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「キム・ホンソンという生き方」を読んで
文・鎌田浩宮
1951年に日本で生まれた金洪仙(キム・ホンソン)さんとお知り合いにさせていただいたのは、フェイスブックでした。
たったそれだけの縁なのに、そして金さんはご多忙なのに、大阪・九条シネ・ヌーヴォXでロードショウしていた「鎌田浩宮 福島・相馬に行く」を観に来て下さいました。
その後意気投合した僕たちは、お酒とお好み焼きを楽しみました。
東京へ戻った僕の元に、金さんから贈り物が届きました。
僕は驚きました。
こちらが映画をご覧いただいた、お礼をしなければならないのに。
贈り物は、金さんの自叙伝でした。
その出版を祝う会を記録したDVDまで、添付されていました。
「キム・ホンソンという生き方」という名の本は、僕が学生時代とても仲の良かった河野尊君がかつて勤めていた、解放出版社から発行されたものでした。
それもあって、嬉しさは二重となりました。
この国での在日コリアンの暮らしは、差別と偏見に苦しめられることが多い。
加えて金さんは、両手首から先のない不自由なお体です。
日本と日本人への恨みや憎しみの記述を、肝に刻ませていただこうと覚悟して、ページをめくりました。
しかし、多くの差別や偏見に見舞われたはずなのに、恨みや憎しみは、その文章にはほとんどにじんでいませんでした。
とても劇的な半生を、事実を写実的に丹念に、淡々とさえ思える平易な文で書かれていました。
それは、感情的をぶつけるような文ではありませんでした。
声高に主義主張をぶつけるのも勿論いいのですが、自然体で書かれた文からは、自ずと苦しみや痛みや悲しみや様々な感情を、想像させてもらえるのです。
厚かましい言い方になりますが、僕らの映画も、声高に反原発を主張するものではありません。
しかし、観て下さった方は口をそろえて、反原発を訴えて下さいます。
人間をしっかりと描いていれば、描かずともメッセージは伝わるのです。
僕は全国各地のロードショウの移動中に時間を見つけて、清々しささえあるその文章を追わせていただきました。
金さんという方が幾重にも厚みのある、温かみのある人となったのは、学びへの強い欲求、そして、学びを伝えることへの強い熱意だと感じました。
学びを伝えると書くと分かりにくいですが、様々な遍歴を経て、金さんは現在大学で教鞭を取っていらっしゃいます。
子供の頃両手を失い、学校に行く事も出来なくなり、義務教育も受けられず、それでも必死に練習しペンで字を書けるようになり、そこから現在まで至るのです。
金さんがそうであったように、金さんの教え子は、学ぶことの楽しさ=豊かさを存分に受け止めている人が多いようです。
この本は自伝であるのですが、多くのページは、教え子からの講義の感想文などで豊かに埋め尽くされています。
読後、同封されていた、この本の出版を祝うパーティーのDVDを観ました。
これが、すごいんです。
ダウン症と思しき青年のヒップホップダンス(BGMはなんと嵐)、
奄美の男性の三線と島唄、
ニューハーフシンガーソングライター悠以(ゆい)さんの歌(女性と男性の声を使い分ける、オクターブの広い声が秀逸)、
ジンバブエの少年少女達によるパーカッションとダンスと歌(ポリリズムの迫力がすごい)。
これらを観て、ああ、金さんはコスモポリタン(世界市民)なんだなあ、と強く思いました。
そう、この本はコスモポリタンの自伝だったのです。
ぜひ、皆さんも読んでみて下さいな。
学びへの欲求が、生きる意欲になる。
素晴らしい本です。
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