応募作品#3 自転車泥棒

編集・鎌田浩宮

 

ブログのくせに長めの事業でこざかしい
エプスタインズ創刊10周年記念特別事業
「エプスタ随筆大賞」

コロナ下の随筆を、10年後に読み返す。
そのことを前提として、随筆を書く。
庶民による、2020年のドキュメント。

 

 

題・自転車泥棒
著・鎌田浩宮
テーマ・ビッグトゥモロウ

 

 ∮       §       ∮       §       ∮

 

2019年の5月末に、仕事を辞めました。
仕事をしている場合じゃない、と思ったからです。
2018年から2019年にかけて、同い年の友人が立て続けに2人亡くなりました。
そこで、僕のジンセーも終わったと思い込むことにしたのです。

かといってすぐさま自殺するわけにもいかないので、仕事を辞め、昼は出汁でも取って、4時頃からつまみを作り始め、5時には風呂に入り、6時から広島東洋カープの試合を観て過ごすようにしました。

これがすこぶる楽しくて、持病は治るわ、不眠症は治るわ、暴飲暴食しなくなり体重減るわ、いいこと尽くし。本物ではなく似非隠居だけれど、ジンセー51年目にして、初めて平穏な日々と出会えた気になりました。

年越しをして、コロナウイルスが流行しだしても、あまり苦になりませんでした。去年から極端に外出をしなくなったし、無職なのでそもそも失職しない。生活はあまり変わりませんでした。

しかし!昔から行きつけ、お世話になっている地元のお店が、コロナで売上激減、閉店するかも知れないという状況に陥りました。何かしなければと思いました。僕は、子供の頃からこの町に住んでいます。同級生や、その親御さんが営む店もあります。そこで、4月からクラウドファンディングを起ち上げました。嗚呼、似非隠居のくせに。引きこもってりゃいいのに。

あまりにも金が集まらず、ひっくり返りそうになった。初老でネットに疎いとはいえ、それにしても集まらなかった。参加して下さったお店が、見る間に冷たくなった。協力下さらないどころか、「店内に募金箱を置いた方がましだ」と俺を罵るお店さえあった。

俺が客だった時は、温かかった。仕方がない。女将も主人も必死なのだ。いつ閉店するか分からない状況下で協力して下さっているのに、頼りにならない役立たずなのだ。餅は餅屋にさせておけばよかったのだ。似非隠居がしゃしゃり出るから、こんなことになったのだ。

このままだと、この町にいられなくなるな。金に困って自殺する人の気持ちが、理解できるようになる。クラウドファンディングの期間は2か月だったから、死なずに済んだ。ケツがなかったら、死んでいたかも知れない。

(途中で気付いたのだが、コロナに関して町ぐるみで展開するクラウドファンディングには、特徴があった。数百万円、数千万円集まっている団体・自治体の場合、参加店舗数も多いのだ。したがって、集まった金を参加店舗数で割ると、おおむね10万円前後になるケースがほとんどだった。俺達の場合、集まったお金は少なかったものの、参加店舗も少ないので、10万円前後の金を分配することができた。まあ、言い訳なのだが。)

その日も、自転車で参加店舗を回っていた。ご苦労様と言ってくれる店もあった。別の店では、「大将は休憩中で不在」と店員に言われ、後ろの座敷を見ると、寝ている大将の足が見えた。俺の声が聞こえているにもかかわらず、寝たままだ。起きて挨拶もなかった。妻と思われる女性から、挨拶はない。俺を睨んでいた。そんなに憎いのかと思った。

店の前にはスペースがなく、隣のビルのスペースに自転車を停めていた。10分後に戻ると、自転車がなかった。辺りを見渡すと、貼り紙があった。

「不法駐輪禁止
●〇〇のお客様以外の車両は撤去し1日当たり1万円の必要経費を請求いたします。
●申し出が無い場合は、警察・及び行政機関へ届出をした上で、処分いたします。
※誰かに勝手に置かれたなど事情がある場合、車両の所有者自身で犯人へ損害の請求をして下さい。
※メールの返信には1週間ほどかかります。
※下記メール以外の対応は一切いたしません。
(メール送信が失敗する場合、メールのセキュリティ設定が原因です。ご自身で契約しているプロバイダへ問い合わせて下さい)
※撤去は外部委託している為、各テナント・管理会社・警備室への訪問しても対応できませんのでご了承下さい。
連絡先:〇〇@gmail.com
記述内容:住所、氏名、自転車の防犯登録番号(バイクの場合はナンバープレート)」

中国映画「象は静かに座っている」(2018年)のフー・ボー監督は自殺したが、彼の住んでいた町にも、類似した貼り紙があったのではなかろうか。

かなり疲れていましたが、歩いて帰るしかありませんでした。亡くなった老猫・浪も乗せていた愛着ある自転車でした。

後日もその後日も、クラファンで忙殺されていました。が、数日後、貼り紙に書かれたアドレスへ、メールを送ることにしたのです。

その場所はビルになる前、ビルの事業者がレストランとパチンコ屋さんを営んでいました。

「今から45年前、小学生の頃に家族で訪れ、セットメニューを注文しました。ほたての貝殻の上にグラタンが乗っていて、ハンバーガーもついており、幸せな気分になりました。同じ頃、僕のおじは向かいのマンションで、デザイン事務所を営んでいました。おじの背中についていき、拾ったパチンコ玉で羽根台を打つのが楽しみでした。素敵な思い出をありがとうございます」と結んで、送信しました。

8日後、自転車撤去委託組合という方から、返信が届きました。法的責任に関する難しい長文が続き「同意をしたとみなされるので、安易にこのメールへ返信するな」と書かれていました。

その次に「ここまでは固定フォーマットの文面だ」と断りがあり「正確に確認できないが、おそらく当組合では撤去していない。警察は、盗難届の受取を拒否するかも知れない。しかし、警察は受け取る義務がある。何とかして授受させるべきだ」といったことが、です・ます調で書かれていました。

すぐに区へ問い合わせると、区が僕の自転車を撤去し、保管していることが分かりました。すぐに保管所へ出向き、3000円を払い、返還してもらいました。

コロナで、世界中のお店が経営難になりまして。クラウドファンディングを運営する者・支援してもらうお店・寄付をする者と、弱者同士にもかかわらず全ての関係性が「利用する者」と「利用される者」の2者のみに分別されまして。

そこに忽然として登場した、自転車撤去委託組合。その後、事態はやや好転し、苦しみのないクラファン終了を迎えることができました。自殺する前のフー・ボーの町にも、なぜ自転車泥棒が現れてくれなかったのでしょうか。

クラウドファンディングを、決して人には勧めません。僕の地元だけでも、コロナにまつわるクラファンが複数ありましたが、どこも思ったようにお金が集まらなかったからです。ただ、クラウドファンディングをやってよかったと思っています。なぜなら、クラファンを展開したがゆえの常軌を逸した苦しみよりも、クラファンを起ち上げなかった後悔の苦しみの方が、僕の中では上回ると思っているからです。

 

 

募集期間を延長しました。ぜひ、ご応募下さいね。

 

ブログ・エプスタインズ創刊10周年記念特別事業
エプスタ随筆大賞
応募締切:2020年10月11日(日)
ジャンル:随筆
形式:Microsoft Word または googleドキュメント
   ペンで紙に書いて、または点字などの郵送も歓迎です
枚数:制限なし
テーマ:以下の6つの中から選び、応募下さい。
   ・お楽しみはこれからだ
   ・おれは悪くない
   ・三等同僚
   ・死ぬのは奴らだ
   ・ビッグトゥモロウ
   ・耄碌と恍惚
賞品/賞金:後日発表
賞一覧:・大賞
    ・投票による読者賞
    ・裸の大賞
    ・若大賞
    ・青大賞
    ・のんき大賞
    ・Mr.BOO!ギャンブル大賞
審査員:高橋紅(くれない)
    高橋基(もとい)
    スズキスキー
発表:2020年10月吉日
応募先:info@epstein-s.net @を半角に変換して送信して下さい
郵送は〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋2-20-13-410 鎌田浩宮まで

 

関連記事 併せてお読み下さいね。
募集・エプスタ随筆大賞
エプスタ随筆大賞のしほり
エプスタ随筆大将のしほり
エプスタ随筆対象のしほり
審査員決定・エプスタ随筆大賞
応募作品#1 老人と笑み
応募作品#2 我が家の困った習慣変わるかなあ
応募作品#4 ヴィラ・コーポ笹野101号室について
応募作品#5 我が家の家電製品
応募作品#6 昭和四十五年九月十七日木曜日 火山、川、犬、人のことなど
応募作品#7 江戸Σ
応募作品#8 ミラノの奇蹟
賞品決定・エプスタ随筆大賞
応募作品#9 首から上の世界は…
読者賞発表・エプスタ随筆大賞


2020.10.04