渥美清こもろ寅さん会館にて「男はつらいよ・純情篇」35㎜フィルム上映

写真/録音/文・鎌田浩宮

こもろ寅さん会館で。
素晴らしい上映会でした。
市民の皆さんの力で
フィルムを借りて上映。

興行ではなく、これは文化です!
ビジネスではなく情熱!
(佐藤利明さん)

 

美しい日本、
では
なく。

 

僕はいつも、高速バスで小諸へ行く。
新幹線より遅いけれど、なんだかのんびりしてて、いいんだ。
今は廃線になった、横川から軽井沢の山脈の辺りを、バスで行く。
ごつごつと、角ばって隆起した山頂は、まるで中国の秘境のようだ。
手つかずの自然は、紅葉がもう、始まってる。
何度この道を通っても、飽きない絶景。

最近よく「日本は美しい」と自国賛美の本が売れてるらしいけれど、僕はコスモポリタン(世界市民の意)だから、日本でも日本以外でも、美しい所は無限にあると認識してる。
だって、いろんな国、旅してきたんだもん。

山田洋次監督が「男はつらいよ」の中で映してきた風景というのは、美しい日本、ではない。
この国が、発展と引き換えに失っていく昔ながらの風景を、様々な思いを込めながらフィルムに焼き付ける行為なのだ。
単に日本を美化するのではなく、これ以上郷愁を失っていいのかという投げかけなのだ。

 

2014年10月11日、
毎月第2土曜日恒例の
渥美清こもろ寅さん会館“地下”にて
「寅さん全作フィルムで観よう会」。

今月は、シリーズ第6作
「男はつらいよ 純情篇」。

 

午後2時半開場なのに、もう2時前から続々とお客さんがやってくる。
外で待たせちゃいけねえ。
2時で開場する。
さあ、今日は3連休の初日。
大入り満員になると、いいな。
そしてそれが、寅さん会館復活ののろしとなれば。

常連のおばあちゃんたちに、お礼がてら声をかける。
ミクシィで知り合った、会った事もない人が、名古屋から来て下さった。
「鎌田浩宮 福島・相馬に行く」小諸上映に来て下さった人も、いる。
少しずつ、大きなうねりになってきている。
見てろよ、小諸市長。

今日の上映は、シリーズ第6作「純情篇」
1971年1月15日公開。
85万人以上が観た大ヒット作。

マドンナは、大映から客演した若尾文子
当時は大映のトップスター。
この頃から、マドンナ役には当時1番の俳優を起用するようになった。

他に、重要な役柄で「あまちゃん」の夏ばっぱ・宮本信子が若く美しい容姿で登場。

そして東宝から、森繁久彌も出演。
佐藤利明さんの解説によると、この頃の森繁は「社長シリーズ」「駅前シリーズ」などが終了したばかりで、超売れっ子。
しかし渥美さんとの師弟愛で、出演を快諾したという。

1970年後半から71年と言えば、三島由紀夫の割腹自殺、ウーマンリブ運動、コザ暴動、ケンタッキー・フライド・チキン日本1号店、ジミ・ヘンドリックス死去、大阪万博…。

ん?
会場に至る通路に貼りだされたこの新聞記事は、なんだ?

そう。
本日のスペシャルゲスト、娯楽映画研究家・佐藤利明さんが東京新聞に連載しているコラム「寅さんのことば」です。
僕は高校1年から、ずっと東京新聞を愛読しているので、この連載も毎週読んでいます。

おお!
会場内には、こんなスペースが。
トークショウ終了後、ここには長蛇の列ができたのであった…。

会場内には、このように地元のお店のパンやドーナツ、淹れたてのコーヒーが販売。
もう、立派な映画館だ。

お?
2時過ぎ、佐藤さんがやって来た!

ココトラの皆への挨拶を終え、すぐに駆け付けたのは、初代寅さん会館館長にして渥美さんの大親友、今は亡き井出勢可(せいか)さんの息子さん・竹弘さん!

「タケちゃん!」と再会を喜ぶ佐藤さん。
はい!バター!
…これ、寅さんファンにとっては、すごいツーショットですぞ。

あっという間に2時半、上映前のお楽しみコーナーの時間。
今回の登場は、早稲田大学落語研究会の2人が東京からわざわざ駆けつけてくれた!
1人目は、如琴亭漂泊(じょきんていひょうはく)さん。

2人目は、酔亭夢砕(すいていむざい)さん。
2人の熱演に拍手喝采。
2人は全国各地の老人ホームなどを、ボランティアで廻ってるんだって。
今の若い人は素晴らしいなあ!
僕なんぞの若い頃と言ったら、世の中を斜めに見て…と話したら、我等がココトラ代表・轟屋いっちー曰く
「今は世の中が斜めに傾いているから、純朴な人間ほど、それに向き合って斜めになるんだ」
と、長渕剛の言葉を引用。
いいこと言うなあ。

 

ほどよく
大入りの客席が
あったまった。

さあ、
上映が始まった。

 

今日は子供連れの若いお客さんも多かった。
その小学生の女の子が、終始大笑いする。
なんて嬉しいことだい!

なるほどなるほど。
つぶさに映画を観ていると、確かに1シーンに必ず1カットは笑えるところを入れているんじゃないか。
「あまちゃん」の脚本家、クドカン・宮藤官九郎は売れていない頃、お笑い番組の構成作家をやっていた。
大人計画主宰・松尾スズキからも「台本の1ページに1つは笑えるところを入れろ」と指導されたらしい。
「あまちゃん」にしてもこの「純情篇」にしても、次から次へと笑えるカットが出てきて、ほろっと泣かせる。

この「純情篇」での笑いの質というのは、スラップスティック(ドタバタ喜劇)の要素も大きい。
バナナの皮で最初に滑って転んで見せたのはチャップリンだ、それを引き継いだのはキートンだ、と言われているが、本作の渥美さんも、餅つきの杵を持って歩いていて、それが部屋の柱に突っかかりつまずきそうになったりで、山田監督と渥美さんの笑いの引き出しが半端なく発揮されている。

 

色褪せて、
いるから、
いい。

 

今回松竹から借りてきたフィルムも、相当に色褪せていた。
当時の白黒テレビが映るシーンがあるんだけれど、フィルムが色褪せていてどのシーンもセピア色に近いせいで、白黒テレビだかカラーテレビだか判りにくいほどだ。
でもね、このフィルムが、いいんだよ。
だって、1971年の封切当初のフィルムじゃない?
年月を重ねた厚みがあるんだよ。
綺麗な映像を見たけりゃ、DVDを借りて観ればいい。
大きな銀幕に、色褪せたフィルム、大笑いする老若男女。
これが、いいんだ。

僕の見間違いでなければ、お客さんだけじゃなかった。
さくらと博のアパートに寅さんがお邪魔し、独立の話を聞くシーンで、倍賞千恵子さんが、渥美さんの演技がおかしすぎて、笑いをこらえている。
現場も笑顔が絶えなかったんだろうなあ。

上映が終わり、館内は拍手で一杯。

そして、本日のスペシャルイヴェント。
元松竹衣装係・山田組の一員、本間邦仁さんと、佐藤利明さんのトークショウだ。
以下、ほぼノーカットで音声をアップしました。
ぜひ、お聴き下さい。

 

定住者
と、
放浪者。
生態系
の、
映画。

 

第5作でシリーズ打ち止めのつもりだったが、第6作を製作した山田監督が新たにテーマとして打ち出したのは「定住者(さくら)と放浪者(寅)」というテーマだ、と佐藤さん。
映画の終盤で寅が「故郷ってやつぁよお!」と絶叫する名シーンに、それは集約されているのだ。

今回もう1度当時の台本を読み直したら、森繁さんが台本にない台詞をアドリブで言っている事が判った、アドリブを嫌う山田監督も、採用するアドリブがあるのだ、と解り易く解説する佐藤さん。

先日詩人のアーサー・ビナードさんと話をしたら、「男はつらいよを見ていると疲れる。なぜならこの映画には生態系のように、何から何までが詰まっているからだ」と語ってくれたんだよ、と話す佐藤さん。

佐藤さんの、穏やかで人情に溢れた語り口に、佐藤さんの事を知らなかったお客さんもどんどん引き込まれていくのが、手に取るように分かった。
それは、この後の佐藤さんの著書「寅さんのことば」サイン入り即売会の長蛇の列が証明していた。

上映が終わり、佐藤さんの歓迎会も終わり、僕はくたくたになった体を横にして眠ったのだが、4時間ほどして午前4時には起きてしまった。
昨日の上映会の興奮が、まだ、冷めないのだ。
僕は灯りを点けて、このエプスタインズの原稿を書き出し始めた。
そうしないと、興奮が収まらないのだ。
そのくらい、いい時間だった。

今日は最後に、読者の皆さんへのプレゼントとして、佐藤さんが毎週火曜夜7時5分から文化放送でDJをやっている番組「みんなの寅さん」を聞かせちゃおうじゃないかい。

中盤から、倍賞千恵子さんと前田吟さんがスペシャルゲストで出てくるぞお!
すごいなあ!

それじゃあ、また来月会おうね!

こちら4点は、全て佐藤さんが企画・構成などで携わっている本やCDです。
買ってね!


2014.10.12