キャマダの、ジデン。㉑ちんたろうとしろあき

著・鎌田浩宮

4年2組との楽しく豊かな日々が
再開するなんて、夢のようだった。
学校に行くのが、愉快でならなかった。

父も浮気をやめ、
きちんと仕事をし、
一家に久しぶりの平和が戻っていた。

三軒茶屋小学校のまん前には
いまこの家兼文房具屋さんがあった。
その名も、
「いずみ文具店」。

店番は、いまこのおばあちゃんがやっていた。

背も顔も小っちゃくって
化粧っ気がなくて
いつも割烹着を着ていて
無表情なその顔こそが微笑ましい
そんなおばあちゃん。

おばあちゃんは
亡くなるまで
結構ギリまで
家のお店(文房具屋)の
カウンターに陣取っていた。
看板娘、ってな訳さ。

子供の頃、
いまこの家に遊びに行くと
いつものようにおばあちゃんが店番をやっていて
僕らはおばあちゃんに
いまこを呼んでもらう。

するってぇとおばあちゃんは
「おおい、ちんたろう~!」
といまこを呼ぶんだが、
いまこの名前は
「しんたろう」
で、ある。

いまこは
中学生になっても
高校生になっても
おばあちゃんに
「ちんたろう~!」
と呼ばれて
僕らと放課後の自由を満喫しに
遊びに出かけたのだ。

否、
おばあちゃんなら、いい。

当時20代の若者だった僕の親戚、
うちの母や實おじさんの弟にあたる
健(たけし)兄ちゃんは、
小学生の僕を捕まえて、言った。

「しろあき。しろあきのイニシャルは、Sだな」

いくら学校でローマ字を習う前の僕だって、だ。
「おかしい…
オバケのQ太郎のしょうちゃんは
Sのイニシャルの帽子をかぶっておる…
それに、僕はしろあきじゃないど…
ひろあきど…」

親戚は長野生まれの長野育ちなんだが
家族全員、
江戸っ子でもないのに
「ひ」と「し」が言えないのだ。

その重症ぶりは、
家の玄関の、表札にあった。

【重田博】
おじいちゃんの名前に、
ふり仮名がふってあった。

しげたしろし

……覚醒剤なんかなくても
人間はトベるど!!


2013.01.30