ぺこ&りゅうちぇるとエド・ウッドと舞天の親和性

文・鎌田浩宮

「私のチーク盗んだでしょっ」
「やだっ髭映さないでっ」

豊富な持ちネタを所有する、
ぺこ&りゅうちぇる。
M-1とTHE MANZAI2冠の
パンクブーブーより、
圧倒的に面白い。

懐かしい。
嗚呼、懐かしい。
こういう子、昔、いたよな。

 

20代の頃、親友の紹介で、ルナとトムという恋人同士、すなわちアベックとたまに会ったりしていた。
2人とも日本語を喋る日本人なんだが、ルナはトムのことをトムと呼んでいた。
この2人はその熱愛ぶりを隠すことなく、その「私達アツアツなんすけど」なアピールがぺこ&りゅうちぇるっぽかったのだが、異なる点も多かった。
ルナは、年上の僕へも常に水沢アリーの如く敬語は使わない。
加えてちょいちょい自分の高学歴をひけらかし、僕らを小馬鹿にしてくる。
ルナの生意気さに辟易していた僕らは、彼女の事を陰で「宇宙星人ルナ」と呼んでいた。
理解できないほどある点で超越している人の事を「宇宙人」と呼んで称賛することが、ある。
しかし、宇宙には数えきれないほどの星が存在するが、「宇宙星」という星は、ない。
「宇宙」という言葉と「星」という言葉は外在と内在の関係であり、同義で複合語になるわけが、ない。
すなわち、頭の悪いナンセンスな造語でルナとトムへ、ヘロヘロなジャックナイフをかざしていたのだ。

翻って、ぺことりゅうちぇるは年上に対し敬語を欠かさない。
学歴もかざさない。

話を変えるつもりではないが、人類は、総じて4種類に分類されることで知られている。

・ ヘンタイよいこ
・ ヘンタイわるいこ
・ セイジョーよいこ
・ セイジョーわるいこ

この分類法は、今は亡き糸井重里によって考案された。
ぺこ&りゅうちぇるは、ヘンタイよいこに分類される。
ルナ&トムは、セイジョーわるいこに分類される。
意外に聞こえるだろうが、三船美佳&高橋ジョージはセイジョーよいこだろう。
ヘンタイわるいことしてのシド&ナンシーは、分かり易い。

10代で多くの人には自我が芽生え、反抗期を迎えたり、ロックやゴダールや大人計画で壁を形成し外圧から身を守ると共に自己を育んでいく。
しかし、大方の人は20代になると、その自我を社会へすり合わせていく。
ジャズやジャン・ジャック・ベネックスやサリンジャーで形成した壁を取り外し、就職し、結婚し、子を育て、死ぬ。
だが、そこからこぼれる20代は、20代になっても緩やかな壁を形成し続けていく。
僕なんぞの20代はその点でヒジョーに分かり易く、音楽や映画を捨てられず大学を中退しそれらで身を立てられないかとムボーな挑戦をし、いいちこを煽ってはバンドのメンバーと中野駅周辺をパンツ一丁で全力疾走することで、自我を防衛していたのだ。

ぺこ&りゅうちぇるが愛おしいのは、自我を守るべく20代になってもヘンタイよいこであり続け、頬にチークを塗りたくることによって壁を作り外圧から身を守っているところだ。
2人の面白さをもう少し言うと、社会との接点も保ち続け、塗ったチークの分だけカネを稼いでいるところが、そこいらの自己実現したとぬかすセレブやら某ベンチャーのCEOなんぞより可愛げがあるのだ。

あの頃のルナはその後相次いで両親と死別し、僕らの前から姿を消してしまった。
その後彼女は、トムと結婚しただろうか。
それとも、本名のれなに戻ってしまっただろうか。
万が一僕と再会する時、あの頃は生意気でごめんねと赤らめる頬はチークのようだろうか。
それとも、まだバンドだの映画制作だのキャマダ相変わらずダサいわねと嘲笑するだろうか。
それとも「男はつらいよ」のさくらと博のように自我から解放され、自己実現なんぞより素晴らしき人生を見つけ生活しているだろうか。

今時の若者は、一流企業で立身出世ではなく、起業しCEOになる事を望むようだ。
だから入社してはすぐに退職し、次の道に進んでいく。
起業することで、自我を保ち続けるのだ。
20代の自分を、保ち続けるのだ。
セイジョーよいオトナで、自我を保ち続けるのだ。

そんな彼らに、微笑みをもって言う。
映画「エド・ウッド」を観れば一目瞭然のように、自己実現できるほど才覚のある人間なんぞ100万人に1人もいないのであり、ほとんどの人間は夢ばかり抱えてはいるが実現する才能を持ち合わせてないのだ。
皆が皆願いがかなっていたら、この世間は起業家だらけだ。
全員が芥川賞作家で全員がAKB48で全員がメジャーリーガーだ。
そんな暇があったら、頬にチークでも塗ってなさい。

…そんなイヤミばかり言っている、自己実現からも自我からも追放された馬鹿がやっておるバンド・舞天(ブーテン)のライヴが、もうすぐだ。
観に来てね。

舞天「不忘年会」
2016年11月26日(土)
東京都世田谷区北沢2-13-5
下北沢モナ・レコードにて
開場18時 開演18時30分
前売2000円 当日2300円
前売券の発売開始は10/26(水)より
モナ・レコードの店頭及び電話・メールにて受け付けます。
電話 03-5787-3326 / 12:00~24:00
メールはこちらにて

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2016.11.04