第108話 第3章「煩悩の鐘が鳴り響く」の巻

今年のクリスマスはボクの上空を素通りしていった

そして、酒浸りのまま年末を迎え

ドロドロと脳みそが溶けていくような感覚を覚えながら

そのまま新年を迎えることとなった

 

溶けゆく脳のせいか、幻覚を時折見た気がする

 

サンタのコスプレのカノジョ

でっかいスーツケースをゴロゴロ転がし

ヒースロー空港から成田に向かうカノジョ

締まったままの荒れた店のキッチンに

エプロン姿で片付けをしているカノジョ

 

エトセトラ…

 

鎌倉の街の至る所で除夜の鐘が鳴り響く

鐘の音がやけにうるさい

その音は、耳からだけでなく

アイソトニックにボクの体に染み込んでくるようだ

 

嗚呼、うるさい! 気が狂いそうだ

 

今のボクはまるで

重松清の小説に出てくる主人公のようだ

 

まともなものを喰わずに酒を飲み続けたせいだろう

嘔吐がとまらない

水を飲んでもその水がそのまま胃から逆流して

口から飛び出す

その度に涙が出る

弱り果てた体と心で

水を飲んではそんな嘔吐を繰り返した

 

除夜の鐘が聴こえなくなった

でもまだ夜は明けていない

 

だれかここから救い出してくれ

だれか溺れるボクに手を差し伸べてくれ

だれでもいい、だれでもいいから

 

いや、頼む

お願いだから帰ってきてくれ

ボクがこの世からいなくなる前に…

2013.01.03