプスタ日記大賞
応募作品#8 エプスタ日記大賞
審査員/賞品決定 エプスタ日記大賞
日記は絶滅する エプスタ日記大賞
どれが本当の日記か エプスタ日記大賞
読者賞無決定 エプスタ日記大賞
大賞決定 エプスタ日記大賞
受賞者から喜びの声 エプスタ日記大賞


2021.04.29