応募作品#4 エプスタ日記大賞

編集・鎌田浩宮
協力・名無シー

 

昨日の日記が、楽しかったです。
一昨日の日記が、楽しかったです。
日記を、募集します。

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊10周年記念特別事業第2弾
エプスタ日記大賞

 

 

YouTubeでも、Instagramでも、いいねでも、RTでも、シェアでもなく。
手垢や手癖にまみれていない媒体を用いて、多くの人の心情を集めたい。

その媒体。
随筆の次は、日記です。

日記の応募、集まってます。
大賞決定前に、応募作品を1本ずつ掲載していきます。

4回目は、本企画協力者・名無シーの日記です。
おお、そう来なすったか。
さすがあんさん、ようござんす。

今回の企画は、
1981年12月8日(火)
1991年12月8日(日)
2001年12月8日(土)
2011年12月8日(木)
2020年12月8日(火)
2021年1月8日(金)
2021年2月8日(月)
2021年3月8日(月)
2021年12月8日(水)
〇〇〇〇年〇月〇日(〇)

の10日間、どれでもいいから日記を送ってちょ!
という企画です。

それじゃあ、日記でぶっ放していくよ。

 

 

名無シー
2021年3月19日(金)

 

エフプスタの日記大賞のことが気になっていて、朝、起床と共に、以前に書いた面白い日記があった筈だと思い立ち、タブレットを取ると、思い出したキーワードでストーリジに検索をかける。

「庭に電話ボックスがある家」 見つからない。

キーワードを間違えているのか、今のストーリジに古いストーリジをミラーリングしていなかったのか。或いは、もしかすると、自分の記憶が誤っているのかも知れない。

詰まり、この記憶は記憶ではなく、人間の仕組みの手違いで「記憶である」と言うサブコードが付いてしまった単なる思いつき、今朝思い浮かべただけの面白い話なのかも知れない。

となると、急いで検索しようとしていた「面白い日記の内容」とされるものを書き留めて置かなければ、どこにもその面白い話は残らなくなってしまう。

出勤時間が迫っていたが、「ながら」なら時間は取るまいと考え、歯を磨きながら、髭を剃りながら、横に置いたタブレットを操り、嘗ての日記の記憶、若しくは、思い出のようでありながら今思い浮かべた面白い話かも知れないものを打つ。

ディスプレイに落ちた歯みがきの泡をシャワーで流す。

面白い話は記憶の海溝、若しくは面白い話の湧水地から掬い出された。

しかし、この面白い話には日付が無い。

日記にとって最も大事なのは日付だ。その日の朝、何があったのか、昼はどうだったか、夜は灯りの下で誰と向きあっているのか。自分と向きあっているならまだ健康で、忙殺されてそれどころではないとすれば、人間的なゆっくりした夜が必要だ。洗わなければならない食器、靴下、パンツに振り回されて、今日の終わりを見届けることなく寝落ちしてはならない。その日世の中で何が起きていたのかだけに振り回されてはいけない。

今朝、自宅の洗面所で、蛇口ではなく心の世界から溢れ出た、日付の無いいつかの思い出の中で、私は夜、今はなくなってしまった近所の路地を歩いていた。
その辺りは、私の転入時期(27年くらい前の夏)から、じわじわと用地買収が進められており、あちこちに何にも使っていない元道路や、元宅地が、針金を張った杭で囲まれて佇んでいた。
そう言う何でもない陣地に侵略されつつある住宅地、元農村の面影を残しなんじゃもんじゃの巨木や、嘗て畦道だった複雑なパズルの切れ目が描く様な曲線の道、辻、暗い家が並ぶ暗い町の暗い夜半、私はその町を歩いていた。
その日、今は無いその町の曲がりくねった路地で体験したことを、私は何故か書き留めておこうと思って文章に打ち、保存したはずだった。或いは潜在的に、意識せずにそう思ってきた筈だと今朝思っていた。
元のファイルには日付はあっただろう。もしかすると時刻も記録してあったかも知れないのに、そのファイルは見つからない。

その時歩いていた筈のその路地ももう無い。

今日の昼、会社の休憩時間に、日付の無い日記を思い出して記したことを、今日の日記に書き始めた。
今日の日記には今日の日付を付けたが、思い出された方の日記はいつの日記だったのか。矢っ張りその事は気になるし、実は記憶ではなく記憶のような思いつきだった場合、あった筈の日付というものは何を指しているのだろう。詰まり、現実の隙間に虚数のように挟まっているありもしない日付のことをいっているのではなくて、自分の心の何をその虚数のような日付は表そうとしたのか。

夜に、今はなくなった路地のあったところに行ってみよう、そう決めていたのに、今さっき、終業時間間際に野暮な仕事が入って、一時間ほども残業させられ家に着く時間は明日になってしまう。

詰まり、今日の日記にその核心のところを書くことが出来ないのだ。今日の日記の世界は、今日の日付が付いているために残りがどんどん砂時計の砂のように蟻地獄のようなところに消えていってしまう。全部が落ちたとき、サラサラとしたあの動きは止まり、今日が死んでしまう。その残りのところに、この日記がある。

今日が死ぬ前に、日記なのに、まだ起きていない予定のことを急いで書くとすると、この後、スーパーで、まだこごみが残っていたら、それを一パック買って、軽く茹で、胡桃を摺り、和えて、ほんの少し醤油を垂らして、ややぬる程度に冷やした黒ラベルと……

いや、それも明日の出来事だ。残り時間が少なすぎて、今日は実質死んでしまった。日記上にしか存在しなくなる今日よ、さようなら。
 

 

ブログ・エプスタインズ創刊10周年記念特別事業第二弾
第1回エプスタ日記大賞
応募締切:2021年3月9日といいつつ延長中
ジャンル:日記
形式:問わず 点字ももちろん可
枚数:制限なし
賞品/賞金:後日発表
選考委員:後日発表
発表:2021年4月吉日
応募先:info☆epstein-s.net ☆を半@に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

今回の日記一覧 併せてお読み下さいね。
募集・第1回エプスタ日記大賞
応募作品#1 エプスタ日記大賞
応募作品#2 エプスタ日記大賞
応募作品#3 エプスタ日記大賞
応募作品#5 エプスタ日記大賞
応募作品#6 エプスタ日記大賞
応募作品#7 エプスタ日記大賞
応募作品#8 エプスタ日記大賞
応募作品#9 エプスタ日記大賞
審査員/賞品決定 エプスタ日記大賞
日記は絶滅する エプスタ日記大賞
どれが本当の日記か エプスタ日記大賞
読者賞無決定 エプスタ日記大賞
大賞決定 エプスタ日記大賞
受賞者から喜びの声 エプスタ日記大賞


2021.03.20