和む!ウイグルの音楽 pt.5 ئۇيغۇر مۇزىكىسىنى ئاڭلاڭ

構成・文/名無シー・鎌田浩宮

 

 

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ئۇيغۇر مۇزىكىسى

 

 

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和む!ウイグルの音楽
ئۇيغۇر مۇزىكىسىنى ئاڭلاڭ

 

 

ウイグルの音楽を、聴いてみようじゃありませんか。
音楽で、ウイグルを訪ねてみようじゃありませんか。
東京芸大や博物館、ウイグル料理屋さんに寄り道しながら。
その道の大家に、話を聞きに行ったりして。
きっと、眩しい旅になるでしょう。
時間は、たっぷしありますよ。
さあ、一緒に出家しましょうぞ。

 

 

 

 

最初の手掛かりは、
図書館の倉庫に眠っていた、
下記2枚のCD。
ここからウイグルへ
浸っていくのだ。

 

キャラバンの調べ~ウイグルの器楽
1 ムシャーブラクムカーム
2 グンドゥパイ
3 カーデル・マルラン(マルラン公社幹部)
4 タシュワイ
5 ヤルー(恋人)
6 ダワンチェン(大板城)
7 ディハンラー・マディア(農民讃歌)
8 豊作
9 ウッシャーク・ムカーム 第一ダスタン
10 ラクダの鈴の音
11 カルワン(キャラバン)
12 ラーク・ムカーム テザ間奏曲

新疆ウイグル自治区歌舞団
新疆ウイグル自治区新玉区文工団(ホータン)

レワープ:ダウティ・アウティ
バラマン:バーキル・トゥルディ
アジェク:マハムティ・トルスン
ダップ:イミン・クルバン
1989年5月2日 キングレコード第1スタジオにて録音

 

 

 

オアシスの抒情~ウイグルの歌

1 タック・スーレイ(山水)
2 ヤルー・スイニン・ダルダン(恋人よ)(1)
3 ヤルー・スイニン・ダルダン(恋人よ)(2)
4 グリヤール
5 グレー・チスカン・ミニン・ヤレン(花を持つ恋人)
6 ティレック・ボスタン(生き生きとしたオアシス)
7 チャビアート・ムカームのチョンナグマン
8 白い泉
9 遥かなる道
10 トーガン・ジェル(ふるさと)
11 クォールケム・アルタイタウェ(美しきアルタイ山)

新疆ウイグル自治区歌舞団
新疆ウイグル自治区新玉区文工団(ホータン)

歌:パシャ・イシャ
レワープ:ダウティ・アウティ
アジェク:マハムティ・トルスン
ダップ:イミン・クルバン
歌・ドゥタール・タンブル:マハムティジャン・シャキル
歌・ドンブラー:ダリルハン
1989年5月2日 キングレコード第1スタジオにて録音

 

 

ウイグルのヴォーカルものを聴く。

 

鎌田浩宮
こんばんは。ヴォーカルものも探ってみましょうか。名無シーさんがすでに挙げて下さった、もう片方のCD「オアシスの抒情~ウイグルの歌」の2曲目「ヤルー・スイニン・ダルダン(恋人よ)(1)」…パシャ・イシャン Pasha Ishan پاشا ئىشان という方が歌っています。この映像の方ですね。別の歌を歌ってますが、ちょっと観て下さい。

 


2012年のテレビ番組「Tengritagh Bulbuli Naxsha Kichiligi」らしい。

 


高音域のド迫力が、ヘビメタかっつーくらい凄まじいですね。中国の京劇のヴォーカルのようでもあり、ちょびっとだけファドの感じもあり。全くの推測なんですが、ご高齢の方をメインに慕われている、かなり著名な歌手なのかしら。

名無シー
13分くらいからスクリーンで流されるやつですね。確かにこの方の唱法、旋法、そしてバックの楽団の音楽は京劇的です。京劇が、中国的なのか、或いは古えの西方北方諸民族の音楽の流れを汲むものなのかという辺りは興味が尽きませんね。そしてこの民俗芸能のステージの演出は、旧ソ連から北朝鮮に広がる共産全体主義的であるというこのミクスチャーも凄まじい!


なるほど!共産全体主義的ミクスチャー。


嘗て、ウイグルの民族的な歌は、恐らく野や中庭などで歌われたと思いますが、共産全体主義の台頭の中で、現在とは違って、寧ろ共産党的体制は民族性をそれが守られる豊かな体制の宣伝として使ったのは、パヴェウ・パヴリコフスキ「COLD WAR あの歌、2つの心」でも紹介された冷戦時代の東側のお馴染みの風景だったと思います。オヨヨォ♪のあれです。

 

 

映画「COLD WAR あの歌、2つの心」を通して。

 


そうか!あの頃の共産全体主義は、民族の伝統や音楽を重んじる、守る、そして利用する。2018年公開(日本公開は2019年)「COLD WAR」、大好きな映画です。

 


ポーランド。13世紀にはモンゴルが来襲。
1945年にソ連の占領下となり、社会主義国化。


上の予告編で合唱された民族音楽が、経過してジャズに。どちらも極上の音楽。

 


この方の唱法は音節の頭に短く力強いコブシが入るところも印象深いですね。京劇のそれに比して、勇ましい力強さの様な表現を感じますが、そもそも歌詞は勇ましい内容なのか、悲恋とか何かなのか……。振り返ると、戦後日本の演歌も、哀しい恋を随分勇ましげな唱法で歌い上げますね。他のジャンルではあまり、「歌い上げる」等と言わないし。


前にも名無シーさんと話したけれど、日本と韓国には演歌というジャンルがあります。

 

 

アルタイ語族圏というくくり。

 


それと、歌だけではないですが、[y](ユィ)の発音を聞いていると、アルタイという感じがしますね。


アルタイは、ウイグルの北隣り。モンゴルともお隣さんです。

 

 


「アルタイ」は、国名ではなく「アルタイ語族圏」と言う感じで、トルコから朝鮮半島迄の言語族的地域となります。ヨーロッパでは飛び地的にハンガリーとフィンランドも関連のある言語地域です。


朝鮮語や日本語もアルタイ語族ですね。主語-目的語-述語という文法が、アルタイ語族圏の特徴です。

 

 


例えば古満州語を使っていた満州族の国・渤海の珮(ハイ:帯を通して腰に提げる玉器)型のパスポートには「ギュィルン・ニ・カダグム(国・の・誠)」と書かれていました。江戸時代に新潟だかの浜辺に打ち寄せられていたのが発見されています。


この時代に、もうパスポートがあったんかいな。

 

7世紀から10世紀まであった「渤海」。
満州~中央アジアを制していた契丹により滅亡。

 


満州の皇族 愛新覚羅家の姓は、愛新アイチン(黄金の)・覚羅ギョロ(血族)。そんな風にアルタイ系の言葉には変母音[y](ユィ)や、子音化した母音[j](ヤ行子音)が耳に残りますね。トルコから満州まで馬を駆って繋がった言葉の響きです。


モンゴルに2回行った事があるんだけど、耳にした感じでは、モンゴル語とウイグル語は似ているなあと思います。シナ・チベット語族圏の中国語よりも、語感が近い。

 


これが満州語らしい。

 


因みにアイチンギョロ姓には、日本で言うと鎌倉時代、満州族の一部族 女真 の阿骨打が建てた国「金」を継承する一族だという意味が込められていて、ギョロとギュィルンは音節の近似や、意味の面の血の土地への帰属意識の関連を見ると語源を共有しているのかなとも思います。

 

12世紀に建国された、金王朝。モンゴルの来襲により13世紀に滅亡。

 

 

 

日本の演歌との比較。

 


名無シーさんが指摘した、日本の演歌と比較してみましょう。敢えて、戦争が終わったばかりの曲を選んでみます。1947(昭和22)年、二葉あき子「夜のプラットホーム」です。「歌い上げる」とまではいかないけれど、パシャ・イシャン同様に高音域を聴かせる歌唱ですよね。この頃はまだ、演歌という言葉はありません。

 


当時はSP盤。くすんで聴こえることもあいまって、ウイグルの歌に近いものを感じる。

 


でもって1949年「悲しき口笛」。なんと12歳の美空ひばり。低音に聴き応えがあります。演歌のルーツとして「りんご追分」が挙げられますが、そちらは1952年。こぶしやうなりで「歌い上げる」天才・都はるみのデビューは1964年。演歌という言葉が「現代用語の基礎知識」に掲載されたのは、1970年だそうですね。

 


低音で歌われることもあり、大陸の歌と異なる「演歌」へと向かっていく。

 


ふと思ったのは、都はるみが口蓋垂(編集部注:のどちんこのこと)から鼻腔の振音を激しく発しながら歌っていた歌を、日本語が分からない海外の方々は何を歌っていると想像したかなと言うことが気になって仕方ありません。それは、恋でありながら、日本海の荒波に向けて舟を出すような、何かに立ち向かうようなものに聞こえたのではないかと。


そうそう。例えようがないので、ついついパシャさんのことをヘビメタと当てはめ、いやそうじゃないだろと自分ツッコミする。


ウイグルの方の、先に言及した勇ましげな音節の頭の短いコブシは、まるで馬を駆って闘いに出るような勇ましさを感じさせます。普段の気持ちの根のようなものが、歌い方に現れる空気を取捨選択したという事はないかななどと想像します。


なるほど。日本のコブシと、ちょっと違う。いや、だいぶ違うか。


第一次産業の従事者が減っていった90年代に向かって演歌が下火になっていったのはそう言う事と関わりが無かっただろうか等と、今ウイグルの歌を聴きながら、日本の現代音楽史について振り返らせられる気がします。

 


都はるみ17歳、映画初主演作「アンコ椿は恋の花」(1965年)

 

三日おくれの 便りをのせて
船が行く行く ハブ港
いくら好きでも あなたは遠い
波の彼方へ 行ったきり
アンコ便りは アンコ便りは
ああ 片便り

三原山から 吹き出す煙
北へなびけば 思い出す
惚れちゃならない 都の人に
よせる思いが 灯ともえて
アンコ椿は アンコ椿は
ああ すすり泣き

風にひらひら かすりの裾が
舞えばはずかし 十六の
長い黒髪 プッツリ切って
かえるカモメに たくしたや
アンコつぼみは アンコつぼみは
ああ 恋の花

 


あんなに唸り声を上げて、何歌ってるかと思ったらラブソングかよ!海外の人、ビビりますよ。


力んで絞り出す恋!


都はるみ、好きです。このご時世で何か歌ってくれないか。


あ゙ん゙こぉ~、あ゙ん゙こぉ~ みたいなあれ…当時は、ロックぽい曲もどこか演歌っぽい唱法があったように思い出されます。


鼻腔を使った歌い方では、西城秀樹も思い出します。ヒデキ、好きなんだよなあ。で、その歌唱法を矮小してリサイクルしたのが、氷室京介。

 

 

CDの曲は「恋人よ」だった。

 


逆にパシャ・イシャンさんも、全曲少女の恋心を歌っていたりして。先に挙げたCD2曲目の曲名「恋人よ」だし。


そんな気がします。戦後の日本人が力んで恋愛したように、ウイグルの方々も勇ましく恋い焦がれるのかも知れませんが、歌詞の和訳を読みたいですね。


叙事詩と叙情詩と叙景詩…歌詞をこの3つに分けてみて、パシャさんはウイグルの広大な風景とかを歌ってるのかなと想像しつつも、実は「ウルムチ山から噴き出す煙 あれは私の恋心 ウルムチ椿は ウルムチ椿は」と歌っているのだ。

 

 


このCDのライナーノートを読む事も忘れ、夢中になってお喋り尽くす我等愛おしい初老2人。種明かしのようで嫌だけど、ここに転載しますね。

「パシャ・イシャ(Pasha Ishan)は、エルキン・クトゥブディン(Erkin Kubidin)、アイシャム・キューム(Aishem Keyum)、ジェミリー・クルバン(Jemile Kurban)などと並ぶ人民芸術家の称号を持つウイグル最高の女性歌手だ。1954年のワルシャワ世界青年交歓会での銀メダルを皮切りに、ウイグル・中国はもとより、世界各地でステージを行い、極めて高い評価を受けている。圧倒的な声量と、絶妙なコントロールは本CDでも堪能できる。そんな名声にもかかわらず、ふだんの彼女は冗談の好きな“気さくなおばさん”といった雰囲気で、これがまた敬愛される理由でもあるようだ。


シルクロードの音楽を記録するプロジェクトのページでアブドセミ・アブドラフマンさんと仰るウイグル人の音楽家で研究者の方が、ウイグル音楽を解説しています。今読み始めました。矢っ張り恋歌はメインのテーマの一つらしいです!


げ!同じサイト、僕も数日前から見てました。

 


ウイグル・テレビジョン
「Séghinip Keldim, Weten’ge Medhiye, Tagh Suliri Pasha Ishan」より

 


2011年にアップされたYouTube「Pasha Ishan-Bulbul. Saitov Zainidin」。

 


2017年にウイグル・テレビジョンで放映された
「Pasha Ishan Zepmu chirayliq Keldi baha」のようだ。

 


そして遂に!2人でウイグル料理を食べに行ったのだ。次回、たっぷり語り倒すので、お待ちあれ!

 

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2021.03.09