私の2020年映画ベストテン 鎌田浩宮編

写真・文/鎌田浩宮

 

 
2020年は未見の映画が多いので、もっと観てから書かないといけないんですが…。なお「パラサイト」「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」「男はつらいよ お帰り 寅さん」は2019年のベストテンに入れました。それにつけても、2020年ほどキネマ旬報ベストテンと乖離した年はないですね…。

 

 

1位 風の電話

 
断トツの1位です。名無シーさんに教えてもらって、2月19日にアップリンク吉祥寺へ観に行きました。上映後は諏訪敦彦(のぶひろ)監督と、アップリンク館主・浅井隆さんのトークショウ。その後のサイン会で監督は、僕なんぞの者からの質問に、とても丁寧にお答え下さいました。僕らが福島のドキュメンタリー映画を作った話も、感心をもってお聞き下さいました。

台本を用意せず、その場で口頭で台詞を伝える手法は、是枝裕和監督が既に行っているが、それどころか諏訪監督の場合、ストーリーを用意していない。現場で役者に好きなように演技させる。

このようなインプロビゼーションにしてしまったら、フリージャズのようなものである。大体は破綻してしまい、作品として成り立たなくなるだろう。それをやり遂げてしまうのは、諏訪監督の力量なのだと思う。

このようなセミドキュメンタリーのような形をもって、東日本大震災を描く説得力を獲得する。すごい。本当にすごい。

 

 

2位 そんなこと考えるの馬鹿

 

2018年に山中瑶子監督「あみこ」がポレポレ東中野でロードショウされ、連日満席札止めのような状況になりました。以降、山中監督とポレポレの良好な関係が続いています。ポレポレのスタッフである小原治さんが企画を立て、山中監督の周辺にいる大学生の作品を時折上映するようになりました。

田村将章監督「そんなこと考えるの馬鹿」は、ポレポレそのものではなく、1階の喫茶スペース「ポレポレ坐」で上映しました。一部の椅子を並べ替えると、なんと上映スペースに早変わり。

上映前後は豪華メンバーによるトークショウ。田村監督・山中監督に加え、出演の清水啓吾さん・金子由里奈さん。清水さん金子さんは他作品で監督も。面白かったなあ。田村監督・金子さんは立命館大。立命館映研すごいぞ。

どうでもいいような中堅・ベテラン監督の駄作を観るより、本当に面白いです。アジアの中でも日本映画は本当につまらなくなりましたが、彼らの作品は素晴らしいです。未来明るいです。

僕が学生映画を撮っている頃、周囲の学生監督は、自分の身の回り半径2mに起こる事をテーマに映画を撮っていた。自己と他者とのもろく崩れやすい意思疎通などが題材だ。なので、出演者は同世代の学生だけになる。子供や老人が出演する映画などない。社会問題を扱ったものもなければ、コメディーもない。たまに特撮ものがあるくらいか。

そんな題材に、菅田将暉がウオーと泣き叫ぶカットを挿入すれば、現代の日本映画になる。自己の発露を絶叫という形で表せばいいという、安易な表現手段しか浮かばない映画監督たち。半径2mだからだ。半径2mの世界しか描かない。韓国や台湾や中国映画のようには、海外で受け入れられない。

しかし金子由里奈監督の最新作「眠る虫」も秋にポレポレ東中野で封切されたのに、忙しい忙しいと言ってたら見逃してしまったです。海より深く反省。

 

 

 

3位 37seconds

 

坂本龍一さんがこの映画を賛じていたので、観に行きましたぞ。2月12日、渋谷シネクイントホワイトです。主役の方も魅力的ですが、「風の電話」といい渡辺真起子さんは、いい作品を選んで出ていらっしゃいます。以前の桃井かおりさんのように、いい作品なら一肌脱ぐよ、監督を現場を盛り立てるよという気概を感じます。素敵な俳優さんです。日本インディーズ映画界のハブです。

 

 

4位 バジュランギおじさんと、小さな迷子

 

友達がよかったと言っていたので、行きました。アップリンク吉祥寺、1月22日です。見逃し上映企画。

何だよただのボリウッド映画じゃないか、帰ろうと思いながら観ていくと、これが面白くなっていくんです。インドと、隣接するパキスタンの長年に渡る隔絶と争いに対し、ヒューマニズムとマサラムーヴィーならではのミュージカル・ダンスやコメディーなどをふんだんにまぶし、娯楽作としています。

2019年に観た「テルアビブ・オン・ファイア」と同様、深刻な二国対立に対し、今までになかったようなユーモアで描く作品が増えていますね。これまでは、ユーモアが立ち入ることのできないテーマだったんです。

 

 

5位 海辺の映画館-キネマの玉手箱

 

中学生の時に封切された「転校生」を観て以来、大林監督を慕い続けた。遺作とは書きたくなく、敢えて最新作と記すが、これは絶対にコヤで観なくてはならない。できればスバル座辺りで観たい作品だが、もうそのコヤはない。8月14日、日比谷シネシャンテ(現在、これは正式館名ではないようだ)。

でも、無闇に監督を持ち上げるのも、いけないと思う。CGを用いて新たな作風にたどり着いた「この空の花 長岡花火物語」以降は、モンド映画という定冠詞がふさわしい。全裸の若い男2人が白馬にまたがり夜道を疾走。役者も理解するのが困難だっただろう。これを反戦映画と言われても、安易に同調してはいけない。

ただし、1コマのフィルムの中の遠近感や人物の配置などは、大正から昭和にかけてのシュールレアリズム画家・古賀春江を想起させる。なかなかできるものではないと思う。

この作品では、沖縄に出陣している日本兵が、沖縄の女性を強姦するシーンがある。そんなことがあったのか?大林監督の創作ではないか?しかし調べてみると、あったらしい。このような知られざる日本兵の悪行に触れているのも、素晴らしい点だ。

 

 

6位 ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

 
3月1日、ヒューマントラストシネマ渋谷。
名無シーさんはこの監督のデビュー作「凱里ブルース」の方が傑作と言っており、観たいのですがまだ観てません。出演者の服装がジャージじゃなければもっといいのになあ、ジャージじゃなければ「オルフェ」なのになあ、と思ったのは僕だけでしょうか。

 

 

7位 鵞鳥湖の夜

 
「ロングデイズ・ジャーニー」や去年の「象は静かに座っている」といい、中国の若手監督ったら。絶望感の描き方が。政治や社会が煮詰まっていると、芸術はこんなにも成熟していくのか。10月7日、新宿武蔵野館。

「二番館へ走れ」執筆担当・戦闘的ゴジラ主義者もこの作品を推している。僕らがこの映画を観ているように、海外は北野武作品をこの映画のように味わっているのかも知れない。

 

 

8位 セノーテ

 

大島渚賞受賞作というので、行きましたぞ。審査委員長は、坂本龍一さん。審査員は黒沢清監督。このご時世にもかかわらず、満席でした。10月1日、新宿ケイズシネマ。次回作も楽しみにしています。

 

 

9位 魚座どうし

 

出た!山中監督最新作。上映後のトークショウが、なんと山本政志監督。2月26日、角川シネマ有楽町。文化庁の若手監督育成企画での中編作3本立てでした。ぜひ、120分前後の長編で観たい内容です。他の2本は、なぜこんなものを文化庁が?というほどの駄作でした。「21世紀の女の子」同様、山中監督だけが際立って魅力を放っています。

 

 

10位 テリー・ギリアムのドン・キホーテ

 
あまり面白くなかったけど、10位。2月26日、新宿シネマカリテ。


2021.02.11