応募作品#7 江戸Σ

編集・鎌田浩宮

 

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊10周年記念特別事業
「エプスタ随筆大賞」

随筆は元々、自由度の高いものです。
頭の中で描いたことを書いてもいいし。
過去にあった出来事を書いてもいいし。
つれづれなるままに、筆を滑らせるのですね。
私たちの「綴方教室」が、今日も始まります。

 

 

題:江戸Σ
著:名無シー(原案:Ω)
テーマ:死ぬのは奴らだ

 

 ∮       §       ∮       §       ∮

 

東京は嘗て近世まで江戸と呼ばれていた。
当時、江戸は世界でも有数の大都市だったが、その繁栄の影に「Σ(シグマ)」が存在していたことを知る人は少ない。

Σは、錦の御旗を掲げた薩長の間諜によりその実態を追及されかけたが、Σについて書き記された古文書は、全て上州の楮で漉き上げた水に濡れても絞っても破れない特殊な和紙にしたためられていたので、Σを護る町人達は、その古文書を江戸のいずれかの井戸に投げ込んで秘匿し、今もその井戸がどこにあるのか誰も知らないと言う。
ただ、それが真実ならば、Σは関東大震災も、東京大空襲も掻い潜り生き延びた可能性は高い。

薩長の間諜達は、ウンデット・ニーやソンミ村の如くΣの根拠地を血の海に変えるべく臨んだが、Σの返り討ち──それは敵の攻撃を傘を斜めに傾けてかわしたり、拳一つ分腰を浮かせてかわしたり、敵の間違えを指摘したりせずに寧ろ同じ事をして場を和ませる謎の力と言う人もいる──に遭い、誰一人帰還できた者はなかったという。

その話をしてくれたのは、仮の名をΩとするが、私が昔いた職場の十位年上の先輩で、Ωは嘗てその姿を消したΣの所在を突き止めるべく、東京の井戸という井戸を巡り歩いているといっていた。

まだ平成も始まって間もないある夏の夜、Ωが〓〓区の舌状台地の崖下にある井戸のポンプを、誰にも見つからない様そっと取り外して、井戸の中を懐中電灯で照らしながら、マジックハンド式のタモを差し入れようとした正にその時だった。
崖上に立つブロック塀の上に巨大な満月を背負いスローロリスの様な動物が座っており、両手を器用に使って巨大な虫を貪り食いながらも、その目は完全にΩを凝視していたと言うのだ。
しかも、そのスローロリスは、頭髪をチックでオールバックにしていたという。
あの強い眼力…… Ωは、思い出して語りながらも震えていた。
何らかの強い力を受けたΩの腰は拳一つ分浮かび上がり…… そこまでは覚えているが、その後の記憶が無いという。
ただ、薄れる意識の中で、最後に見たのは、スローロリスの巨大な目と固められた髪、そしてΩの懐中電灯が偶然照らし出したスローロリスの左胸に輝く議員バッジだったと言う。

次に目を覚ました時、Ωは自宅の風呂場で着衣のまま──靴すら履いていた──湯槽の湯に浸かっていた。
しかも、湯は冷めておらず、適温だった。たった今そこに運び込まれたかのように。
キッチンのテーブルにはバラバラになった虫の食いかすが散らばっていて、室内に整髪料の中年臭いにおいが漂っていた。

Ωの話はそこまでだった。Ωはその話をしてくれた後程なく職場を去った。
大分後になって、私は職場を辞めたΩに似た男が、ある議員に秘書として随行しているのをテレビのニュースで見たことがある。
今は鬼籍に入ったその議員は、オールバックで、飛び出そうな目玉がトレードマークだった。

江戸Σの存在を信じるも信じないも皆さん次第だが、一方、真実はとなると、それはただ一つだけなのではないだろうか。

残念ながらその後のΩの行方も、Σの所在も私は知らない。

 

 

募集期間を延長しました。ぜひ、ご応募下さいね。

 

ブログ・エプスタインズ創刊10周年記念特別事業
エプスタ随筆大賞
応募締切:2020年10月11日(日)
ジャンル:随筆
形式:Microsoft Word または googleドキュメント
   ペンで紙に書いて、または点字などの郵送も歓迎です
枚数:制限なし
テーマ:以下の6つの中から選び、応募下さい。
   ・お楽しみはこれからだ
   ・おれは悪くない
   ・三等同僚
   ・死ぬのは奴らだ
   ・ビッグトゥモロウ
   ・耄碌と恍惚
賞品/賞金:後日発表
賞一覧:・大賞
    ・投票による読者賞
    ・裸の大賞
    ・若大賞
    ・青大賞
    ・のんき大賞
    ・Mr.BOO!ギャンブル大賞
審査員:高橋紅(くれない)
    高橋基(もとい)
    スズキスキー
発表:2020年10月吉日
応募先:info@epstein-s.net @を半角に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

 

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2020.10.09