弐千弐拾年乃御挨拶似候

文・鎌田浩宮

 

隠居宣言

お正月だというのに、
とんちきな話をします。

隠居、しています。

敬愛する横尾忠則さんであれば画家宣言ですが
才能も行動力もない僕であれば
隠居宣言くらいしか思いつきませんで。

隠居の思いが強くなったきっかけとしては
一昨年と去年立て続けに
同い年の友人2名が亡くなった事。

2人とも40代の頃から
長い闘病生活を送り
50歳で亡くなったわけです。

一般的には60歳で定年退職となりますが
この事を照らし合わせると
そこから自由を得ても
遅いんですね。

 

 

加えて
地球温暖化による異常気象や
香港やロシア(や日本)などを覆う新全体主義。
今すぐにアクションせねばならない事が
すぐそこにあります。

こりゃあ、働いてる場合じゃねえな。

収入はなくなるものの
満員電車に乗らず
好きなだけ新聞を読み
オンタイムで「やすらぎの刻~道」を観て
夕方からつまみを作り
風呂に浸かりながら夕焼けを愛で
6時から広島東洋カープの試合を観る。

時には
実家の老猫の世話を焼き
体調の悪い従兄弟にちょっかいを出し
近所の独居老人と昼酒をなめ
不登校の若者とギターで遊び
台風が来れば電話し
生きているか死んでいるか確認する。

時間があるものだから
朝鮮学校にお邪魔し
野宿者の方へ原稿執筆を依頼し
駅前のマンション建設に睨みをきかせ
親戚が死に至った新興宗教の問題を調べ
ユニセフの毎月寄付を始め
被災地へふるさと納税を納め。

身近な事へ目を向ける事によって
その向こうにある温暖化や香港についての
アイデアが浮かべばいいな…と。

 

 

どこから覗いてみても
褒める部分のないジンセーでした。

51年生きてきて
野球で言えば
最終回の9回裏が終わり
既に試合は終わってしまった。

残されているのは
エキシビションとでも言いましょうか
点数には加算されない余技のよーなもの。

しかし
隠居生活を始めてみると
これまでの不眠症が収まり
数十年ぶりに8時間の睡眠が
かなうようになったんです。

ストレス発散が原因のやけ食いもなくなり
体重も減りまして。

20代から患っていた
不安神経症(パニック障害のようなもの)
もほぼなくなってしまい。

僕は物心ついてから
両親の喧嘩や暴力を見て育ちました。
振り返ってみると
これほどストレスの少ない生活は
51年間の半生で初めてなのかなあと。

 

 

もちろん、
誰もができる事じゃござんせん。
幸い
誰彼から惚れられる事もなく
所帯を持つ幸せもなく
寅さんのような独り身だから
勝手ができるわけです。

アリとキリギリスで言えば、
まったきキリギリスです。
僕の晩年は貧困と飢餓で
のたうち回ってくたばる事になるでしょう。

なので
金がなくなれば
去年までのように働く事となるでしょう。

しかし
今のこの暮らしは、たまらない。
手放すなんて、もったいない。
人間らしくて、力まない。

守るべきものがないというのは
寂しい事と捉えがち。
でも、
僕にとってそれは
豊かな事なんです。

隠居生活の中で作る音楽や映画は
これまでと違うものになるでしょう。
こんな初老を
今後ともよろしくお願い致します。

 

エプスタインズ非代表取締役社長・鎌田浩宮

 


2020.01.01